第35話 領主

 奪還できた黄金の王の卵をルーや双子と共に嬉しげに見ていてスッカリ忘れていたが、今この街は突然の攻撃によって領主の屋敷が大破した事で街中がパニックになっている。街の様子を見に行っていた人たちが戻ってきて、白昼大胆に行われた犯行に兵士たちが走り回って犯人探しと目撃者探しをしていたと堅い表情で話し合っている。

 でしょうね…と明後日の方向を見ながらこの状況をどう乗り切るか考えるが、全く名案が浮かばない。ドラゴンの姿は人に見えないのをいい事に、ルーはかなり好き勝手にやったらしく、聞き漏れてくる街の状況に頭を抱える。

 突然、人気の無いところから火の手が上がり、どうやってっも消えない炎に使用人達が四苦八苦しているうちに、建物の一部が吹き飛ばされたり、炎が別の所からも上がったりと屋敷の人が全員外に出た瞬間に、一気に下から屋敷が木っ端微塵に吹き飛んだらしい。

 意外と頭を使った攻撃を笑顔で実行しただろうルーが恐ろしい。あどけない幼児のくせに侮れない。

 かつての領主が、褒められない方法で精霊を捕らえ、その力を利用してきたのは間違いないが、現領主に関してはどの程度この事を把握していたのかは不明だ。ただ、結界の維持に生贄が必要なのは間違いないので、全く知りませんでしたは通用しない。そうなると魔力のある子供の行方不明ももしかしたら領主が関係していた可能性もあるのではないかと考え、微妙な気分になる。

 例え本当は悪人だったとしても、領主は竜の英雄の名を利用してその地位を盤石してきた。市民からの信頼も厚く、その為、彼らは今回の屋敷爆破事件も犯人への怒りをより強く持って正義の名の下に魔女狩りの様な悪質な行為が正当性を持って行われないかと不安になるし、その犯人に知り合った人が巻き込まれたら大変だ。特に人相の悪さを利用して、悪名を轟かせているアルベルト男爵には、敵が多いしここぞとばかりに追い落とそうとしてくるかもしれない。どうしようと悩んでいると、悪い予感が当たってしまいアルベルト男爵が、首謀者として捕らえられたと屋敷の部下の人が駆け込んできた。

「主人は奴らは、こちらの話聞き真相解明に力を尽くすとは思えないから、なるべく早く全員船でこの地から脱出しろとと言われた」

 彼らはみんな特殊だから、常に危機感を持ち、いつこういう目にあっても大丈夫な様に話し合っていて、その際の行動もシュミレートしていたらしく、淡々と準備を開始するが、やはり動揺は隠せていない。どの顔も焦燥を浮かべていて悔しそうにしている。

 申し訳なくって泣きそうになるが、根性で堪えて双子を彼らに預けたら、ルーを抱えて水の精霊を探す。

「ルーここにまだ水の精霊はいるか?いたら呼んで欲しいんだけど」

 バタバタ走りながらあちこち視線を流して探すが、見つからないので最終手段にでたら、その声が聞こえたのか、慌てて水の精霊が姿を現した。

「ちょっと、勘弁してよ。この子に頼んだら私また酷い目にあうんじゃないの?」

「いた!よかった。すみません、あなたの王子様が今大変な目にあっている様なので力を貸してほしんです」

 文句を言っている精霊に頭を下げて協力を要請すると不審そうにしていが、男爵が爆破事件の主犯格として取られられたと伝えると慌ててそれを早く言えと怒られた。

「協力って何をしたらいいの?」

「あなたの力で男爵をある程度は守れませんか?今なら、自分の力を自由に使えますよね?」

「…そうは言っても私の力もだいぶ弱まったし、どこまでできるかは保証できないわよ?」

「時間を稼いてくれれば十分です。これから領主の欺瞞を暴いてきます。全く証拠もなく犯罪を犯すなんてできるはずがないんですから、それを探して清廉潔白な人物ではないことを知らしめてみせます」

 精霊は物凄く疑わしい目でこちらを見つめてくる。

「アンタ達が動くのよね?それってもっとややこしい事になるからやめなさいよ」

「そ、そんな事ありませんって!…たぶん」

「…既にアンタ達のせいで私の王子様はとんでもないとばっちりを受けてるのよ?そこをちゃんと理解している?」

 精霊のいつにない神妙さにショボンとしてしまうが、領主の本性を暴かないと、濡れ衣でアルベルト男爵は生きて街から出ていけないのだけは確かだ。下手したら領主の罪まで被せられて処刑されてしまうかもしれない。だったら、一か八かの賭けに出てるしかない。

