第37話 もう少し一緒に
瓦礫の山に唖然とし、顎が外れそうになっている精霊から視線をそらして言い訳をする。
「ちょっと、力が入っちゃったんだよね…悪気はないんだ…」
「馬鹿なの?!アンタ達が街を破壊してどうするのよ!いくらなんでもやり過ぎ!」
ギッと睨みつけて大騒ぎしだした精霊の言い分にごもっともです…と神妙にしていても隣で楽しげに尻尾を振って未だに浮遊している淡い光と戯れているチビドラゴンがいるので全く許してくれず、すでに2時間くらい同じ文句を言われている。
精霊はアルベルト男爵を愛と気合で守っていたのに、俺たちが好き放題していた事実に怒り心頭なのだ。
「あれだけ言ったのに、信じられないわ!この後の処理を一体誰がすると思っているのよ?絶対私の王子様が寝る暇を惜しんで働くはめになるわ!いくら囚われの魂を解き放つためだといえ、これじゃあもう街の防衛は機能しないじゃない」
「でも壁を破壊しないと魂は解放されませんでしたよ?無理やり生贄にされた被害者達をずっとそのままにしておくわけにはいかないじゃないですか?壁ならまた造ればいいんですよ!今度は真っ新のやつを!大体街の防衛と言いましても魔獣は閉ざされた街中だって出没するんですよ?敵は外から攻めるとは限りません!」
胸を張って自論を展開する。実際ここ最近では外敵から守っていたというより、精霊を外に逃さない為に存在していたようなものだ。トカゲ族の数が減った上に隠れ住んでしまったので、領主はやもなく生贄にするために外から被災者達を受け入れていたらしく、まだ新しい遺体は生々しい姿をしていて、それを見た市民の動揺は酷かった。
貴族街を取り囲む壁が一部残っていたので、兵達が恐る恐る壊すと、小さい子達の新しい遺体が幾つか発見された。それらを見た行方不明になっていた子供達の両親達や小さい子が大好きのアルベルト男爵の嘆きは深かく重かった。
領主を捕らえようにも、逃足が異様に速く何処に行ったのかも検討がつかない。屋敷も大破して壁も壊れた今、市民の嘆きと怒号が聞こえる街に未練はないのかもしれない。アルベルト男爵は領主を追うための兵より復興が先と判断し、街に残っている有能な人物達を短時間でまとめ上げた。強面の極悪人面なのにできる男の本領発揮だ。双子やルーにメロメロになっていた面影が全くないのが逆に面白い。
部下の人達と共に外に避難させていた双子やロシナンテとお留守番だったロボとも再開できた。彼らの事をすっかり失念していたので無事の姿をみてホッと一安心。今はみんな側にいる。
いくら人目につかない場所だとしても、誰もいないのにブツクサ会話している若い男なんて危なすぎるからだ。精霊は人に認識されないのでカモフラージュの役割を彼らは果たしてくれている。
ルーはドラゴンの姿で好き勝手に飛びまわり空に還れず迷っている魂を見つけては寄り添ってそっと道を示してあげている。
遊んでいる様でしっかり自分の役目を果たしているので精霊もルーに対しては甘くなり、その分俺には厳しい。
「はぁ〜わかってるわよ。色々言ったけど、アンタはちゃんと自分の仕事をやり遂げたわ。被害が尋常じゃなかったけどね…私を解放してくれたのも感謝してるわ。後のことはこの地に住む人々に委ねるしかないわよね」
くたびれたように呟く精霊に視線を戻し、ゆっくり頷く。
「そうですね。アルベルト男爵が先頭に立ってくれるならトカゲ族への弾圧も無くなります。王の卵も無事に孵りそうですよ。今も眠ったままの卵達も孵ったらトカゲ族は絶滅しないですみますし、いいことだらけですね!」
子供達も賛成するよに笑い合って手を叩いている。精霊も表情を緩ませ「そうね」と空に還る光を見つめて優しく囁いた。
♢♢♢
「全くどうなってるんだ…領主の屋敷が大破したのは俺の仕業だろうと捕らえられたと思ったら壁が破壊されて、その中から大量の遺骨と遺体が発見された…その上領主は逃亡ときたもんだ…」
日が暮れて屋敷に戻ってきた、アルベルト男爵は困ったもんだと言いながらも笑っていてどうやら今回の件に俺達がガッツリ絡んでいることはお見通しらしい。
精霊と意思疎通できて、普通なら死んでる怪我を負ってもすぐに回復する人間が普通の訳ないよねと此方も苦笑いだ。それでも事情を察して深くは追求しないでくれる懐深い中身がマジイケメン男に見た目が極悪人でなければ…とそっと目頭を押さえる。
双子はアルベルト男爵が姿を現したら速攻で抱きつきに行き怪我がないか確認していてその懐きぶりが微笑ましい。
「精霊さんにアルベルト男爵を守ってほしいってお願いしたんですよ。無事で良かった」
双子を逞しい両腕に抱えて笑っていた男爵は、納得したように頷いた。
「なるほどな…拷問されそうになったのに、何故か奴らは俺に触れられなくて怯えていたな…どんな魔法を使っているんだって喚いてうるさかったぜ」
「この地に囚われていた精霊は無事に解放されましたよ。今後この街には精霊の加護はなくなります。今までとは違う生活を送るはめになるでしょうね。特に水に関しては厳しくなるはずです」
「だろうな…今までがおかしかったんだ。それは市民全員が理解している。なんたってあれだけ大量の遺骨だぞ?普通の神経してりゃあここから逃げ出したくなっても責められねぇよ。でもよ…遺骨を丁寧に集めていると苦しくて悲しいのにフッと柔らかいもんで包まれる感覚があるんだ。それがあったかくて…俺は、例え一人でもすべての遺骨をきちんと埋葬し終えるまではここに残るぜ」
「ニコもお手伝いするよ!」
「ティムもやる!」
双子が揃って宣言すると、アルベルト 男爵は嬉しそうに二人を抱きしめた。
「ありがとうよ!二人がいてくれるなら心強いな」
そんな3人を見て羨ましくなったのか、ルーが抱っこと要求してきて首にしがみついてきた。
「うん?ルーどうした?あっちょっと絞まってる…」
背中を撫でてあやしているが、どんどん抱きつく力が強くなり危うく絞め落とされそうになる。
「にこもてぃむもさよならするの?るーさみしい…」
「そんなにすぐに移動はしないよ。王様の卵が孵るのをルーだって見たいでしょ?赤ちゃん王様が帰ってくるのをトカゲ族のおじいちゃん達だって待ってるしね?」
「これだけの騒ぎを起こすだけ起こしてトンズラされたら流石の俺も怒るぜ?でも…多分先を急ぐ旅なんだろうな…俺が船で送ってやるからもう少しだけ力を貸してくれよ竜の英雄」
ー竜の英雄ーその言葉を聞いた瞬間、顔に一気に血がのぼってきて真っ赤になり、恥ずかしくってジタバタしてしまう。
「ぎゃー‼︎それやめて!すんごい恥ずかしいどこのどいつか言い出したんだよ!しかも俺達はまだひよっこなの!ド新人です!」
真っ赤になって拒否っている俺と涙目ながらまださよらならしないと理解してニコニコしだしたルーを見てアルベルト男爵は大笑いしだした。
「まったく…とんだ連中だな。竜の英雄とは…」
異世界世直しは子ドラゴンとともに @asami-ko
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