第27話 イブの戦い
『警視庁より入電。代々木2丁目近隣にて魔獣発生。詳細は不明。魔物対策班の出動を要請します』
司令部に居た琴葉と私は、急いで変身して新宿方面へと飛び立った。
「まったく、まだ夕方じゃん!」
「環さんと青葉さん、すぐに追いつきますかね?」
「ちゃんとポケベル持ってれば良いけど、まぁスタッフが付いてるからすぐに気付くわよ」
クリスマスイブということもあり、モデル班の環と青葉は恵比寿でファッション誌主催のイベントに出ているのだ。まだ5時前だし、爆音で音楽でも流してたらすぐには気がつかないかもしれない。
明治神宮を越え、新宿駅南口が程近い雑居ビルが立ち並ぶ代々木2丁目に到着した。
「あれ? マホショですよね」
「げっ、新宿の奴らじゃん」
すぐ先の甲州街道上空には5人のカラフルな魔法少女たち。日本で一番魔物の住む街、新宿管区の連中だ。ほとんどの市区町村が3名配置なのに対して、5人の魔法少女が配置されているくらい新宿区は事件発生数も多い。そして、何かとお隣さんの私らを敵視している、いけ好かない女たちなのだ。
「ねぇ、ちょっと美紀子さん。アレは元々は私たちの獲物だったのよ。こっちに送ってくれれば、代わりに始末しといてあげるわよ」
真ん中にいる赤いのが拡声器で話しかけてきた。ちょうど眼下には、10匹位の体長2メートルはあるグリフォン――ライオンに
「どうしますか椿先輩? 環先輩たちもまだ来ないし、10匹を2人は大変だし、雑居ビルが多いこの辺りより、新宿中央公園に追い立てた方が被害が少ないんじゃないですかね」
「バカ言っちゃいけないよ。なんで、あんなクソ女どもに手柄を横取りされにゃならんのよ。私たちで倒して、連中に「悔しー!」って歯ぎしりさせてやるんだから!」
「はぁ、そう来ると思いましたよ。で、作戦はどうします?」
ため息交じりに、琴葉が聞いてきた。
「今は動き止まってるから、油断してるところに私が盛大にぶっ放す! 生き残ったのは、手分けして各個撃破。地上は私がヤルから、琴葉は飛び去った奴らをお願い」
「飛んでくるのが多すぎたら逃げますからね」
「そしたら、追いかける奴らの後ろから攻撃してやるよ」
やる事が決まり、私は魔法の詠唱を開始する。
「燃えたぎる赤き炎よ! 無慈悲な死の嵐となりて大地に降り注げ! フレイムブリザード!」
無数に表れた炎の礫がグリフォンの群れ目指して降り注ぐ。
――キー! キキー!!
4匹が飛び上がり、地上には翼が焼けた4匹と動かなくなった2匹が残った。
「倒せなくても、取りあえずは引き付けといてよ。地上の奴らをすぐに始末して戻るからさ」
「あ、ちょっと! もう、久しぶりにヤル気出したと思ったら、めちゃくちゃ過ぎですよ椿先輩!」
愚痴をこぼす琴葉を置いて、私はマンションの駐車場へと急いで降りて行った。地上のグリフォンたちは呻き声を上げながら、表の通りへと逃げ出そうとしていた。
「逃すか! 燃え盛る炎を包む、熱き球の連なりよ! 地獄の業火のように全てを焼き尽くせ。ファイアーボール!!」
乱射した火球がお尻を向けて逃げる2匹を捉え焼き尽くす。残る2匹は、マンションの1階にくり抜かれた車の出口にいる。これじゃ、建物に被害が出るので飛び道具は使えない。
「燃え立つ火柱よ、剣となりて我に従え。フレイムソード!」
グリフォンに追いついた私は、燃える剣を奴らに突き立てる。
「ウォリャアアア!」
――ギギーギー!
