第6話 お披露目パーティー
「それでは、ご紹介しましょう! 渋谷区の新たな魔法少女、成瀬琴葉の登場です!」
拍手とシャッター音が鳴り響く中、白地にピンクの刺し色の入ったドレスを着た如何にも魔女っ娘アニメの主人公みたいな、ピンクのツインテールが壇上に現れた。
――おおー!!
会場にどよめきが起こった。
「まったく、ロリコンどもが!」
「いやいや先輩、あれだけ可愛ければ騒がれますって! 確かにロリロリですけど」
私たちはフォーマルなドレスに着替え、会場の壁際から会見の様子を眺めていた。フラッシュが一段落したところで、琴葉は喋り始める。
「新しく着任いたしました、成瀬琴葉です。若輩者ですが、区民の皆様のご期待に応えられるよう精進していく所存でございますので、
「見た目に似合わず、お堅い喋りすんのな、あれじゃ記者も怪訝な顔するわ」
「喋りも滑らかですし、舌ったらずで難しい事を一生懸命言うギャップ萌えも無いですねぇ」
琴葉の近くで話してるときは良い先輩面してるのに、自分の存在が彼女に確認できない遠くからだとロリコンの本性を剥き出しにする環。彼女の言うところによると、遠くからその純粋さを見守りたいのだという。お前はホールデン・コールフィールド
か! とツッコミたくなる。
「環、お前はロリコン目線で考えすぎだよ……」
「何を言ってるのですか! 私は清廉な気持ちでカワイイものを愛でてるだけですから! キモオタロリコン童貞どもとは全く違います!!」
そんな感じでだべっていると、舞台の上は司会とのちょっとしたトークセッションに移行する。
「それでは、ここからは司会進行のミッキー成田による質問コーナー! それでは、まずは着任おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ここからは、プライベートな質問いっちゃいましょうか! 琴葉ちゃん、休日の過ごし方は?」
タキシードに趣味の悪い柄物の蝶ネクタイを付けた司会のちょび髭オヤジが大げさな動きでマイクを向けると、琴葉は人差し指をアゴの先に当てて考えてる素振りをする。
「そうですね。原宿に洋服を見に行ったりですかねー」
「ほほう! それは彼氏と一緒に見て回るんですかぁ?」
「私は、結構時間かけちゃうから、独りで回ることが多いですよ」
「おっと! 彼氏が居ることは否定しないんですね!!」
「それは、ご想像にお任せします」
琴葉はそう言った後、カメラの方を向いてニッコリと微笑えんだ。囲みのカメラかのフラッシュも激しくなった。
「なんなんだ?! あの寒いノリは……」
目の前で繰り広げられる茶番に、私は背筋が寒くなった。隣にいる環は、あんまり気にも留めてないようだ。
「明日のワイドショーで流すので、下世話な感じにしてるんじゃないですかね?」
「アーティスト路線はもう止めたの?」
「PR会社の人が言ってましたけど、これからは高級感より親しみやすさだそうですよ」
「そのうち、あんたも雑誌でフリース着させられるかもね」
「言われれば何でも着ますよ。仕事ですから」
環なら、特価980円のフリースを着ても様になるだろう。そんな妄想をしていると、横から声を掛けられた。
「やぁ、見違えたかと思いましたよ」
「アランさん!」
そこには、タキシードに着替えたアランが立っていた。
「もうすぐ会見も終わるみたいだし、混雑する前にパーティー会場へ行きませんか?」
「そうですね。環、あなたはどうするのかしら?」
「じゃあ、わたしも! って……、痛ててて!!」
私は、ピンヒールで環の足をグリグリした後、耳打ちをする。
「おめぇ、空気読めや」
「かいけぇんを、最後までみてから行くのでどうぞお先に……、痛たぁ~」
「そう、残念ね。環もこう言ってますし、行きましょうか?」
こうして立食式のパーティー会場へふたりして向かうことになった。
「かなり盛大にやるんですね。ハイブランドの開店パーティーと変わらないな」
中央に置かれたシャンパンタワーを見上げながらアランは感心した風に呟いた。
「でも税金からじゃないですよ。協賛企業も多いので、広告代理店主導で色々決まってるみたいです」
「それは、知ってますよ。私どもも、インターネットでのPR活動を新たに契約頂いたので、こうしてこの場にいるわけです」
「じゃあ、これからアランさんにお世話になるんですね?」
「ええ、あこがれの美紀子さんとこうやって一緒に仕事が出来るなんて夢みたいだ」
「そ、そんな。私なんか環と比べたら人気なんか全然ないし」
「何を言ってるんですか! この10年間23区合同時代から第一線で活躍し続けてるのは美紀子さんあなただけじゃないですか! 単純な魔法で少女っぽく戦っていた時代と違って、美紀子さんのプロレス技や格闘技のような体術を使った豪快な戦いに皆、新時代の幕開けと新たな女性像を垣間見たんです! その容赦ない、まさに殺戮の天使の異名を持つあなたに全国の老若男女が心震わせていたんですから! 金河さんだって、あなたにあこがれて渋谷分署を志願したんでしょ?」
アランは熱の籠った調子で言ってきた。情熱的な美男子も悪くないなぁなどと思いながら、私はその様子に見とれる。
「まぁ、そんなことも言っていたかなぁ」
「美紀子さん」
彼はいきなり私の両手を握ってきた。
「は、はい」
「これから、二人三脚であなたの魅力を世にもっと伝えて行きましょう! そのためにも、あなたのことがもっと知りたい」
「私も! アランさんのことが知りたいです!」
「パーティーが終わった後に、お時間頂けないでしょうか?」
――ブー! ブー! ブー! ブー!
私がイエスの返事をする前に、無情にもハンドバッグからバイブレーションの音が響いてきた。バッグから取り出すと、案の定、魔獣発生の情報が通知されていた。
「くっそ、こんな時に! あ、失礼!」
「わぁ、ポケベルだ! 懐かしいなぁ」
彼はまるで昭和の懐かしいおもちゃでも見るみたいに目を輝かせた。
「IT企業の人にとってポケベルなんて化石ですよね。なんか恥ずかしいな」
「いえいえ、枯れた技術の堅牢性ってのはバカにならないですよ。へぇ、こうして魔獣情報が入って来るんですね!」
話が脱線してる間に、環が駆け寄ってきた。
「先輩!」
「わたし、行かないと」
名残惜しいけれど、ここは優等生ぶっといた方が良いだろう。私は観念してその場を離れようとしたところでアランは私の手を取った。
「あ、待ってください!」
「え?」
「これだけでも受け取ってください」
彼は、名刺を渡してきたのだ。
「さぁ、急ぎますよ先輩!」
環に引っ張られ、離れ離れになる二人。部屋を出るまで私は彼の方を見ていた。
「あ、メールアドレス!」
「名刺の裏にメアドなんて、ナンパ師みたい」
「環、おめーにとっちゃ珍しくないかもしんないけど、わたしにとっちゃあ! 何年振りか! この感動、分かんねぇだろうなぁ~」
「はいはい、分かりました! 今日は琴葉ちゃんの初陣なんですから、気を引き締めてくださいね」
「おうよ! 久々にハッスルするぜ! アランのためにもね。きゃっ! 私ったら呼び捨てにしちゃった!!」
「なんか嫌な予感がするよ……」
こうして私たちは、玄関から渋谷の上空へと飛び立っていった。
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