第11話 天使と天使とペテン師

 うわっ! あかりの頭が目の前にあって びっくりした……

 胸の辺りが重い それもそのはずで 俺はあかりを右腕で抱き締める様に眠っていたみたいだ


 あれ? 鈴影ツインズと俺の家で勉強してたよな あかりは絵とか書いてたけど そっか。いつの間にか俺たち寝ちゃってたんだ


 起こさないように少し距離を取り腕枕へと変えた。

 しかし 睫毛なげーな 無防備な寝顔で天使かよ 順調に育っていれば ひまりは氷の美少女言われてるから あかりは太陽の美少女 とか言われてそう


「ようたぁ エヘヘ ようたぁ好きぃ」


 ムニャムニャしながらも 告白してくるとは 攻撃力が高い寝言だ でも よだれが俺の腕に垂れてるぞ


 ……左腕には柔らかい気持ち良い感触が。左足も何か絡められてる。って事は……顔を向けてみると


 わ!


「モテモテだね陽太君」

「ひまりは起きてたのか? 」

「うんうん 私も今 起きたとこ」

「誰が一番、最初に寝たんだろうな」


 ってか、ひまりは抱き枕のように俺の左足と左腕に絡めるから全神経が胸の感触にいってしまう


「陽太君が最初で次があかり、最後は私」

「え? 俺が最初? 」

「そうだよ。『夏休みの課題終わるまで寝ないぞ』言ってたのに30分もしないうちにコロンって寝転んですぐに寝息立ててたよ。ペテン師だね」

「ペテン師って……マジかぁ 覚えてねーや」


 花火大会の翌日から5連チャンでバイトだったから思ってるより疲れてたのかな?

 でも、こうして寝転びながら、ひまりと目を合わせて話してると意識が男子高校生そのままに襲ってしまいたくなる


「で あかりも『寝るー』言って陽太君の腕の中に潜り込んだから 何か悔しくて左側だけで我慢してる」


 そういう理由で抱き枕にしてたんですね……


 ちくしよおぉぉぉ おもっくそ いじらしく可愛いじゃねーか!

 なに いたずらっ子の様な笑顔での上目遣い

 こっちにも天使がいたよ。


 天上では天使が2体も地上に逃げたぞー って、今ごろ大騒ぎだよ!

 右に天使、左に天使、真ん中にペテン師……

 なかなかの組み合わせだな


「さっきも言ったけど明日はあかりをお願いね」

「分かった。でも良かったな もう通院だけで」

「うん。あかりもリハビリ頑張ってたし検査でも異常はなかったし」

「そっか。ほんとに夏休み明けにはクラスメイトになってたりな」


 少し困ったように微笑むひまり 同じクラスになったらなったで、保護者役はひまりだから苦労はするよな

 で、明日は鈴影ツインズの母親が先生をやっている茶道の懇談会?だかがあるらしく午後過ぎから晩まで、生徒さんであるひまりも付き合わないといけないらしい

 なので俺とあかりで遊ぶことになっている


 って、ひまりはさっきよりも強く左腕と左足を絡ませてくる

 ひまりの華奢だか出るとこ出ている艶かしい体は 隙間を埋めるように密着されていく。ひまりの体温や鼓動が伝わる 俺の体温も鼓動もひまりに伝わっているのだろう。何もしてないのに溶け合って1つになっていく……なんかエッロ !!


