第3話詳しい状況説明を求む 1

 最古のエンシェント=ファロンは、さぁ、説明は終わったとばかりに黙り込み此方を見つめる。

 (えっ、まさかこれで説明終わりなの?)

 混乱の余り黙り込んでドラゴンを見つめる。

 緊張感が漂う沈黙が、その場を支配する。

 すると呑気な声が割って入りその緊張感をぶっ壊した。

 「エンシェント駄目だよ。それじゃ説明たりないって、彼、混乱してるよ。」

 いつの間に現れたのか、1人の青年が子供を布で包み込んで抱き上げながらドラゴンを嗜める。

 <む、そんな事は無い。この人間は自分の役目を理解しただろ>

 無茶振りもいい所だが、新たに現れた人は、呆れたようにドラゴンを見上げるとため息をつき自己紹介をはじめる。

 「初めまして、僕は衛藤慎吾えとうしんごです。君と同じように転移してきた日本人だよ。」

 突然現れた、この全く日本人に見えない金髪碧眼青年の日本人主張にも驚くが、それでも少しは安心するし、人懐っこい笑顔での挨拶と、同じだと言われて仲間意識も微かに芽生える。

 (ハーフなのかな?それにしては白人要素が強くないか?でも俺以外にもいるってなんか安心するよな)

 「あ、あの初めまして小鳥遊将です。その、衛藤さんはこの不可思議ファンタジーの状況を詳しく説明できるんですか?」

 「不可思議ファンタジー!!あっはっは確かに!でも良かったよ。こんな訳のわからない状況をそんな一言で片付けられる肝の据わった人ならこの子を安心して託す事ができる」

 笑いながら太鼓判を押され戸惑いながらもその反応に少し嬉しく思う。

 「えっと、その、そうですか?」

 「うん。まだ生まれて1年も経ってない幼竜なんだよ。それなのに僕から取り上げて外界にだすなんて酷いとおもわない?」

 憮然としつつも腕の中の子供とおでこをくっつけあやす姿からは子供への愛情が伝わってくる。

 子供もきゃっきゃと笑い喜んでる。

 不覚にも和む光景に反射的に肯定してしまう。

「そうですね。天使の様に可愛いから誘拐とか本当に心配ですよね」

 「でしょ!?そうなんだよ!わかってくれる?だから君には申し訳ないけど、これから僕が説明することをしっかりと頭に叩き込んでこの子をしっかりと守って貰いたいんだよね」

 勢い込んで、迫る衛藤に腰が引けながらもお手柔らかにと宥めにかかる。

 何せ未だに腰を抜かした状態で座り込んでいるのだ。

 「俺、そんなに頭がよくないし、いまだに状況がよく飲み込めてないから理解できる範囲でゆっくりとお手柔らかにお願いします」

 スパルタ式で叩き込まれては堪らないと一応、念押しもしておく。

 「あ〜うん。とりあえず此処じゃあなんなので場所を移動しよう。エンシェントもその姿だと邪魔くさいから人化してね。さぁ、こっちだよ」

 邪魔と言われ憮然としつつも衛藤の言う通りに人化し、金髪碧眼のどえらいイケメンになったドラゴンに驚くが、取り敢えず彼らの後をついていく。

 

 行き着いた場所は掃除の行き届いた清潔感のあるこぢんまりした部屋だった。

 置かれた家具なども使い込まれた温かみがありとても居心地がいい。

 ドラゴンはドサっとソファーに座り、お茶と一言呟く。

 「たっくしょうがないな〜。将さんも座って寛いてくださね。今、お茶を用意しきてきます」

 衛藤は、ドラゴンの態度に呆れながらお茶の支度をしに部屋を出て行った。

 恐る恐るソファーに座り、そっとドラゴンの様子を伺う。

 神々しい程の見目に圧倒されつつも、その造形を観察する。

 (あーもう、眩しすぎて目が潰れそうな美形のイケメンになるドラゴンなんてアニメかよ)

 the平凡を体現していると自負する外見を持つのでやっかみの感情が視線に乗ったのか、ドラゴンがこちらを見て、眉を吊り上げる。

 (そんな仕草も嫌味なくサマになるのはイケメンの特権です)

 曖昧に微笑み視線をずらすと、ジッと見つめていたらしい子供と目が合いニコッとされる。

 (…この子は、可愛いすぎないか?胸がほんわかするぞ…今まで子供と接する機会がなかったから気がつかなかったけど、俺って子供好きだったのか?)

