第14話 OG

 日曜日の午前中、朋子のウエディングドレス選び――というより、OGの恵利華から彼女を護るため――に外苑前にある貸衣装屋にたどり着くと、彼女たちは既に来ていた。

「ごめん遅くなった!」

「そんなことないですよ美紀子さん」

 珍しく髪をアップにまとめ、少しくたびれた紺のワンピースを着た朋子が言った。

「これはこれは! 本当にいらっしゃったのですねセンパーイ!」

 朋子の横に立っていたド派手な女が大袈裟な反応を返してきた。ピンクツイードにブレード縁飾りの付いた襟なしジャケットにタイトな膝丈スカート、首元には5連のパールネックレス、手にはゴールドに輝くチェーンストラップ付ハンドバッグ、頭にはツバの広いハットを斜めに被った彼女の姿は、醜悪なほどゴージャスさを醸し出している。

「久しぶりね恵利華。なんで私が来ないとでも思ったのかしら」

「それは、ねぇ」

 恵利華は、いやらしい笑みを見せるだけで何も言わない。どうせ、結婚もしてない私が色々取り仕切るのが恥ずかしくないのかとでも言いたいのだろう。

「ささ、ウエディングドレスは奥の部屋ですって!」

 視線で火花を散らしあう私たちに、朋子が気を利かせて声を掛けた。3人で店の奥に入って行くと、白を中心に色とりどりのウェディングドレスが細長い部屋の両側に掛けられていた。店員が一着のドレスを持って近づいて来る。

「どうぞ、フィッティングを」

「ああ、もう決まってるのか」

「はい、今日は最終確認なんです」

「あれれ? 美紀子先輩、最初から付き合ってあげたんじゃないんですの?」

「そんな細かい所まで口出ししないよ。あんたみたいに暇じゃないしね」


 私らが睨み合っていると、朋子がドレスに着替えて出てきた。

「わぁ、見違えたよ朋子!」

「まぁ良いんじゃない」

「派手過ぎじゃありませんかね?」

「どこがだよ。いつも地味な恰好してるからそう思うだけで、ウエディングドレスとしては普通だよ」

 確かにハートカットのビスチェは、普段は隠されていた朋子の豊満な胸が大きく強調されてはいたが、そこまで下品な印象は無い。何よりいつも地味子な彼女の晴れ舞台だ。このくらいじゃないと主役として引き立たないと思う。

「よかった、二人にそう言ってもらえて安心しました」


「所で、お色直しはどうするの?」

 恵利華がもったいぶったような口調で聞いてきた。

「食事の時は、持っているドレスに着替えようかと思ってます」

「ダメよー! せっかくの一生一度の晴れ舞台じゃない! たぶん」

 まーた始まったよ。仕切りたがりのエリカ様だ。

「レストランウエディングで、シンプルに行うので。神父役も彼の友人がやるし」

「はぁ? 教会も使わないの?」

「とくに信者という訳でもないですし。形式的なもので良いかなって」

「ああああ! もう! 最悪じゃない! そんなしみったれたセレモニーで結婚式といえるの?!」

 エリカに押されて、オロオロしだす朋子。はぁ、ここは助け舟出すしか無いね。そのために来たんだし。


「私は良いと思うけどね。常識にとらわれない新しいやり方で」

「美紀子さん!」

「結婚とはもっと尊いものですわ! 多くの方々に祝っていただくためにも盛大に執り行うのが一番! 先輩は結婚とは縁遠いからそんなことが言えるんですわ!」

「やはり家庭に入って古臭い考え方になってしまったのねエリカ。それに私は結婚に縁遠くはない!」

「なんですって! だって、まだあの自称俳優のヒモを飼ってるんでしょ?」

「ああ、そんな時もあったわ。でも、それは過去の事。今のカレはシリコンバレー流の新しい考えの持ち主なの。百億円企業のCEOなのに、自分でお茶出しするのよ!」

「ああ、美紀子先輩! とうとう妄想の世界に逃げ込むようになってしまわれたのですね。なんと嘆かわしい!」

「誰が妄想族じゃ! 月曜日にワイドショーで見るといいわ。日曜に行われる映画プレミアで彼と一緒にレッドカーペットを歩く私の姿をね!」

「日曜のプレミアパーティーなら私も伺いますことよ」

「はぁ? なんでなんも関係ないあんたが来るのよ?」

「美紀子さん。私も招待されました」

「え?! どういうこと?」

「引退した魔法少女たちも招待されてるんですのよ。ラプラスの田村阿覧が計画したみたいですけど、彼かなりのやり手ですわね」

「そのアランよ! 私をレッドカーペットでエスコートしてくれるのは!」

「はぁ? なんで、あのアランが年増の魔法少女なんて相手にするのよ? やっぱり妄想ね!」

「現実が見れないのはお前さんの方だよ! 日曜に吠え面かくなよ! この成金金バエが!」

「ムキ―! 今、なんとおっしゃって?!」

「あ、あのう。私の件は良いんでしょうか?」

「「関係ない奴はすっこんでろ!!」」

 という訳で、朋子の件はもはやどうでもよくなり、私は日曜のプレミアで恵利華を羨望させ、なおかつ絶望の底に叩き落してやると堅く誓ったのだった。

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