ひなたアクティングスキル
「何やってんの?」
「べっつに~ スマホ弄ってただけ」
くっ 瞬き2回しやがった。って事は絶対に何かあるな
あかりはイチゴオレを飲み干したのか 紙パックをクシャっと潰してゴミ箱へと投げ入れた
「それより、クルースの推薦人集まったの? 」
「お前と違って、そんな簡単に集まらねーから」
「中等部は中等部で候補者が乱立しててさ、すでに別の候補者の推薦人になった人が多いから、妹ちゃんみたいに簡単には集まらんのよ」
高等部では絶対本命の『ひまり』が殿堂入りで、今年は狙い目かと思われ乱立模様となっていたが、あかりが立候補した事で辞退者が相次いでいる
一方の中等部では連覇した者もいなければ
似たり寄ったりなレベルの子が多く 芸能界やティーンモデルにも繋がりやすい 日桜学園ミスコン女王の称号を手に入れようと候補者が乱立していた
「ふ~ん 大変だねぇ」
「って、お前も余裕ブッこいてるけど、ミスコンとはタイプ違くねーか? 」
「確かに。妹ちゃんは、ミスコンってよりアイドル子役って感じ」
スッゴい勢いで あかりが机を叩く
「意義あり! あかりはアイドルの演技を超越してる。バカにしないで! 本格的な演技派子役よ」
「子役の所は意義なかったのかよ!? 」
突っ込みを入れていると 勢いよく部室のドアが開き 大きな音を立てて閉められた
「ったく! くっだらないガキみたい レベルが低すぎて嫌になるうぅぅ!! 」
不機嫌な様子で来栖は椅子に座ると バッグをドカッと机に置いた
「どうしたの、ひなちゃん? 」
「私が海斗先輩に告ったんじゃないか? ってヒソヒソしながらも、わざと聞こえる位の大きさで話してて、バカにしたように笑ってくるからムカついて」
「 突然、中等部なんかに行った俺たちが悪い ごめんね、ひなちゃん」
素直に海斗に謝られたので 少し落ち着いたのか 来栖はため息を吐くと眼鏡とウイッグを取って首を振り手櫛で髪を整えた
綺麗な金髪に青みがかった目 おそらく来栖のクラスメイトも、これが教室にいた来栖だと気付かないだろう
「海斗先輩が悪い訳じゃないです。幼稚なアイツらがムカつくんです」
「クルースさ。幼稚なアイツらなら、ムカつく必要もないよ。何も同じレベルにいることもないし」
「おぉ あかりさんが大人に見える」
「むぅ あかりは、クルースより2つも上なんだけど」
プク顔のあかりは、どうみても来栖より年下に見えた
「で、先輩たちは文化祭のクラスの出し物って、何されるんですか? 」
先ほどあった劇の題材と配役を来栖に話した
「えぇ! ちょーみたいんですけど! ひまりさんのアンドロイドとか、はまり役じゃないですかぁ。海斗先輩もギャングのボスとか、ッポイですよね!格好良い」
「俺は? 」
「あ~ え~っと その、陽太先輩は窃盗犯ですよね? ……小悪党って感じで似合うと思いますよ」
「じゃあ、そのアンドロイドと俺の恋愛関係は? 」
「あ~ え~っと その、似合わないと思いますよ」
ふむ 来栖は嘘を付くのが出来ない性格なのは分かった
「何か来栖がクラスから浮く理由も分かった気がするぞ」
「陽太先輩! 別に浮いてません。アイツらが沈んでるだけなので、浮いてる様に見えるんです。私が一緒に沈む理由もないですから」
協調性皆無だな
「ってか、ギャングのボスとか演じるの面倒くせー」
「まぁな 優しさを知らない窃盗犯とか、何だよ?って感じ」
(そうですか? )
ボソッと来栖が呟いたが聞き取れなかった
「え? 来栖、何か言ったか? 」
「結局みんな、普段から演じてるじゃないですか?
学校での自分 家での自分 1人の時の自分。 親といる時の陽太先輩も 海斗先輩といる時の陽太先輩も ひまりさんといる時の陽太先輩も あかりさんといる時の陽太先輩も全部演じてるんですよ
立場を変えて1番収まりが良いポジションに
まぁ それが出来るのがコミニュケーション能力とかじゃないですかぁ?