「ドキドキするね」

「あ あぁ」


 右側のあかりの重みは完全に忘れており ひまりが目を瞑ったので キスをした


 唇を重ね1秒 2秒 3秒…… この瞬間だけは音も何もかもが消え 世界には俺とひまりしかいない様な気がする


 唇が離れると小さく笑い合った


「面倒くせーけど勉強の続きでもするか」

「そうだね。その方が夏休み後半も会えるし」


 あかりを眠りから覚めさせないように 静かに体をお越し勉強の続きに取りかかった

 ここ最近のひまりは積極的に思える 前はひまりから抱き締めて来るなんてなかったし キスをせがんで来るなんて考えられなかった

 何がひまりをそうさせたのかは分からないが俺にはありがたいことだ



 勉強も終わり居間でテレビを見ていると キッキンからはカレーの良い匂いが漂ってきた


「陽太ー あかりも手伝ったぞ カレーを食えーー」

「お あかり やるじゃんか」


 キッキンからはトレイにカレーライスを乗せ運んでくるひまり

 もう ほんっと 薄いピンクのエプロン姿がキュート

 氷美少女が満面の笑みでカレーライス作ってる。とか学校の奴等は信じられねーだろーな

 ひまりの主食は、かき氷かアイスだと思われてるからな


「お待たせ。あかりも食べるから少し甘めに作っちゃったかも」

「あかりは中辛で良かったのにぃ~」

「花火大会の時にフランクフルトのマスタードで泣いていた奴に中辛は無理だ」

「陽太までー あかり子どもじゃないもん」


 頬をぷくっと膨らませる その顔が愛らしくて。 つい、からかいたくなり咄嗟に頬を突っつくと


 ブッ


「あかりがオナラしたぞ!」

「し してないもん。陽太が突っつくから」


 顔を赤くし両手の拳でポカポカと俺の肩を叩いてくるあかり それを微笑ましくみているひまり

 何気ない日常だけど、あかりが戻って来てくれた事で 俺とひまりは笑う回数も増えたし、何倍も何十倍も楽しくなったのは間違いない


 俺とひまりには流れていた時間の中に 時が止まっていたあかりが入ってきた事で、奇妙にも俺とひまりの結び付きが強くなった気もするし、色んな不安はありつつも幼馴染みの頃と同じように過ごして行けると思っていた



 甘口にも関わらず辛いと言いながらカレーを食べるあかりを見ていると このまま俺たちと6年間の差は埋まらないで欲しいとさえ思った

 あかりが一気に俺たちに追い付くことで、心地良いバランスが崩れていきそうで あかりには酷な事だし 勝手な事を言うな。って話だが 願わくばこのまま俺たちより大分だいぶ幼いあかりでいて欲しい

前はあかりの為にゆっくりと6年間の空白を埋めていって欲しいと思っていたのに 今じゃ自分の為の考え方になっている

ほんとにペテン師みてーだ 最低だな俺は


 翌日になり地元の小さい神社でも夏祭りがやっているので、そこに行くことにした。


 夕方になりあかりを迎えに行くと 前とは違った見覚えのある浴衣を着ていた


「これ ひまりちゃんが小6位の時に着ていたんだって」

「何か見覚えはあるな。あかりも似合ってるし可愛いじゃん」


 あかりの顔は冴えない ひまりのお下がりを着ているのが不満なのか 少し浴衣が大きいから自分の小ささが悲しいのか


「ほれ お手々を出しやがれ」


 俺はサコッシュから飴を取り出し 差し出すあかりの手に握らせた


「これは笑顔になる飴ちゃんだぞ」

「なにそれ? 」


 子ども扱いされてるのが嫌なのか、不満気なあかりは飴を見つめたままだった


「良いから舐めてみろって」


 俺に促され仕方なく飴を口に入れた瞬間

 思いっきりあかりの脇腹をくすぐった

 職務質問受けるのは間違いない位に 見た目が可愛い小学生の脇腹を思いのままに擽った


 あかりが脇腹に弱いのは知っていたからな 狂ったかのように逃げ惑いながら笑うあかり

 それを執拗に追いかけ回す変態男子高校生


「どうだ? 参ったか」

「参ったから もう もう止めて~ 笑いすぎてお腹が痛い」


 これ、後でひまりとあかりでやってもらおうかな

 良いシチュエーションになりそうだ


「じゃ 今度こそ ほれ」


 あかりの右頬には飴玉が入っているのかポコッと膨らんでいた 飴玉の甘さもあるだろうがニカッと微笑むあかり。そのあどけない笑顔が俺にはすげー甘く感じ、思わず笑みがこぼれ小さい手をギュっと握りしめ神社へと歩き始めた

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