第4話 新人の自己紹介
「これで18歳? 体つきは小学生レベルじゃん! こんなんで激戦区の渋谷に配属とか大丈夫なの?」
私は上から下まで舐めまわすように新人を見た。見られてる方は、もじもじと内股気味になって赤面している。その姿はなんとも頼りない。そんな私の疑問に署長が答える。
「彼女は、魔法少女養成所でもトップクラスの成績よ! 特に彼女が考案したネガティブアンドアンチサイコロジカルアタック、略してNAUPSYCAA(ナウシカ)理論は学会でも高く評価されているわ」
「ナウシカ理論? なんだか魔獣の触手に襲われて「わたし、金色の野に立ってる!」とか現実逃避しそうな名前っすね」
私が慇懃な目で彼女を見下ろしていると、環がいきなり大声を上げた。
「ああ! あなたね」
「どうした環?! 知ってんの?」
「はい、私の出てるファッション誌「NG(ナイスガール)」に成瀬さんのインタヴューが載ってましたよ。変身後の姿だったんで気がつきませんでした。先輩、成瀬さんの変身後ってピンクのツインテに白いフワフワドレスの所々にピンクの刺し色がしてあって、そりゃもう、思い出すだけでもよだれが……」
環は顔を上気させて、めっちゃ早口でまくし立てた。
「おいおい、落ち着け環!」
こう見えて環はロリロリな少女が大好物のド変態である。自身は黒い革ジャンにパンツスタイルの普段着なのに、女子小中学生タレントのイベントに足繁く通うマジヤバな趣味の持ち主なのだ。しかも、その革ジャンスタイルにデカいグラサンとマスクで変装してイベントに行くものだから、その会場でも怪しすぎて廻りに人が近づかない効果を発揮し、幸い彼女だとまったくバレないでいた。よだれを拭った環が冷静さを取り戻し彼女に質問する。
「そのナウシカ理論について、教えてもらえないかな?」
「はい! ナウシカ理論は、今までの物理攻撃を主体とした対魔獣戦に代わり、精神攻撃を主体とした戦術です。ご存知のように、魔法は精神力を具現化したものです。なので、使用者の想像が現実的であるほど物理的な力となって具現化します。しかし、逆に抽象度の高い想像であれば、物理的影響は軽微で、純粋に魔獣の魔力のみに影響します。光の魔法少女金河環先輩のセイクリッドブレードなどは特にその抽象性の純度が高いため、魔獣のみに影響を及ぼし、周辺への環境被害が少ないのです」
「何言ってるか解る環?」
「先輩にも解るようにに言うとですね、先輩の魔法は火属性なので街を燃やしたり破壊するけど、私の魔法は光属性なので明るいだけで街に被害が出ないということです」
「ざっくり言えばそうですね」琴葉が口を挟んで来た。「なので、より環境負荷の少ない戦い方として、魔獣の精神に直接語り掛け洗脳することでその存在を無力化するというものです。ひいてはサーバント化した魔獣を安全な場所まで移動した後に無力化することや、複数の場合には相打ちにさせたり共食いさせるなど、多様な戦略が可能となるのです」
「魔獣を自由に動かすことが出来るってことですか?」
「将来的にはそうです。現段階では完全な掌握まで至っていないのですが、いずれ魔獣を操作して戦力にしたり、建設現場で労働力として活用したり、サーカスの出し物に加えたり、派遣会社にスタッフ登録して介護や事務職、イベント警備など様々な現場で活用したりと、その可能性は無限に広がっているのです」
長々とご高説を垂れた琴葉は、どや顔で話を締めくくった。
「そんなに上手くいくのかね。その奴隷化の魔法はすぐに魔獣にかかんの?」
まだナウシカ理論だかを信用しきれない私は、彼女に疑念を呈した。
「すぐは無理ですけど、ある程度肉体的精神的に弱体化したところに掛ければサーバント化可能です」
「はっ! そんな事だろうと思ったよ」
「な、なんですか」
琴葉は、私の言葉にビクッとした。
「お前さん、格闘の方はどうなんよ?」
「か、格闘ですか? それは実戦経験が無いのでなんとも……」
「じゃあ何かい? 私らが連中を弱らせた所に魔法を掛けるってのかい?」
「現状ではそうならざるを得ないかと……」
段々と、俯き加減になり声が小さくなる琴葉。やっぱり、机上の空論じゃないかと思った私はさらに畳みかける。
「バカ言っちゃいけないよ! 弱った所を奴隷にする手間かけんなら、そのままトドメさした方が絶対良いに決まってんじゃん!」
「う、動きを止めさえすれば、そこまで弱らせなくても精神魔法を当て続ける時間が稼げますし、街中で始末するよりは、郊外の空き地などで処分した方が望ましいと魔法庁も言ってます!」
「じゃあ、仮に奴隷になった魔獣が移動中に奴隷化が解けたらどうなんの?」
「そ、そんな事は無いと思います」
「絶対にないんだな?」
「絶対とは……」
「移動中に、制御不能になって暴れ出したらどうすんだよ?」
「どうするって……、その場で処分するしか」
「だったら、最初から仕留めて置いた方が安全じゃん」
「う、うぅ……」
私に論破され、琴葉は言葉に詰まったようだ。お勉強だけ出来て頭でっかちな自信満々タイプじゃ、現場に出た時に「こんなはずじゃなかった」となるのは目に見えてる。
「お嬢ちゃん、あんたの考えてることは実際の現場では役に立たない机上の空論だよ」
「ぐっすぅ、うぅ……」
「先輩ちょっと言いすぎじゃ……」
「環は優しすぎんのよ。こういういい気になってるお子ちゃまにはガツンと言っとかないと」
「うぅ……。琴葉、お子ちゃまじゃないもん……」
「あ? なんだって?」
「琴葉、お子ちゃまじゃないもん!」
琴葉はガキみたいにブチ切れて言い返してきた。
「そういう言い方がお子ちゃまだって言ってんの!」
「うぅ……、うわーん!」
琴葉は大口を開けて、幼児みたいに泣き出した。私のみならず周囲がドン引きしている。
「おいおい、ギャン泣きかよ……」
「おばちゃんがイジメるぅ、うわーん!」
「てめぇ、いま聞き捨てならないこと言いやがったな!」
私が掴みかかろうとした所を環が間に入って体を抑えてきた。
「抑えてください先輩、大人げないですよ!」
「離せ環!! あのクソガキの性根を叩きなおしてヤル!!」
「二人とも止めなさい! みっともない」
今まで静観していた署長が呆れた顔で叫んだ。流石に署長の手前、私も振り上げたこぶしを降ろす。署長が言葉を続ける。
「二人とも罰として、パーティーの準備を手伝いなさい!」
「えー」
「歓迎パーティー開いてくださるんですか?」
目の色を変えて署長を見上げる琴葉。こいつ今のはウソ泣きだったんか?
「表向きはそうだけど、実際はメディアや関係各所を招いてイメージ向上のために行うのが本当の目的よ。なので、浮かれすぎちゃダメよ。わかった?」
「はい」
「あと、椿は飲酒禁止ね」
「えー!!」
こうして私は、罰としてパーティーの3時間前に入って、会場設営から手伝わされる羽目になったのだった。
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