第18話 アフターパーティー

 百軒店の後片付けを警察と消防に任せた後、私たちはプレミア試写会後のパーティー会場へと直接飛んで行った。六本木のクラブを貸切って開かれていたアフターパーティー。元の服に戻ってから会場に入ろうとしたら止められそうになったが、遅れてきた環が呆然自失状態で魔法少女のままの琴葉を抱えてきたことで、私たちの事を警備も認識して通してくれた。


「ふぅ、入れないかと思って冷や冷やしたよ」

「先輩、ID持ち歩かないんですか?」

「あー免許持って無いし、保険証もオフィスに置きっぱなしだし。それより私のアランは何処なのさ?」

 薄暗いクラブは大勢の客でごった返していた。天井から放たれるサーチライトやフラッシュだけでは遠くからは判別不可能だ。いくつかあるお立ち台ではサンバカーニバルの衣装を着たド派手なドラッグクイーンたちが大音量のクラブミュージックに合わせて陽気に踊っている。

「はっ! ここは何処? 私は誰?」

「琴葉ちゃんの意識が戻りました先輩!」

「すいません。私ちょっとメールしてきます」

 ようやく正気を取り戻したかに見えた琴葉は、無表情のままロビーへとスタスタ歩いて出ていった。

「なんだあいつ?」

「私、心配なんで傍についています! おーい! 琴葉ちゃん待ってー!」

 環も出て行ってしまい、ダンスホールに一人取り残された。


「おーい! アラン何処だー?」

 人混みをかき分けながら進むが、辺りに居るのはモデル崩れみたいな女と騒いでいる業界関係者のオッサンか不良気取りの芸能人ばかり。ふとDJブースを覗いてみたらなんとターンテーブルを前にヘッドフォンを片耳に掛けるアランを見つけることが出来た。

「アランー! おっとっと」

 大きく手を振るが、DJプレイに集中するアランには気付かれない。代わりに人混みの渦に押し流されそうになる。

「仕方ない。あらよっと!」

 ――ギャッ! ウゲッ!

 私は魔法を使って飛び上がり、時折り人混みの頭を飛び石のように踏みつけながらアランの元まで近づいていった。

「アラン!」

「わぁ! ビックリした! ハハハ」

 突然現れた私に、目を見開いて仰け反り気味のアランだったけど、直ぐに頭に手を当てて嬉しそうに笑い声をあげた。

「声かけてたんだけど、聞こえないみたいだったから。もしかしてお邪魔かしら?」

「そんなことはないですよ! すみません。ニュースをチェックしてたんですが、こんなに早く来るとは!」

「急いで駆け付けたから……」

 ちょっと下を向いて上目遣いになりながらモジモジと返事をした。

「そうだったんですね。立ち話もなんですから、VIPルームへ移りましょう」

「ええそうね!」


 DJブースを後にした私は、アランの腕に寄り添う形で2階のVIPルームへ。部屋の中には私たち二人っきり。

「それにしても、生中継で見たんですが、あの最後に決めたダブルアックスハンドル!」

 ソファーに座るなり、アランが熱のこもった口調で話しかけてきた。

「はい?」

「ああ、日本ではダブルスレッジハンマーと言った方が良いか! 文化村通りにクレーターを作るなんて、あんな強烈な打撃はアメリカでも見たこと無いですよ!」

「そ、そう。それは良かったわ」

 二人っきりなのに、なんか全然ロマンチックじゃねぇんだけど。

「あのあと、映像が乱れて中継が中断してしまったのが残念でなりません」

「ああ、原宿の魔女が出て来たから」

「え!? ダブルタッグマッチになったんですか?」

「いえ、魔女同士で争ったから、どちらかと言えばバトルロイヤル?」

「その話、ぜひ聞かせてください!」

 アランは私の手を取って、顔を近づけてきた。その後、シャンパン片手に百軒店での武勇伝を詳しく聞かせる羽目になったけれど、夜はまだまだ長い。徐々にロマンチックな雰囲気に変えて行けばいいのよ。そう心に言い聞かせて、アランの賞賛の言葉を受けながら私は話し続けた。


「という訳で、花魁魔女は食べられてしまったんです」

「魔女を取り込んだ魔女というのはパワーアップするんですか?」

「見た目は変わらなかったけど、魔力は蓄えたんじゃないかなぁ」

「じゃあ、次の対決は大変ですね」

「ええ、でも原宿の魔女は配下を使うことに長けていて、私たちに遭遇してもすぐに逃げてしまう小賢しい奴ですから」

「なるほど、魔女と言ってもかなりの戦略家なんですね」

 アランは腕を組んで感心している。夜は長いといっても、もう一時間もこんな話を続けている。これじゃあ、朝まで何にもないなんてことになりかねない。しょうがない。向うが来ないなら、こっちから攻めるしか!

「しゃべり続けたら何だか疲れちゃいました」

 そう言って、私はアランの肩に頭を預けようとしたところ。

「先輩! 探しましたよ!」

「これはこれは、環さん!」

 いきなり部屋に飛び込んで来た環に反応してアランが立ち上がった。ということで、肩透かしを喰らった私は、そのままソファにただ倒れ込んだだけの状態に。すぐさま私は起き上がり彼女に向けて叫ぶ。

「察しろよ環!」

「それどころじゃありません、先輩!」

「何よ?」

「琴葉ちゃんが彼氏と別れました! しかもメールで!!」

「だから何だって言うのよ!」

「いや、だって。暗黒面に落ちたら大変じゃないですか! ここは私たちで慰めないと」

「暗黒面?」

 アランが不思議そうに聞いてきた。

「魔力を持ってる人間が傷ついたり裏切られたりして死んだときに、その恨みの大きさによっては魔女になったりするんですが、魔法少女は死ななくても元々魔力が強いので恨みに囚われて暗黒面に落ちて魔女化することもあるということです。特に若年層の魔法少女は心の不安定さからそういう危険が高いと言われています」

 環がスラスラと説明した。さすがメディア慣れしてるだけあるわな。

「なるほど! 失恋が魔法少女に悪影響を及ぼすということですね。そういうことなら私に任せて下さい! 失恋への対処法なら僕に良い考えがある」

 アランが胸を張って、宣言した。


「うう~、別れても~♪」

 室内に琴葉の破れかぶれの歌声が響きわたる。あの後、アランが私たちを引き連れて近所のカラオケボックスにやってきていたのだ。

 アランが言うには、「歌って忘れるのが一番です!」ということらしいんだけど……。

「何が悲しゅうて、後輩の失恋ソングメドレーを聞かなきゃならんのよ」

「とりあえずは、ストレス発散になってるようだし結果オーライですよ先輩!」

 環はそう言いつつ電話帳みたいに分厚い楽曲リストをパラパラと捲っている。

「僕もカリフォルニアに居た時は、クイーンやエルトン・ジョンなんかを歌ってストレスを発散していましたね」

 確かに、アランの歌うユアソングは発音もネイティブでカッコよかったけど、いったい何をしているんだろう私は?! という気分になってくる。

 この良く分からないカラオケ大会は夜明けまで続いたのだった。

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