第31話誰だよ、コレを縛ったの…
うっとりとアルベルト男爵を見つめている自称囚われの姫の精霊に不審な目を向ける。領主の先祖の話が本当なら、他の共有者からこの精霊を贈られた事になるが、例え姿が見えなくても、正直コレを貰って扱いに悩み、だいぶ苦労しただろうなと同情してしまう。
精霊王を初めて見た時も衝撃を受けたが、もしも、彼らの様にインパクト重視が精霊界隈ではスタンダードだったりしたら、お付き合いは遠慮したい。
不本意だが、既に事に巻き込まれているのだから、このヤバイ…もとい、精霊の希望通りにしないと、彼女からの怨嗟で理不尽な不幸が襲いかかってきそうで恐ろしい…でも、理由もなく精霊を地に縛り付ける様な真似を共有者がするとは思えないし、それを自由にして悲劇が街を襲っても責任は取りかねる…。ジレンマでイーっとなってしまう。
本精だって自分が縛られている理由がわからないのだから、解放後のことなんて想像できないだろうし…。
アレ??でも…他の共有者には、精霊はその力によって大きさが異なる光球に見えるだけだとしても、竜達はその姿が見えるし会話もできるのに、理由も教えず無理矢理縛り付ける様な真似を本当にするだろうか?精霊のネットワークによって情勢を知れて、支えられているのに、そんな不義理な事を共有者がするだろうか…
ふらふらと漂っている精霊の襟首をガシッと掴み、ついでにゴキッと音がするほど力強く此方を向かせる。
「ぐぁ!ちょ、ちょっと!痛いじゃない!いきなり何すんのよ!首が変な方向に曲がったわよ?!」
首を押さえてギャーギャー騒ぎ出したが、それを一切無視して質問する。
「あの!貴女をこの地に縛り付けたのは竜ですか?もしくはその共有者でしょうか?」
身に起きた理不尽な痛みに苛立ち、睨みつけてから愚問とばかりに鼻で笑い飛ばされたが、精霊は答えてくれた。
「はん?何言ってんの?竜の気配なんて微塵も感じなかったわよ。私だって竜にこの地の守護をお願いされたら、縛り付けられなくたって使命を全うするわよ!」
精霊の本能なのか、竜の気配は遠くでもわかるのだ。とキッパリ断言される。勿論ルーが竜だと気がついていると言われた。
「大体この地に竜が来るなんて今回が初めてよ?この辺は元々村が点在していた漁村地域だったし、人間同士の争い事はあっても紛争地ってほどでもないから、魔獣だってあんまり出没してなかったからね。魔獣被害ひどくなったなんてここ最近よ?」
何だか混乱してきた…どういうことだ??
「この地に何の為に縛られたんですか?」
「…知らないって言いたいけど、私は水の精霊なのよ。あのね?ここより奥は砂漠地域で水源がないの。生きるには過酷な環境よ〜漁村だった時も水源を巡っての争いが主だったしね。蛮族って言われている人間達が度々襲ってきたのが原因かな?人間は街を建造して被害を防ごうとしたみたいね。正直私にはそんなのどうでもいいんだけど、ある日フラっと彷徨いていたら捕まったのよね〜そして、私の力で水源を確保してるのよ…嫌になっちゃう」
「人間に精霊を捕らえることなんてできるのか?しかも、本精の意思を無視して力を利用するなんて…」
腕を組んでウンウン唸っていると、隣に座っていたルーも真似してウンウン唸って首を傾げているのが目に入り、笑ってしまう。
「ルーも一緒に考えてくれてるのか?何か思い付いたか?」
揶揄う様に聞いてみると。
「いっぱいよ!とかげもひともちがでてる」
小さな両手を広げて量をあらわそうとしているのは可愛らしいが、内容がいただけない。
「え?トカゲ??人?血ってどゆこと…」
俺の呟きに精霊とアルベルト男爵がハッとした様に体を硬らせる。
「おい!トカゲって砂漠地方の獣人のことじゃないよな?」
今まで全く話についてこれなかった男爵だが、トカゲに対して懸念していることでもあったのか、食い付きが凄い。
「何か知ってるんですか?トカゲの獣人もいるのか…種類が豊富だな〜」
