第37話 魔法少女は永遠に
目を覚ますと、ベッドに寝ていた。どうやら、司令部の医務室に寝ているらしい。すぐ横では、裕二が私に背を向けて丸椅子に座り、小さなモニターに映し出される紅白歌合戦を見ていた。
「すぐ近くで、戦闘が起きてたのに呑気なもんね」
「そりゃあ、毎日起これば、慣れっこになるさ」
「11年ぶりに見るけど、変わり映えしないメンツなんだね」
「後半はそう言うもんなんだよ。中盤はラルクとか出て、面白かったよ。それに次は安室ちゃんだよ!」
結婚式での新たな定番曲となった歌を聞きながら、彼を狭いベッドに招き入れ画面そっちのけでキスをし続けた。もちろん、最後までヤッて無いわよ! 昼間、散々抜き取っちゃったから……。
昨夜の後始末に忙しかったのか、そのまま狭いベッドで朝を迎えた。気がついてみれば、掛布団に裕二が包まり、私の体は冷え切っていた。
「うう、寒ぅ」
私は、布団を引っぺがして包まる。裕二は掛布団を引っ張った勢いでゴロンと転がり床に落ちた。
「イデッ! 何すんだよ!」
「何すんだじゃねぇよ! 病人の布団被って寝るあんたが悪い! 体が冷えちゃったじゃないの。気を利かせて、熱いミルクでも持ってきなさいよ! この役立たず」
「おいおい! 世界を救ったヒーローに何て言いざまだよ!」
「うるさい! ヒーロー気取るんなら、いかなる時も女に優しくろや! このごく潰し!」
「うぅ、美紀ちゃんがイジメる―!」
口げんかで勝てないと見るや、泣き真似をして部屋から出て行った。私も起き上がって、近くの棚に置いてあった着替えを着て、部屋を後にした。
オフィスに入ると、当直の数人がガラス越しに管制室に居るのが見えた。奥の窓際にあるデスクでは、橘署長が突っ伏して居眠りしていた。給湯室に入ると、裕二がコーヒーとミルクを沸かしていた。
「なんだ、ちゃんとやってくれてたのか」
「当たり前だろ! 家事全般は僕の担当なんだから」
こいつ私のマンションに戻って来る気満々だなと思いながらも、なんだかホッとする自分がいた。
「ああ! そのカップは環のだから! これとこれと来客用はこれ使いなさい!」
「え? なんで3つ?」
「起きて下さい署長! コーヒー淹れましたよ!」
「ああ、ありがとう」
裕二の持つお盆から署長のマグカップを持ってデスクに置いた。寝ぼけ眼を擦り、署長はマグに口を付けた。
「あれ? いつもより美味しいわね」
「ちゃんと蒸らしましたから」
裕二が、少し誇らしげに胸を張った。
「へぇ、家の旦那なんてお茶一つ入れられないわ」
「ところで、状況あんま理解してないんですけど……」
「一応検査では、魔女はあんたの中には居ないってなった。消え去ったのか、何処かに潜伏してるかは分からないけど、一応、問題解決ってことね」
「その辺は、何となくわかってました。そうじゃなくて、私の今後は……」
署長は、私を見ながらグイっとマグカップをあおると、デスクの引き出しをゴソゴソかき回し、取り出したステッキを放って寄こした。私は慌ててキャッチする。
「おっと!」
「椿美紀子。貴殿を1999年1月2日付けで魔法庁渋谷分署魔法少女への復帰を認める」
「了解しました!」
「今日は初詣にでも行ってくれば?」
「はい!」
元旦の明治神宮上空、魔法少女に変身した私は、背中に裕二を抱えて下界を見下ろす。
「ハッハッハ! 人がゴミの様ね」
「ワルモノじゃないんだから美紀ちゃん」
鬱蒼とした森に挟まれた道を行く、数万人の参拝客を飛び越えて、境内へたどり着く。
『あー! ママ魔法少女だよ!』
『あ! 汚ねぇぞ!』
『ずるすんな! 魔法少女!』
「下界の嫉妬がすがすがしいわね裕二」
「なんか、上から賽銭投げるの罰当たりな気もするけどなぁ」
「ちゃんと、鳥居は潜って来たから大丈夫よ。さ、お参りしましょ」
賽銭を投げ入れ、手を合わせた。神社を後にして、マンションへ帰ろうと方向転換すると、渋谷の方向から環と琴葉が飛んできた。
「センパーイ!」
やってくる魔法少女たちの背後では、渋谷の街並みが太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
29歳の魔法少女 めがねびより @meganebiyori
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