第4話説明求む 2
少しの休憩を挟み衛藤の説明は続く。
「さて続きだけど、姿は見えなくても、ドラゴンの存在を人々は信じているから中には、神として崇めている人なんかもいるようだよ。信仰しても御利益は無いけど、未知の感覚を恐れ敬う事は大事だよね」
「ないんですか?御利益」
「うーん。大金を手に入れたいとかこの戦に勝たして欲しいとかは全くの的外れだけど自然災害なんかは御利益ってことにしても良いかもね」
「と、言いますと?」
「将さんは四獣ってわかります?ほら青龍とか朱雀とか」
「はい。確か東西南北の守神ですよね?」
頭に龍や白虎を浮かべながらうろ覚えの知識を引っ張り出す。
「そうそう、それ!ドラゴンの存在はそれに近いと思います。最古の竜とこの幼竜以外の4頭は箱庭のそれぞれの場所を守護してるんです。海を守護している水竜、山岳地帯全般を守護している火竜、大地を守護している土竜、深い森と空域を守護している風竜。東西南北でも良いんですが、彼等の得意分野を見る方が楽しいらしいです。」
「4頭で守護ですか…この世界って案外、小さいですね。地球の日本位の大きさですか?」
「それがね。多分だけど地球と同じか少し大きい位だと思うんだよね」
「ええ?そうなんですか?それを守護するのが4頭って無茶なんじゃ…ノーマークの所ありますよね?」
「うーん、俺も説明しにくいんだけど、ドラゴン達は自分を構成する自然の気に密接していて、エネルギーの量や匂いの変化に凄く敏感なんだ。それに精霊達もいるから、どんなに離れていても問題が起きたら伝わる。そこを根城にしている種族では対処できないようなら出向くらしいよ。滅多にないけど創造主案件なんかはエンシェント経由になるね」
「精霊もいるんですね。まるでゲームみたいだ」
頭によくあるRPGをうっすら浮かべながら呟くと、衛藤が身を乗り出した。
「そうでしょ?!僕もそう思うよ。」
「では、ここはゲームの世界なんですか?」
世界を渡った当時、ゲームをしていなかった身としては承諾しかねるので懐疑的に衛藤を見る。
「そうとも言えるし、違うとも言える。」
衛藤の答えに胡乱げに顔を顰めると彼はごめんと謝りながら説明を続ける。
「そんな顔しないで、将さんは箱庭に来た時、死にそうな程の苦痛を味わったでしょ?
僕もそう、まるで身体を造り変えられるみただった。そしてそれはハズレてはいない。だって僕、今はこんな外見だけど本来は典型的な日本人って見た目だったもん。」
「えっ!そんな嘘でしょ?何処からみても白人なんですが??日本語ペラペラだし違和感はありすけど、見た目が変わるって何だそれ」
転移だけでも正直納得できないことなのに、思ってもいなかった新情報に動揺が隠せない。
「……うん。わかるよその気持ち。でも本当なんだ。これはエンシェントに言われたんだけど、魂の共有化をしたからなんだ。ドラゴンは人化する際のデータを共有者から得る。その際ドラゴン本来のデータが共有者の人間に渡り一部がこの世界に違和感が無い様に書き換えられたと思われる。外見以外には言語とかね。魔法の適応能力も備わる。世界を渡る苦痛も合わさるから死なないのが不思議な程の強烈な痛みになるんだよ」
「あの死んでないのが不思議な程の酷い苦痛はデータの変更も含んだと言うんですか?じゃあ、俺の見た目も変わってる⁇」
自分の顔を触りながら衛藤を伺うと鏡を渡された。
恐る恐る鏡を覗くとそこに映し出されたのは見慣れた愛すべき自分の平凡な顔ではない。
生まれてから染めた事のない黒髪は深みのある濃い赤毛へ、奥二重の黒目で凹凸のないノッペリした印象だった顔立ちは彫が深く青い目の濃い顔へ、陽に焼けても黒くならず赤く腫れるだけで真っ白の肌は健康的な小麦色になってた。
「誰?!怖い‼︎原型とどめてないじゃん!酷くない?元の要素皆無なんですけど!」
余りの事に鏡を放り出し絶叫する。
衛藤は物凄く深いため息を吐き、わかると呟く。
「僕も同じだったよ。受け入れがたいよね。最初は鏡を見るたびにビクついたし。」
「なんでだよ。俺の平凡な顔を全否定してくるなんて流石に酷すぎないか?いいじゃん平凡だったけど、ある意味平均的な美醜だったぞ?」
「この世界だとドラゴンの要素の方が強くなるんだよね。どことなくこの子と似てるでしょ?」
衛藤は寝ている子供を示しよく見るように促す。
もう一度鏡を見て自分と子供を見比べると確かに血の繋がりを感じる見た目だと気づく。
「魂の共有か…その割には、俺の方がだいぶ呑まれてません?人間ていうこと位しか残ってない。て、ゆーか俺の顔、何となく幼く見えるんですけど」
鏡をよく見て27歳の年相応だったのに、今は大体10代後半位に見える。
「そうだね。この子は2歳位か少し喰われたんだね」
「はぁ〜もうこの際それ位は些細なことですね。たいした事ないな。」
「受け入れが早くて助かるな〜。ね?なんかゲームみたいでしょ?でも、この世界の様な設定のゲームなんて記憶に無いし、そもそも僕は、転移時ゲーム事態やってなかったんだけどね。」
「俺もですね。箱庭・最古の竜・創造主。
ありそうな設定でしょうが、俺はゲームには興味なくて、本とか読むほうが好きだったからな。有ったとしてもわからん。」
お手上げと降参ポーズをとる。
「こっちに来て200年。色々見てきたけど古代から中世前半位のヨーロッパの文化の要素が強い剣と魔法の世界って感じかな?人間だけでなく他の種族も存在しているけど、どこもお互いに微妙にギスギスしてる。」
「あの、元の世界には戻れないんでしょうか?」
将の質問に衛藤はう〜んと考え込んで、話すか迷うように一旦、口を開いて閉じた。
「答えを知ってるならお願いします。教えてください」
衛藤に向け頭を下げて懇願する。
「…実は僕にも分からないんだ。僕はある事情から元の世界に帰りたいと思った事が無いので帰る方法も探してない」
「元の世界に未練は一切ないんですか?帰ろうと思わないって随分キッパリ言い切るんですね。」
不審を隠さず尋る将に衛藤は悲しそうな苦笑を零し答える。
「そうだね。簡単に言うと元の世界は僕にはとても生きるのが苦しい所だったんだよ。問題から目を背けて逃げだしただけかもしれないけど、箱庭に来て初めて楽に息ができるようになったんだ。生きるのが楽しいと思えるのはすごく嬉しくて素晴らしいなって」
痛みを堪えるようだった表情がどんどん明るくなるのを見るにつれて、ああ、この人にとって既にこの箱庭こそが生きる場所なのだと確信する。
(別に何が何でも戻りたい訳じゃ無いから方法がないならそれでいいけど、あるかもしれないなら探しておくことも大事だよな)
万が一の事を想定して動くのは危機管理上当たり前だと心にメモをしておく。
「すみません。衛藤さんの言葉に嘘がないのはわかりました。俺はただ耐える事より逃げる方が気力や体力を使うと思ってます。現状を変えるには力が必要ですからね。この世界で人生を謳歌できているなら、それでいいんですよ。」
間違ってないと笑顔で肯定する将に衛藤も嬉しそうに笑った。
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