第20話 ホテルのバー

 仕事の都合もあり、夜遅くにアランが行きつけのホテルのバーで会うことに。

窓際のテーブル席に腰掛け外の景色を眺める。高層階にあるバーの窓からは、光り輝く東京の夜景が一望できた。

「昨日は年甲斐もなく興奮してしまってすみませんでした。一ファンとしての気持ちが先走ってしまって、一人の女性として向き合うことが出来ていなかった」

「そんな、お気になさらないでください」

「ありがとう。このバーからの景色は素晴らしいでしょ?」

「ええ、まだ出来たばかりのホテルでしたから知りませんでした。東京タワーやレインボーブリッジまできれいに見渡せますね」

「僕はここに暮らしてましてね。部屋からの景色も同じものですが、バーという空間が何か特別な魔法を僕に与えてくれているように思うんです」

 そう言ってアランは向かいに座る私の手を取り、ジッと目を見つめてきた。

「アラン?」

「この仕事を始めてから様々な女性に出会う機会も増えました。でも付き合っていく中で何かがしっくりこなかった。そんな中、美紀子さんは違った。初めてテレビで見た時から、女性に対してこんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。僕にとってあなたは唯一無二の存在なんです。こうして、一緒に過ごす中でその思いは確固たる確信に変わりました」

「私も、あなたほど素敵な男性には出会ったこと有りませんわ」

 来るのか? 告白来るの? あー心臓がバクバクだぁ!

「美紀子さん、僕と公私ともにパートナーになりませんか?」

「それって、結婚……」

「いえ違います」

 私が話す言葉の途中でアランは遮った。

「はい?」



 数日後。

「先輩」環が訊ねて来た。「で、結局何なんですか? その関係って」

「来るべき21世紀は結婚などという古い関係性とは違った、全く新しいカップルのカタチであるべきなんです! ということらしいわ……」

 署長のデスク前にマホショ3人で並び立っている所で、隣の環が聞いてきた質問に歯切れ悪く答えた。

「それにしても、芸能人みたいですね」

 琴葉が、今日発売の写真週刊誌のページを開いて言ってきた。なんで、こんな会話になっているかと言えば、その写真週刊誌にホテルの玄関を出た後の私とアランの写真がトップ記事として掲載されているからだ。しかも、ガッツリ抱き合ってキスしている所を。

「アランって、普段はジェントルマンなのに、別れ際にいきなり抱きしめてキスしてくるんですもの! 心の奥には野獣を飼っているのよ。たぶん」

「なんか、出来すぎて居るように私には思えるのですが先輩……」

「で、本当にヤッてないんでしょうね! 椿!」

 橘署長が自分のデスクに週刊誌を拡げ、身を乗り出して聞いてきた。

「当たり前でしょうが! ここ数日ちゃんと任務こなしてたじゃないっすか!」

「橘署長。魔獣を相手にはしませんでしたが、先輩はちゃんと変身したし空も飛んでます」

「それなら、まぁ良いだろう。とは行かないのよ。椿!」

「はい!」

「あんた結婚しないんだったら、いつセックスするのよ?」

「なんと大胆なセクハラ発言!」

「バカヤロウ! 職務規定でセックス禁止令が出てるでしょうが!」

 確かに、魔法少女の出来ちゃった婚ならぬやっちゃった婚みたいなのが過去に問題視される事態があった。それを受けて紆余曲折が有ったものの、最終的には国家の安全保障上の理由が魔法少女の人権を制限する規定となって法整備が行われたのだった。罰則規定は無いが、労働契約上の根拠となり、損害賠償請求の対象となっているのだ。そのことについてはアランと話しあってはいた。


「私の希望としては、30になる前にしてくれるなら良いと言ってありますけど、てか、直ぐにでも貰ってくれとは、それとなく伝えはしましたけど、美紀子さんには魔法少女の仕事があるんだから、急がずゆっくり行きましょうと言われています」

 女子会でのガールズトークじゃねぇんだから、なんでこんな事を上司に報告せにゃならんのよ。

「なるほど。まぁ、私としてもノストラダムスの大予言で書かれている来年7月までは居てもらわないと」

「署長! それはちょっと長すぎますよ! 私としては、3月末に退職するのがキリが良いかなって! アランも結婚式はセレモニーとして挙げても良いと言ってるし。それならやっぱ6月、ジューンブライドでしょ?」

「何を旧石器時代みたいなことほざいてんのよ。後任の人選もあるし、現実的にはどっかからベテラン引っ張って来るしかないでしょうね。まったく、本庁との折衝が面倒だわ」

「署長、私が辞める事を今まで想定してなかったんですか?」

「椿、あんたにとって魔法少女は天職じゃないの。野球選手には40過ぎてもレギュラーの人も居るんだし、プロレスラーだったら60過ぎても現役はいっぱい居るわ」

「女子プロレスは居ないような?」

 環が首をひねって呟いた。

「とにかく! 私が居るのもあと3か月だと思っておいてください!」

 私は署長のデスクをバーンと叩き言い放った。ああ、29歳にして人生バラ色の私の前には怖いものなど何もない。まさに無敵状態となったのである。

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