第10話 魔法少女の性事情
「この記事は何なの!」
橘署長がデスクの上に広げたスポーツ紙をドンと叩いた。
――魔法少女、おしゃべりの間に魔獣退散!
渋谷川でのケルピー退治の翌日、デスクの前に立たされた私ら3人は、まるで悪さして叱られる学生の気分だった。角が生えた署長の後ろには、床から天井まである窓ガラス越しに、広々とした放送局の敷地と代々木公園の緑が見える。
「署長。そんな怒らなくても、実際ケルピーなんて無害じゃないですか」
「椿! そう言うことじゃないんだよ!!」
署長はもう一方の手もデスクに叩きつけた。
「すみません! 私が悪いんです。ついつい話が脱線していくもので、訂正しようと必死になりすぎてしまって」
「環、あなたがしっかりしないでどうするのよ。朋子が居ないと誰も場を落ち着かせられないの?」
署長は首を回して、黙りこくって存在感を消していた琴葉にも視線を向ける。
「わ、私は、先輩方には何も言えませんし……」
必死で弁明する琴葉の姿は、まるで親に叱られた小学生のよう。署長は後ろにふり向き、窓の外の景色を見つつ言葉を口にする。
「仕方ないわね。しばらくはレベル3クラス以下のザコは環抜きでやりなさい。ちょうど教育係は椿の役目にしたんだし、これなら環が手伝ったり出来ないものね」
「えー! 待ってくださいよ! 一人の方がなんぼかマシじゃないですか!」
「私だって、椿先輩の戦い方は怖くて真似のしようがありませんよ!」
「お? 今、聞き捨てならないこと言わなかったか?」
「キャー! オババがイジメる!」
「なんだと! この小学生が!」
――ドンッ!
署長は窓ガラスに両手を突いた。
「学級崩壊は、息子のところだけで十分よ! さっさと二人で外回りに行ってきなさい!!」
振り返った署長の鬼神のような顔に恐怖し、私たちは部屋を逃げ出すように出て行った。
「はぁ、仕方ない。こんな早い時間に回っても見つかりっこないのに」
「そんなことないですよ椿先輩! 魔獣の痕跡は昼でもしっかりと残ってますよ。養成所時代のフィールドワークで、何回も見つけましたもん」
魔法少女の姿に変身した私らは、代々木上原を目指し定期飛行ルートを飛んでいる。渋谷区を時計回りに巡り魔獣の痕跡を探すなんて、私にとっちゃ面倒臭いことこの上ない仕事だけど、なんだか琴葉は遠足気分で浮かれている感じだ。
「さぁ、着いたぞ」
人気のない路地裏に降り立ち、私は魔法少女の姿を解除する。
「あれ? 戻しちゃうんですか?」
「別に戦う訳じゃ無いんだから普段着だって探索は出来るだろ。琴葉はそのままで行くの?」
「はい! だって、お気に入りだもん」
真昼間からブリブリのドレスを着て、渋谷の街を練り歩くなんて、どんな羞恥プレイだよ。細く入り組んだ高低差のある代々木上原を探索する。住宅街と混じった感じの駅前は、平日の昼は人通りも少ない。
「なんだか、街行く人たちの反応が全く無いですね。こんなもんなのかな」
「平日の代々木上原なんて、逆にマホショや芸能人に声かけるのをダサいと思ってる連中しかいないでしょ」
「あ! あそこロケしてる! 誰? 誰? 石ちゃんかな? ヨ〇スケかな? チェッ、乱〇世でした」
「逆にレアだろ!」
その後、笹塚、初台、代々木、千駄ヶ谷、神宮前と探索を続ける。裏原探索の時に可愛いと声を掛けられて琴葉はかなり上機嫌になっていたが、逆に竹下通りでスルーされたことに納得がいってないようだった。
「あれだ、コスプレしてる奴らも多かったし、同類と思われたんじゃないか?」
「うーん。だとしても写真撮ってくださいとか言ってきて、自分たちを撮らせるとか悪意しか感じられませんでしたよ」
なんで私は新人を宥めているのだろうか。しかし、こいつかなりの自己顕示欲モンスターだな。確かに今の時代、チヤホヤされる仕事といったら女子アナか魔法少女だろう。特にアイドルがダサいと揶揄される今現在、戦う強い女性という免罪符が実際のところアイドル的雰囲気の魔法少女を応援しても許される環境を創り出しているのだから。などと広尾上空を飛びながら考えていると、琴葉が別の話題を切り出してくる。
「椿先輩って彼氏いるんですか?」
「なんだよいきなり!?」
「何かぁ、最近彼氏のメール、返信が遅いんですよ! こういうのって浮気してるんですかね?」
「仕事が忙しいんじゃないの?」
「バイトはしてないですよ。親の仕送りだけって言ってたし!」
「ん? 学生?」
「当たり前じゃないですか! タメの大学生ですよ! 会見の時に言ったじゃないですか?」
「あの時は、途中でパーティー会場に移ったから……」
「なんだ、聞いてなかったんですか! 彼、地元で高校が一緒なんですけど、渋谷の大学に進学して、傍に居たいから私も渋谷区配属を希望したんですよ! うちは、貧乏じゃないけど東京の大学に出すほど余裕が無かったし、結婚まではその……守りたかったから、魔法少女はうってつけじゃないですか?」
「彼氏を追うためにマホショになったってこと?」
「会見ではそこまで言わなかったけど、そういう事です。まぁ、東京の生活を満喫したかったのもあるけど」
なんだか、頭がクラクラしてきた。これが世代間ギャップというものなのか? いや、こいつが突拍子もない少女だというだけだろうか……。
そんな私に構わず、彼女は話を続ける。
「それでぇ、今なら他に人が居ないから聞きたいんですけどぉ~」
「なんだよ?」
琴葉は急に顔を赤らめてモジモジしだした。
「彼氏の性欲処理はどうしてるんですか?」
「げげ……。それを聞くか! まぁ、フェラくらいはするけど……」
と言っても、ここ1年くらいヤッてない。
「やっぱそうかぁ。でも、私お口が小さいじゃないですか? 顎が外れそうで怖いからしたことないんですよねぇ。それと、お尻の穴なら処女喪失にならないから大丈夫って本当ですか?」
「流石に、お尻でやってるなんて告白する奴は聞いたことないわよ! 大体、パンツ脱いだら終わりだって講習会で習うでしょ?」
「そうですよね。彼氏はマホショとか私の可愛い姿でするの好きなんで、脱いだりはしないんですけど、私に擦りつけながら「お尻なら大丈夫だろ?」って聞いてくるんですよ! その時は目が怖かったんでぶっ飛ばしましたんですけどね」
「男に主導権握らしちゃダメだろ! フェラにしろ手コキにしろ、こっちから攻め立てて果てさせないと襲われるわよ」
「それも講習会で言われたんですけど、なんか自分から行くの恥ずかしくって」
琴葉は両手で顔を覆って恥ずかしがった。いやいや、アナルでやろうかと考える方がよっぽどヤバいと思うんだけど。なんか、こいつはなし崩しにさっさと引退しそうな臭いがプンプンしてきたぜ。しかし、それはマズい。何としても、アランをゲットして私の方が先に引退しなくては!
「琴葉、両手をこう使って……」
結局、私の知っているハンドテクニックの奥義を琴葉に伝授することで彼女の早期引退阻止を画策するのであった。
「ヒェッ! 彼氏のお尻の穴ですか?!」
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