「とにかく急いで男爵の下へ行って下さい。多少の無茶はしますが、十分に気を付けます」

 精霊は最後にもう一度釘をさして渋々だったが、この場を去った。

「ルー領主の屋敷でさっきの精霊以外で囚われていた人はいなかったんだよな?」

「うん。でも、でっかいとかげがいたよ」

「え?本当に?そのトカゲって生きてた?今もいるかな…」

ルーは首を横に振った後に、う〜んと悩みだした。

「あかちゃんのそばにいたの。るーはけしてないもん」

 卵の側にいたのなら殺された両親なのだろうか?生贄にされ肉体は朽ちたが、意思だけは残っていて卵を見守っていたのかもしれない。幽霊の様な存在になって今もいるなら、話を聞くとこができればかなり有利になりそうだ。急いで卵の所へ戻って魔力をより多く目と耳に集中させて辺りをよく観察する。本当にうっすらだが、卵の側を柔らかい光が漂っているのが感じられた。

「ルーもしかしてあの光がトカゲなのか?俺にはトカゲの姿には見えないんだけどな…」

「う〜ん。るーもトカゲにみえない…でもあかちゃんのそばにいるからそうだとおもう」

 ルーが結界を壊したことで、彼らの魂も自由になったから逆に力が弱くなって姿が見えなくなってしまったようだ。これだけ集中しても姿も見えないのでは、どうしようもないとガックリしていると、フワッと光に包み込まれその瞬間に別の映像が目の前に現れて意識を持っていかれた。


 それは、映像が次々と流れていき、まるで早送りして見ているようだった。


 一人の女性が盗賊に襲われて砂漠で立ち往生しており、それを助けたトカゲ族の男性を人間と勘違いして恋をした。

 トカゲ族の男性は、街まで送り届けたらサッと姿を消したが、その後女性は執拗にトカゲ族の男性を探し、わざと砂漠で死にかけて彼に救助されようと、無茶をし続けたため困惑したトカゲ族の男性は、自分が人間ではなく獣人であり、妻子がいることを打ち明け、今後は砂漠にくることを止めるように説得した。しかし、女性はそれを聞き騙されたと逆上して自分を騙したと男の種族、トカゲ族そのものを憎み執拗に追い詰めて絶滅させようと兵を集めたのだ。

 それができたのは、彼女が村の長の娘で、彼女に恋をした旅人が魔力も多く武力に優れた男性だったという不運が重なったからだ。涙ながらに悲しむ女性の姿に胸を掻き毟られ、女性をこれほどまでに傷つけた存在を恨んで、トカゲ族が悪の獣人でこのままにして置けば、ここらの人間も襲われると村人をそそのかした。しかも逆に彼らの魔力を利用すれば、辺りを平穏で過ごしやすい場所に変えられると豪語し、その知恵を自分はかつて仕えた竜の英雄に教わったと嘯いた。

 ターゲットになったトカゲ族の男性には、王の卵が生まれて村中で祝っていた所に人間達に襲撃され卵を奪われ、訳が分からないまま拘束された彼らはやがて街となる場所で魂を縛られ命を失った。

 黄金の卵はトカゲ族にとって価値のあるものと知った男はそれを利用して次々とトカゲ族を捕らえ生贄にしていった。トカゲ族集落を粗方潰した後に黄金の卵を結界の中心に置いたその時、この地に大きな魔力を感じ精霊を捕らえることに成功した。その後結界の強化の意味を込めてトカゲ族の死体を壁に埋め込んだ。

 その後、男はトカゲ族の男に恋していた女性と結婚し、たまたま捕らえることに成功した精霊を竜の英雄の従者で優秀だったから授けられたと宣言したせいで、その地を治めるようになった。

 定期的に結界の強化の為に生贄をが必要になったが、それには、隠れたトカゲ族を誘き出したり、魔力多い人間もこっそりと利用された。時が立ち、街が帝国に支配されるようになった時も、竜の英雄の名は利用できると判断され、帝国の貴族の女性を娶ることで、男の子孫が街を治めることが続く。 

 領主の地位に立つにあたり親から子へ精霊の結界の存在は、口伝で受け継がれ実行されてきた。すでにその頃の男の子孫は竜の英雄の従者だったから精霊を下賜されたと嘘を真実と信じ込んでいたが、子孫の自分たちには精霊の加護を受け取るだけの器がないが、選ばれた存在の自分達には許された行為で、結界の維持のための生贄は必要な犠牲だと割り切り、非道な行いも躊躇なく実行してきたのだ。

 

 映像が途切れ意識が鮮明になると、一人の思い込みがとんでもない悲劇を引き起こし、時間をかけて嘘を真実と思い込んでいく姿は滑稽なのに狡猾で不快感を強く感じさせた。

 これは彼らの記憶なのだろう。自分たちが受けた仕打ちを見せて伝えたのは、真実を知ってほしい気持ちと、今もまだ壁に埋め込まれてとらわれている一族の解放も願っているからだ。怨みよりもただただ哀しいのだと訴えかけられている。

 この街の存在そのものが歪んでいて本来の形ではない。ならば正しい形にするだけだ。

 

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