「ふぅー。楽勝楽勝!」
体内で燃えたぎったアドレナリンを抑えるように呼吸を整え、上空を見上げる。すると、琴葉が叫びながらこちらに向かって降りて来るのが見えた。
「せんぱーい! ヤバいですぅー!」
琴葉の後ろには20匹以上のグリフォンが追いかけてきていた。さらに、ビルにさ遮られて見えなかった大ボスがその後ろから姿を現わした。
「なんじゃありゃ?!」
なんと、体長10メートル越えの巨大なグリフォンが出現したのだ。その背中には身長3メートルはあろうかというトナカイの頭蓋骨を被り鎧を
私が居た幅8メートル、高さ3メートルの通用口に琴葉は逃げ込んで来た。
「燃え立つ火柱よ、地上より立ち昇れ、フレイムウォール!」
通用口の前に火柱のカーテンが吹き上げ、追いかけてきたグリフォンから身を護った。
「椿先輩! 私たち二人じゃ無理です!」
「あのデッカイの、タイマンなら何とかなるかもしれないけど……」
「新宿の人たちに手伝ってもらうしか無くないですか?」
「うーむ」
環たちが来るまで逃げ回っていたら、被害が甚大なものになるかもしれない。誘導するなら近辺では新宿中央公園か、線路を越えて新宿御苑、もしくは、西口駅前広場。何処にしても、繁華街の人ごみを避けられない。
――グェーガー!
「きゃあ!」
グリフォンの親玉がフレイムウォールを突き破って頭を通用口に突っ込んできた。
「やっべ! 付いてこい琴葉!」
「どうするんですか?」
上空を飛ぶ私に追いすがりながら琴葉が聞いてきた。
「新宿中央公園まで突っ切る。甲州街道超えたら攻撃はすんなよ。私らの管轄じゃ無いからね」
「了解!」
私たちは、甲州街道目指して飛行する。区境に浮かんでいた新宿の魔法少女5人は、向かって来る私たちを見て散開し、攻撃態勢を整えた。
「後は任せたよ!」
私のかけた声に、赤いのが親指を立てて合図を返してきた。そのまま飛び続け高層ビル街の手前で振り返ると、赤、青、黄色、空色、オレンジの魔法少女が甲州街道上空でグリフォンの相手に奮闘していた。その中でも、黄色と空色の魔法少女二人が大物を相手に連携して攻撃を仕掛けている。
「あれは、風花ちゃん?」
「なに? 知り合い居るの?」
「あの空色のマホショ。長髪をなびかせた可憐な感じの子は同期の水無瀬風花ちゃんです。へぇ、成長したなぁ。ボスを任せてもらえるなんて」
「何となく、厄介なのを押しつけられただけに見えるけど……」
何だろう。違和感を感じる。あまり他所の戦いを見る機会がないからかもしれないが、新宿の魔法少女たちは連携して戦うのではなく、それぞれがバラバラにやっている感じがするのだ。みんながみんな「私が主役よ」といった戦い方をしていて、サポートをする気など全く無いような感じなのである。
「あれ? なんか黄色がやられて墜落しましたよ。風花ちゃんこっちに逃げて来る」
「何だよ。せっかく譲ってやったのに。おーい! 私たちは仲間じゃないぞー!」
『えーん、助けてー!』
空色の魔法少女は泣きじゃくりながらこちらに迫ってくる。もちろん、その後ろにはデカすぎるグリフォンが後を付いてきていた。
「椿先輩! 助けを求められたんですから助けましょうよ!」
「え? なんで、ここはうちらの縄張りじゃないじゃん」
「緊急事態条項を忘れたんですか? 他の区域より支援要請が有った場合、区域規制に関係なく対処せよですよ!」
「ああ、すっかり忘れてた。つうことは、ここで奴をぶちのめして良いって事ね!」
「そうです! 何とかしましょう!」
「琴葉、あの空色ちゃんを助けた後、援護して。私は何とか中央公園まで奴を誘導する」
「了解です!」
琴葉が逃げてきた風花の側面から飛びついて離脱出せる。それを追いかけようとして横を向いたグリフォンに対して、私がファイアーボールを顔面に叩き込む。
「さぁさぁ、カモン! グリフォンちゃん!」
――グェーグガガァー!
怒り狂ったグリフォンがこちらに突進してくるかに見えたが、何故か落ち着きを取り戻し、琴葉たちを追いかけ始めた。どうやら、上に載ってる野郎――ワイルドハントっぽい――が操っているようだ。
琴葉も事の次第に気付き、都庁方面へ急いで逃走した。彼女たちは都庁の空中廊下を潜り抜け、戦いの舞台は都庁前広場へと場所を移したのだった。
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