第34話 まず行動のチビドラゴン

 トカゲ族の隠れ里から街に急いで戻ってきたが、街を覆う壁を見上げ、さて、どうしたもんかと悩む。この壁も多くのトカゲ族が生贄になり結界を作り上げているのだろうが、肝心の王の卵がここに一緒とは思えない。何しろ精霊が加護をしているのなら、魔力装置として優秀な代物だ。結界の基礎となる部分を担っていると睨んでいる。しかし、そうなると街の中心部を破壊しないと王の卵を救いだせないことになるので、街を大破壊するハメになりそう…

 事件の首謀者達なら、そんな目にあっても自業自得だが、当事者達はとっくに墓の下にいるだろうし、その子孫やその他の市民に至っては、なんのことやらサッパリわからないかもしれないのに、いきなり街を破壊されるなんてトバッチリ以外の何物でもない…。

 でも、その過去のせいで絶滅の危機に瀕しているトカゲ族にとっては、現在進行形の話だし、この街の市民達がこの地で安定して暮らしていられるのは、トカゲ族の犠牲があるからだとしたら、償いの意味も込めて街の市民もある程度、犠牲を払うのは当たり前にも思える。

 悩んだが、もしかしたら王の卵は、実験と称して、別の場所に持ち出されている可能性もあると気がつき、ルーに街に卵の存在が確認できるか、問いかけた。

「ルーこの街から王の卵の気配ってわかるか?精霊の加護を持った特別なトカゲ族の卵なんだけど…」

 ルーがキョトンとこちらを見上げてから、街へ視線を移す。じーっとじっくり見渡していく内に首がドンドン傾いていくので、後ろからそっと小さな体を支える。ほとんど水平になったところで、ぐりんと元の位置に戻りパッと笑顔で振り向いた。

「うん!あったよ。まさせて!るーがとってくるね」

 そう言って、サッとドラゴンに戻り、アッと言う前に飛び去った。

 …え?待って!と追いすがる様に手をのばしたが、ブレーキが壊れた暴走チビドラゴンは目的地に一直線で、決して後ろは振り向かない。

 その止める間を一切与えないチビドラゴンの素早さに戦慄しつつ、ギュッと固く目を閉じて項垂れる。これはもう、賽は投げられたりと、飛び去った方向からすざまじい轟音が鳴り響くのを聞き諦念した。


♢♢♢


 一緒にいたアルベルト男爵の部下達は、いきなり消えた幼児に驚いていたが、鳴り響く轟音と土煙に襲撃かと一気に警戒態勢に入った。今や街中でも魔獣が出現するから気を抜くなと叱咤している彼らに(アレはウチの子の仕業なんです…)とも言えず唇を噛み締めていると、元凶が意気揚々とソフトボール大の黄金の卵を持って飛んで帰ってきた。

「あったよ〜金玉」

「…ルー君、黄金の卵です。金玉はやめなさい」

 小さなトカゲサイズのドラゴンには大きすぎる卵を抱えて飛んできて、サッと人型をとるとはいどうぞと手渡してくれた。

「ありがとう。よく見つけられたね?どこあったの?」

「うんとね。おうちのしたにあったの。おうちちょっとこわしちゃった」

 てへっと可愛らしく誤魔化すが、騙されないぞ…あの轟音はちょっとでは済まないはずだ。

「…誰か怪我した人とかいる?誰も死んではいないよね?」

 テレテレしていたルーが、目を丸くして「うん」と答える。その様子がコイツは何当たり前の事を聞くんだ?と不思議そうなので苦笑いが漏れる。ルーは基本的に、悪人以外には危害を加えたりはしないが、幼児特有の正義感が発動されていないとも限らないので確認が必要なのだ。

