異世界世直しは子ドラゴンとともに

@asami-ko

第1話エレベーターにはご注意を

 俺は、小鳥遊たかなししょう27歳、独身・彼女無しの極々平凡などこにでもいる少々オタク気味のボッチなサラリーマン。 

 そんな俺が、こんな物語の主人公の様な冒険をするはめになるなんて、太陽が西から登るくらい有り得るはずがないのに!

本当に人生って何が起こるかわからないもんなんだとしみじみ実感しました。



 その日は、朝からついてなかった。

 目覚ましをちゃんとセットしたのに、起床予定に鳴らず、いつも出社ギリギリまで寝ていたい派の俺は当然だが遅刻した。

 上司には、ネチネチ叱責されたし、先輩には遅刻を理由に、期限間際の仕事を押し付けられたので、したくもない残業をするはめになった。

 やっとのことで、仕事を終わらせ、疲れて夕飯を作るのも面倒だからとコンビニで弁当を買い、帰宅中あと5分で自宅マンションという所で土砂降りに合う。

 俺が何をしたっていうんだ。

 全く持って腹立たしい!

 全力で走るが、普段の運動不足がたたってか、猛烈に脇腹が痛い。

 びしょ濡れになり、なんとかたどり着いたマンションのエレベーターの中には、奇妙な生物が鎮座していた。

 体長20センチ程でゴツゴツした赤く鮮やかな皮膚、まるで真夏の海のような吸い込まれそな程に碧い目をしていて、背中に小さな羽根を持つトカゲがいたのだ。

「…爬虫類には詳しく無いけど、まるでドラゴンの赤ちゃんのようなトカゲもいるんだな」

何処かの家のペットが逃げ出してきたのだろうが、生憎このマンションのペット事情なんて知らないし、既に夜も遅い。

 今日は仕方がないから保護して、明日にでも管理人に預ける事に決めてトカゲに近づいてみる。

 人慣れしているのか、怖がる事なく大人しく、それでいてまるで品定めする様に小首を傾げなががら此方を伺う姿に思わず頬が緩む。

「うん、可愛いな。犬、猫より飼いやすいのかな?」

 ゆっくりとトカゲを目線の高さまで持ち上げじっくり観察しようとした時、頭に直接響く嬉しそうな幼い声が聞こえてきた。

 <みつけた!>

 その途端に上下の感覚さえ分からなくなる強烈な目眩に立っていられず蹲る、しかも何か巨大な物に押しつぶされ骨が軋むような圧迫感と身体の中をぐちゃぐちゃと掻き回す不快感が同時に襲ってきた。

 兎に角、全身をあらゆる痛みに襲われ、生きているのが不思議な程だ。

 死を覚悟する。

 目を開けている筈なのに全く光が見えず、更に物凄い音が聞こえているが、幻聴なのか、現実なのかの判断すらできない。

 どの位の時が過ぎたのか、ポンっと軽い音と共にエレベーターの扉が開くのがわかった。

 生存本能なのか、外に出ないと死ぬ気がして最後の力を振り絞り何とか這って外に出る。

 外に出た安心感からか俺は完全に意識を失った。

 

 意識を失う直前に天使のように愛らしい裸の幼児が見えた気がする。

 (まさか天使のお迎えか?)

 それなら天国へ行けるのかと、全身を襲っていた苦痛を忘れ、安心感で心が満たされた。



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