 微笑み返し小さく手を振ると、満開の笑顔を返される。

 「おや、もうすっかり仲良しかな?」

 お茶の支度を整えた衛藤がわらいながら部屋に入ってくる。

 「気に入ってくれるといいけど、僕の手作りのクッキーだから口に合わなければ残していいからね」

 仕事帰りで夕飯もまだの為、腹が空いていたことを思い出し、だされた菓子を遠慮なく頂く。

 「いえ、凄く美味しいです。何個でも食べれそうだし紅茶もとても香りがいいですね」

 出された紅茶は香り豊かだし、クッキーはサックとして微かに柑橘の爽やか香りを感じる。

 衛藤と何気ない雑談を交えながら、地球の事やどうやってこの世界に来たかを話た。 

 居心地の良い温かな部屋で美味しいティーブレイクをしながら色々と振り返っていると緊張も解け自分の置かれた状況にも冷静に受け止められる気がしてきた。

 「衛藤さん、ありがとうございます。だいぶ冷静になりました。今なら大丈夫です。受け止められそうなので色々教えてください」

 「…よし。長い話になるよ。まずは僕の事から話そうか…」

 衛藤は、紅茶を一口飲むと一息つき、ゆっくりと口を開いた。

 「僕と将さんはそんなに年が離れていないようにみえるでしょ?実際、将さんから聞いた日本の様子は僕の知るものと差異が無い。多分ほぼ同じ年代から転移したと思われるけど、僕がこの世界に来てもう200年は経っているんだよね」

 自分よりいくつか年下に見える衛藤が200歳を超えているらしい。

 「……生きてますよね?」

 「うん。これはあくまで僕の仮説だけど、時の流れの速度が地球と箱庭エデンでだいぶ違うらしい。乾燥地と熱帯雨林との総雨量位の差がありそうだ。だから箱庭で200年過ごした僕と将さんで知っている情報に差異がないんだと思う」

 「なるほど、確か地球とは存在している時空間が違うといってましたよね」

 最古の竜の言葉を思い出しながら相槌を打つ。

 「そうだね。そして僕が今も生きているのは最古のエンシェント=ファロンが僕の魂の共有者だからだよ。ドラゴンは寿命がない、共有者はその恩恵を預かったんだろう。共有者の存在は通常、生まれて間も無い幼竜時でないと感じ取れない。だけど最古の竜は創造主自らが作り、生み出した存在。その彼が時空を越える為の力が安定して発揮出来るまでに約1000年位かかったらしいよ」

 当の本竜はオヤツを食べたら眠くなったのかソファーにもたれながらうつらうつらしている。

 (…ヨダレが垂れているし、威厳の欠片もない、この格好を見ると、とてもそうは見えないが大分凄い存在らしいな。)

 衛藤は視線から将が呆れているのを感じ取ったのか、苦笑いしながらも最古の竜のヨダレを拭いて、そっと上掛けを掛けてあげる。

 「魂の共有者はお互いの力を分け合う事でより強く結びつき力も強くなる。ドラゴンは肉食竜に見えるけど、その身体を構成する要素は自然のエネルギーであり本来は飲食すら必要としないんだ。」

 「へぇ〜よくファンタジーで見かけるドラゴンは人や動物を襲うし討伐の対象にすらなりますよね。ドラゴンを倒したら勇者扱いみたいな」

 「そうだね。この世界でもワイバーンのような竜のなり損ないもいて討伐や国によっては馬などの代わりとして調教して軍で利用もしているよ。でも、本来の意味でドラゴンと位置付けられるのは最古の竜と彼の息子達だけだ。だからこの世界のドラゴンは合わせて6頭だけだよ。」

 「少ないですね。息子達って、あれ?どうやって生まれてるんですか?」

 「実はね、最古のエンシェントにのみ新たな竜を構成する能力が備わっていて、体内で自然のエネルギーと自分のエネルギーを混ぜ合わせ命を生み出す事ができるんだけど、自分の気をだいぶ使うからか、かなり力が弱まるらしく今回生まれたこの子以降はまた暫く無理だろうね」

 衛藤は父竜と同じく手にクッキーを握りしめたまま寝ている子供からクッキーを取り上げて愛おしそうに頭を撫でる。

 「それと、ドラゴンは巨大なエネルギーで構成されているから、通常は共有者しか姿を見ることは出来ない。まぁ、極一部のとても感の良い人間は存在を感じる事が出来るみたいだけどね。」

 衛藤は悪戯っぽく微笑いながら、ちょっと休憩とお茶のお代わりを用意し始めた。

 その間に情報を整理しないと頭がパンクしそうだ。

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