「怪我人なしで、お家が壊れただけなら上出来だね。卵も無事に取り戻したし。ルー君よくできました」

 褒められ待ちでもじもじしていたルー頭を撫でて、ギュッと抱きしめると嬉しそうにエヘヘと笑って、うんと元気に返事をしてから卵に注目し始めた。

「あかちゃんはやくうまれないかな…」

 ワクワクしながらそっと卵を撫でている姿からは、たった今、街の一部を破壊してきたとは想像つかない。その為、部下の人達は全く状況が理解できず、混乱が激しい。

 何て説明したらいいかわからないので、魔獣出現では無いとだけ断言して、街の男爵邸へさっさと向かう。こういう時はすっとぼけた方が案外上手く丸め込めるのだ…


「アンタね!一体どういう教育してるの?!いきなり大型の攻撃魔法ぶっ放すドあほがどこにいるっていうのよ!!」

 街に入って直ぐに真っ黒にコゲた精霊に見つかってしまい、散々怒鳴りつけられて、今もひっきりなしに文句を言われ続けている。

 ルーは確かに黄金の卵を救い出してきたが、その場所には囚われていた水の精霊もいてのんびりくつろいでいたのに、遠慮なく攻撃魔法で建物ごと結界をぶっ壊したらしく、水の精霊は危うく存在が消えかけたと怒りがおさまらない。

 わざわざ姿を黒くコゲさせて、髪の毛も爆発させる位表現に凝っているので、結構余裕なんだと思うが、その怒りはごもっともなので甘んじて神妙に聞いていたが、ルーは精霊の姿がツボにハマったのか、ケタケタ大笑いしていて全く反省の色が伺えず、精霊のイラつきはMAXになっている。

「人畜無害って顔してとんだ爆弾小僧ね!ドラゴンがこの世界を壊してどうするのよ!馬鹿なの?」

 精霊を認識できるのは、自分たちだけなのでチラッと視線を送り、悪目立ちしないよに小声で「ごめんなさい」と謝って行動を急ぐ。

 突然、領主の屋敷が木っ端微塵に吹き飛ばされたので、街は当然パニックになっている。どこから何のための攻撃かわからず、みんなが混乱していて、街の外を目指して逃げ出す者や兵士で溢れているさなか、アルベルト男爵の貧民街近くにある隠れ家へ何とかたどり着き一息つくと、待ってましたとばかりに精霊が目の前で仁王立ちして浮かんで目の前に現れた。

「ちゃんと説明しなさいよね!」

 目をすがめて睨みつけられたので、トカゲ族で聞いてきた内容を伝えて、卵の存在を感知したルーが救い出すために行動に出たのだと説明する。結界の重要な部分を補っていた黄金の卵がなくなったので、水の精霊を縛り付ける力もかなり弱くなったと思うので、自力で抜け出せますよね?と問いかける。

「…不本意だけど、確かにもうこの地から離れられるわ…こんな街中でとんでもない力技を披露するんだもの、何でアレで屋敷にいた人たちが無傷なのか不思議だわ…というか、なんで私にはその気遣いをしないのよ」

 ルーを見ながら呟いたので、質問されたと思ったらしく満面の笑みで小首を傾げつつ

「だってしなないでしょ?」

 …はぁ〜と脱力して膝をつく精霊に、ご愁傷様と心で呟きルーを連れてそっとその場を後にした。


 ルーが救い出してきた黄金の王の卵をそっと綿をしきつめてフカフカにした籠に置き、様子を確認する。とても弱く淡い光をうっすら卵自体が発しているが、このままでは自力で孵る事はできないと判断し、魔力を与える事にした。ルーと共に卵にそっと手をあて、魔力で包み込む。元々ドラゴンの気は自然そのものだ。卵がそれを上手く吸収できるように少しづつ、そっと優しく流していると、徐々に卵の発する光が強くなってきた。魔力供給をたまにしてあげれば、無事に孵ると確信でき、ルーと一緒に歓声を上げた。


 ルーが卵にそっと語りかける。大丈夫だよと…

 卵の状態で辛いことを長い間たくさん経験してしまったから、もしかしたら殻の外に出るのが嫌で怖いかもしれないが、どうか一歩踏み出して幸せの光を浴びる日々を過ごして欲しい。たくさんのおじいちゃんとおばあちゃんの仲間達も待っている一緒に喜びや希望溢れる日々過ごしたいと願って…

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