私はそれが上手く出来ないんでしょうね……」
自嘲気味に笑う来栖は視線を俺から下に落とした
来栖の言葉を考えてみる
確かに相手が誰かによって自分の立ち位置と言うか収まりやすいポジションはあるだろう
だか、それは演じてるのか? 自然とそのポジションになってる気がするが
来栖はそれを演じる事で……自分の意思で無理に収まってるからストレスが溜まるのだろう
自然と振る舞って皆からハブられる位なら 自分から、ボッチを選ぶ事でプライドを守ってるのかもしれない
「来栖さ。無理にとは言わないし、教室ではウィッグと眼鏡で良いと思うけど、それ以外では全部、今のお前でいろよ」
「どうしたんですか? 私に惚れたんですか? 外見だけ見て惚れる人は信用出来ません。お断りします」
「いや お前より可愛いの2人知ってるから、自惚れんな。勝手に振られる俺の気持ちも考えてくれ」
はっ! 咄嗟に口から出てしまったが……
「陽太~ ちょっとそこの『可愛いの2人』の名前を言ってみてぇ」
案の定 自分の事かと思ったのだろう 目尻を下げニヤケ顔のあかり
悔しいからお気に入りの2次元ヒロインを2人言ってみた
「いや、絵じゃん」
「別に絵でも良いだろ! 」
「2人とも脱線し過ぎ」
呆れたように海斗に言われたので修正することにした
「『本当のお前は』とか、そこまで知らねーから言うつもりねーし、教室での来栖も見た事ねーけど、明らかに金髪で眼鏡取った方が、軽いだろ? 」
「物理的にですか? 精神的にですか? 」
「両方。多分、精神的の方が軽くなってるだろうけど」
「……何かムカつきます。陽太先輩の癖に私の事を知った風な口を叩いて」
「いや、だから『本当のお前は』とか言うつもりねーって。ただ、ひまりが来栖と似てるんだよ」
ひまりにも色んな顔があって、本当は俺がまだ知らないひまりもいるだろうけど、少しでも来栖から不安を取り除きたかった
「ひまりもビジュアルのせいと、人見知りの性格から中等部の時は色々とあったんだよ」
「え? ほんとに?? 」
来栖よりあかりの方がビクッと驚いてしまっていた
「あぁ 詳しくは言わないし、あかりは感じてるかもしれないけど、今もクラスの中で、ひまりは打ち解けてはないだろ? 」
「うぅん……何か、ひまりちゃんもだけど、クラスの皆も腫れ物でも扱うみたいに、遠くから当たり障りなく接してるような」
空気を読むのが上手いあかりだからこそ 察して良い距離感でクラスメイトとひまりの橋渡しをしている
「『氷の美少女』何て言われてて、確かに冷めてる所はあるけど、意外と頑固だし、天然な所もある。下らない事で笑ったりもするし、本当のアイツは全然『氷』何かじゃねーよ」
「私の場合は『本当のお前はとか言うつもりねー』とか言ってたけど、ひまりさんだと『本当のアイツは』とか言っちゃうんですね」
「俺が言いたいのは、そこじゃないし。カノ……幼馴染み何だから当たり前だろ」
って、言いながらまだまだ俺の知らない、ひまりもいるんだろうが
「陽太先輩の癖に生意気です……でも、何か軽くなったかもです。憧れのひまりさんも同じ感じだったんだ。って思うと」
微笑む来栖を見て胸を撫で下ろす さすがひまり効果!
「やっぱり相談して正解でしたね。陽太先パイ」
ペロッと舌を出すと上目遣いに髪を耳に掛ける来栖
だあぁぁ キュンと来る仕草をしないでくれ!
「陽太! 鼻の下が伸びてる! 」
「バカが、伸びてるのは鼻だ……あれっ 違う? 鼻の下で合ってる」
「バカは陽太だ! あかりは常に学習してるのだ」
「ってかさ。何で、ひなちゃんって陽太に相談しようとしたの? 接点ないよね? 」
確かに!! 言われてみれば接点はない 偶然にバイト先で来栖を見付けて話し掛けたが、来栖は恋愛同好会の事を知っていたし 俺のバイト先も知っていた?
やだ 怖い もしかしてストーカー??
「私はストーカーじゃないです」
人の心を読んだだと
来栖はウインクしながら人差し指を鼻に当てた
「今は内緒です。ミスコンが終わって優勝出来たら教えて上げても良いですよ」
「よし、来栖! 過去のミスコンを参考に質疑応答や特技披露を練習するぞ! 」
「陽太。その前にクルースの推薦人集めなよ。もうすぐ締め切られるよ」
そうだった まずは推薦人集めだったんだ……
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