暢気に感心していると、ギッと睨まれちょっと怖かった。
「…苛酷な環境の砂漠地方には人間は住む事はできず、結局は出て行ったっが、その環境に適したトカゲ族だけは残って隠れ住んでいたいたんだ。集落だっていくつかあった。本来、獣人は人の姿と獣の姿をもっているが、俺みたいに人間の血が混じると獣の姿をとる事はできなくなっちまうんだよ。砂漠に住むトカゲ族は常にトカゲの姿で過ごしていて人間にまみえる時だけ人の姿になり、正体を隠していたのに、ある時期からその数が減少したらしい。敵に襲われたのか、別の場所へ移動したのかは同族の者達にもわからないが、死体は一切発見されていないらしい」
アルベルト男爵説明を聞いて、確かに引っかかるなと思う。大木の精霊の件もあるし、もしかしたらトカゲ族も生贄にされたのかも知れない。ルーはいっぱいと言っていた。獣人と身寄りのない人間を道具の様に使ったとしたら精霊を捕らえる事もできただろう、その維持も戦争や魔獣騒動のどさくさで他所から人が集まれば、生贄を用意するのも難しくは無い。
竜の英雄の従者なんて言われても、本物か偽物か見破るのは難しい、信仰心はある意味利用しやすいのだ。真面目な人は疑う事すら不敬と信じているに違いない。
「精霊さん。貴女は最初からこの街の中なら自由に動けていたんですか?」
濃い化粧をしていてもハッキリと血の気が引いているとわかる顔を見つめる。
「…いいえ。自由に動ける様になったのはここ50年くらいかしらね。それまでは、城の中庭にある池から動けなかったわ」
「じゃあ、150年経って縛りが緩んできたんだろうな…城の中庭って事はやっぱり領主が首謀者になるのかな…街を造る時に壁や地区を魔法陣に見立てる事もできるし、生贄の魂を縛りつければ効果を維持できる」
考えをまとめる為に呟いていると、ガックリと落ち込んだ精霊が、突如光だし眩しくて目が開けられない。
「うわっ!今度はなんですか?!」
光が止んでうっすらと目を開けるが、直ぐに後悔した。見た物を脳が処理するのを嫌がっているのか、全然理解ができない。
光が止んだその場にいたのは、濃い化粧をした筋骨隆々の半裸の男性だった。
「…えっ??なんで?どうしてこうなったの?」
あまりの展開に動揺が隠せず、視点が彷徨う。ルーもポカーンとして固まっている。
「何を惚けているの?戦うわよ!支度をしなさい!精霊が姿を変えるくらいで驚くんじゃないわよ!許さないわよ!この私を血で汚すなんて絶対に許さない!万が一でも魔に堕ちてしまったらどう責任をとってくれたのかしらね!?」
怒りのあまり戦闘モードになったらしい精霊の怒りの波動に目眩がする。
姿を変えるにしても、何故化粧をしたままなのか、そして何故半裸なのか…姿が見えてしまうのが泣きたくなるほどツライ…
「…落ち着いて下さい。あくまでも推測なんですよ?間違ってる可能性もあるんだからね?もっと情報がないと動くのは危険ですよ」
いきなり精魂尽きてぐったりしつつも、宥め出した様子に驚いていた男爵もキョロキョロしてから見えない精霊に向かって頭を下げる。
「お怒りごもっともですが、この者の言う通りです。市民の支持を得ている領主に対して事を起こせば下手をしたら暴動が起きます。無駄な血を流させない為にもお時間を下さい」
恋する乙女?は感激した様に空中を回転してポンと軽い音を立ててまた素の化粧の濃い派手なドレス姿に戻ると、男爵に抱きつく
「ああ、王子様がそう言われるなら助けてくださるまでお待ちしております!」
はぁ〜…と大きくため息をつき、眉間に手を添え軽く頭を振る。精霊の姿が見えない男爵に心底よかったねと思いながらも、これからのことを考えると頭が痛い。
ルーが慰める様に頭を撫でてくれるが、とうとう精神と肉体に限界が来たのか、ベッドに突っ伏して気を失った。
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