第33話 トカゲ族

 囚われの姫こと精霊の解放を目指し、アルベルト男爵やその部下達と話し合いをしているが、中々良案が浮かばなくて、もどかしい。一人の部下から、圧倒的被害者のトカゲ族からも話を聞いてみるのはどうだろうという案がでて、早速彼らの集落へ向かう事にした。

 トカゲ族の血を引く部下を道案内をお願いし、行く前に彼らのことを簡単に説明をしてもらった。それによるとトカゲ族は、既に老人達しか存在せず、老人達が死ねば純血種は絶滅してしまう。自分たちの様な混ざり者にしか若者が存在しないと悲しそうにしていた。

 トカゲ族は昔から砂漠の地の守護神として、不毛の大地で行き倒れた人々を救助したり、盗賊らに対しては武力で撃退したりと、獣人以外にも当たり前に手を差し伸べる良心的な種族だったのに、いつからか彼らこそが<砂漠の悪>であると弾圧される様になった為、姿を隠すはめになった。酷い弾圧の中、それでも砂漠で困難な目に遭っている人に手を差し伸べてきたのに、その優しさもトカゲ族を乱獲するために利用されたのだ。集落もどんどん消えてしまったが、集落跡地はもちろん、砂漠のどこにも彼らの死体は発見されず、今もどこかに捕らえたれているのではないかと、老人たちは一縷の望みを持っている。

 

 動くと目立つので、今回は留守番のアルベル男爵だが、仕事は忙しいし、双子にしっかりと目が行き届かないだろう。例え部下達がいても双子を屋敷に残すのが不安だった為、連れてきたが、その判断は誤りだったかもと後悔した。本体がドラゴンのルーやその共有者の自分はともかく、幼い双子にこの環境は酷だ。

 街では割と過ごしやすい気温だったのに、一歩街から離れて砂漠に出ると、過酷な環境が襲いかかってくる。乾いた大地に容赦なく降り注ぐ太陽の熱で体をじわじわ焼かれ、体力を奪っていく。

 この環境に強いラーダというヤギに似た動物の背に乗っているが、ただ乗っているだけでもしんどい…元気なのはルーだけで、ぬいぐるみのくせに、ショールは日陰になる場所に移動してはぐったりとだらけきっていた。何故コイツはついてきたのだろう…

 適度に休憩を挟んで、しっかりと体を休めることを優先したので、急げは3日程でたどり着くところを5日間かかったが、そのおかげで全員が無事にトカゲ族が隠れ住んでいる小さな集落へたどり着くことができた。


 彼らは、基本トカゲの姿で過ごしていると聞いてはいたが、わざわざ人の姿で出迎えてくれ、長旅を労ってくれる。本当に気の優しい人達で、子供たちもニコニコだった。

 老人と言っても皆とても体格がよく、筋肉隆々の戦士といった佇まいで、誰一人ヨボヨボしている人はいない。

 老人とは…?と軽く自問してしまう。


 気の良い彼らが、歓迎の宴を用意してくれたので、その日はゆっくり堪能させてもらったが、翌日早速、精霊が街に囚われていること、精霊を縛るために多くのトカゲ族が犠牲になっている可能性がある事を伝えて、どうしてトカゲ族がターゲットになっているのか、思い当たることがないか質問してみる。

 彼らは話を聞いて、仲間が生きているの可能性を失いとても落ち込んでしまったので、申し訳なく思う。

 一人が意を決したように顔を上げ、仲間を見渡し、それぞれが頷くのを確認してから言った。

「案内したい場所がある。ついてきて欲しい」

 彼らに案内されたのは、地下の洞窟で外の暑さを一切感じさせない。常に一定の温度と湿度を保った環境らしく、とても過ごしやすい。

 洞窟の奥に小さな泉があり、その周囲は綺麗な緑のフカフカな苔に覆われている。その苔の上に野球ボールほどの大きさの丸い物がポツポツと置いてあるのを見つける。

 それを見つめながら、彼はゆっくりと一族の話をしてくれた。


 トカゲ族は砂漠の命を守る存在と自負している。迫害された他の獣人や迷った旅人、盗賊に襲われた人々など、自分達の力の及ぶ限り手を差し伸べてきた。それが、彼ら愛と敬愛を捧げる砂漠の地の精霊との約束事だったからだ。

 純血種のトカゲ族の寿命は約200年ある。200年に一つ精霊に祝福された黄金の卵が生まれ、彼らの王となる。

 約200年前に王が身罷ったが、その数年後には、ある集落の族長夫婦に黄金の卵が生まれ大切に育まれていた。しかし、ある時集落共々消え去ってしまったのだ。黄金の卵の行方はもちろん不明。しかも、その日を境にトカゲ族への酷い弾圧が始まり、多くの一族が犠牲になった。

 王以外のトカゲ族は精霊の祝福を受けた王の力がないと卵は孵らない。残された若者達が卵を産んだが、黄金の王の卵は産まれず、ただ孵らぬ命ばかりがここに残されているらしい。

 「王さえご無事ならこの卵達はきっと孵る事ができるはずなんだ。全く成長しないが、死んでもいない。卵達は、時を止めた状態でここで眠っている」

 まさか…あの癖の強い精霊がトカゲ族が崇める精霊じゃないよな…と戦慄するも、いやあの精霊は水の精だと言っていたなと思い出してホッとする。砂漠の地の精霊ではないのだから、精霊違いだろう…

 新たな黄金の卵が生まれないのは、200年経たないからか、それとも今もまだ行方不明になった卵が生存しているからなのか、疑問はあるが、あの精霊は、今も縛り付けられているのだから、生存している可能性はゼロではない。

「精霊に愛された種族ですか…王の卵を精霊を縛る結界に組込んだとして、もう200年…縛られた地から動けなかった精霊が、街中なら自由に動けるようになったのは、結界の力が弱まったからだと判断したんですが、もしかしたら、王の生存がギリギリなのかもしれませんね」

 急いて街に帰り、結界を解いてしまおう。

何が起きても知ったことではない。今ならトカゲ族を絶滅から救うことが出来るかもしれないのだ。

 貴重な話をしてくれたことを感謝しつつも、命懸けで使命を果たしてきたのだから、今後は砂漠を甘く見た愚かな人間共は放って置いても竜が許すから問題無いとアドバイスして村を出た。

  

 次に会う時は、未来に憂いている彼らの表情が喜びでほころぶような知らせをもってきて、トカゲの赤ちゃん達が孵るところを一緒に見られるといいなと思う。

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