第2話 仕事仲間
まばゆい光に包まれながら、私の服装は様変わりしていく。
グレーのパンツスーツが、ふわふわフリルが何層にも重なった白いワンピースに変化し、その上には赤のラッピングが巻きつく。膨らんだ袖口とかぼちゃパンツから見える肌を最小に抑える長いグローブとレギンスが黒革のガーターベルトで留められる。最後には、おもちゃのように大きなルビーが金で縁取られ、首元の大きな赤いリボンの上に収まる。ポニーテールの根元にはピンクの筒状リングにキラキラ光るクリスタルが散りばめられていた。
そして、ステッキを持つその姿は、まごう事なき魔法少女。――但し、身長165センチ、年齢29歳。
「先輩遅いですよ!」
渋谷駅上空で待つ仕事仲間に合流したところで声を掛けられた。
声の主は、黄色いドレスを着た短髪スーパーモデル系魔法少女、
「なんで非番の私まで呼ばれんのよ。あんた達だけで、片付ければよかったじゃん」
「そんな殺生な。私たちだけじゃ無理だから来てもらったんじゃないですか」
「あ、あの美紀子さん」
遠慮深そうに話しかけてきたのは、青いドレスの黒髪セミロング地味系魔法少女、
「あん?」
「あのね。美紀子さんに伝えたいことが」
いきなり火の玉が飛んで来たので、とっさに避けた。
「うおっ! 取り合えず、敵をぶっ殺してからで良いかな?」
「え? あ、はい」
パルコ方面の空から火の玉を吐きまくっている、全身を炎に包まれた体長10メートルはあるオオトカゲ。それが今夜の攻撃対象だ。
「サラマンダーが荒ぶってるのに、なんで行かないの?」
私の質問に環が答える。
「だって、あいつ火をまき散らすじゃないですか。密集地帯ですし、代々木公園に徐々に誘導してから仕留めようかと。これでも、かなり渋谷駅から移動させたんですよ」
「〇HKに落とせば良いじゃん?」
「何言ってるんですか? 民放じゃないんですよ!」
「河田町の駐車場で戦った時は喜ばれたけどなぁ」
そんな私を
「今の時代はコンプライアンスが厳しいから……」
と言ってきた。
「無駄話は終わり終わり! さっさとぶっ殺して夜の街へ戻るわよ」
「あー! 待って先輩!!」
私はサラマンダー目掛けて飛び立った。火の玉を避けるため、センター街からスペイン坂経由の低空飛行でパルコ下まで行き、そこから急上昇して奴のどてっ腹に膝蹴りをお見舞いする。
――グゥオーーーン!!
錐揉みしながら、上に飛んでいくサラマンダー。先回りして、かかと落としを決めると、奴は代々木公園へ繋がる並木道りへと墜落していった。
追いついた環が文句を言ってくる。
「一匹だからって、単独で突っ込むのは止めて下さいよ」
「うるさいなぁ。注文通り、代々木公園に落としてやったじゃん」
「手前じゃないですか! 体育館に被害出たらどうしよう」
「朋子! 右に回り込んで壁!」
「了解!」
素直な朋子は私の命令に即座に反応して飛んで行った。
「私は〇HK側から行くから、環はトドメを横っ腹に打ち込んでやって!」
「あの、なんで先輩魔法使わないんですか?」
「あたしゃ、もう29だよ! 来年には三十路のいい歳した大人が、エレメンタルファイアーなんて叫んでらんないよ」
「もう、撮られるの嫌なら、中継入る場所に落とさなきゃよかったじゃないですか?」
「上空でチマチマとヒットポイント削るのはめんどいじゃん! さ、グズグズしないで行くよ!」
「あ! 待って!!」
私たちの後を追うように、地上の中継車たちも原宿方面を目指して走り出した。
「水の聖霊よ、雫を集め障壁となれ! アクアウォール!!」
朋子の魔法によって、体育館側に高さ10メートルの水の障壁が立ち上がった。
追いついた私は、サラマンダーを挑発するように、奴の前でピョンピョン跳ねながら威嚇する。
「ほらほら、カモーン! トカゲちゃんよう!!」
――ヴァーウゥー!!
「おっと、あっぶね!」
サラマンダーから吐かれた火炎が、並木通りの樹木を燃やす。奴の息が切れたところをすかさず脳天にドロップキックをお見舞いする。
――グアァーウ!!
「今よ! 環!!」
「光の聖霊よ、我が剣となりて闇を切り裂け! セイクリッドブレード!!」
環のステッキから上空へ光の柱は上る。振り下ろされた光の剣は、サラマンダーの胴体を寸断し、奴は光の粒へと帰した。
遠くから望遠で撮っていたテレビクルーがハンディ片手に駆け寄ってくる。
「みんなお疲れ!」
カメラの角度を気にしながら、先輩らしくねぎらいの言葉を二人に掛ける。しかし、クルーは私を素通りして光の魔法少女に殺到した。
『環さん一言お願いします!』
『今日の、勝因は何でしょか?』
「すみません。広報を通すように通達が出ていますので」
相変わらず見た目と違って真面目ちゃんの環は、杓子定規な返答に終始していた。
しかし、モデルもやっている絶賛人気急上昇中の環は、カメラに捉えることが出来れば、テレビ局としてはつまらないコメントでもいっこうに構わないのだ。
「あ、あの……」
「なに? 朋子? ああ、さっき何か言いたそうにしてたわね」
控えめな大和撫子の朋子が私の袖を引っ張ってきた。
「あ、あの、美紀子さんにはとっても良くして頂いて、感謝しても仕切れないくらいです」
「どうしたのよいきなり?」
「いままで本当にお世話になりました。あの……」
「ま、まさか?!」
恐れていた言葉が朋子の口から発せられる。
「私、結婚します!」
「えー!!! って、何驚いてんだ私は!」
こういう時は、祝福の言葉でしょうが! いい歳して何をたじろいでいるんだか……。そんなふうに心の内で毒づいていると、環が朋子の元に駆け寄ってきて両手を掴んだ。
「いつですか?」
「23日に結婚式あげます」
「それは、めでたいですね!」
素直に祝福する環と対照的に私が口にした言葉はこのようなものだった。
「なんで、そんなに生き急ぐ!」
しかし、朋子は意に介さずに、言葉を続ける。
「なので、本日を持ちまして魔法庁魔法生物対策課を退職させていただきます!!」
報道陣が目の色を変えて朋子に殺到する。
「おぅ! 今突き飛ばして行ったの誰よ?!」
『朋子さん! 一言!』
『ご結婚のお相手はどんな方ですか?』
『田舎のご両親にはどのようにご報告を?』
環に手を取られ祝福される朋子を報道陣が囲む。
私だけがポツンとその輪から取り残され一人寂しく立ち尽くすのだった。
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