第10話 6年前の想い
「どんどん人が多くなってくるな。 手を離すなよ 迷子になるぞ」
「分かったー ひまりちゃんも迷子になっちゃダメだよぉ」
俺とあかりが一歩後ろを歩くひまりに振り向くと ニコッと微笑み返された。
これだけ人が多いと3人1列で歩くには邪魔だしなぁ
本当は、ひまりと手を繋いで行くはずだったけど仕方ない
それよりも鈴影ツインズを見て顔がニヤつく男が多いこと お前ら今から徳を積んで来世にかけてろ!
人の流れと同じ様に歩いていると 良い匂いが鼻孔を
「良い匂いがするー 」
「何だよ 花火より食いもんが先か」
後ろからひまりが声を掛けてくる
「有料席だし買ってから座って、ゆっくりと食べれば良いんじゃない? 」
全国的にも人気がある花火大会にも関わらず俺たちは有料席に座れるのだ これも鈴影ツインズの父親の会社が主要スポンサーでもあるからで要はコネだ。
「それもそうだな あかり何食べる? 」
「焼きとうもろこしー イカ焼きー 焼きそばー フランクフルトー りんご飴 ー そして、わたあめー 」
「ちょ ちょっと待て 食べたいものじゃなくて、食べるものな! 」
「えーー 全部食べれるよぉ」
「りんご飴と、わたあめは花火大会が終わってから 帰り道にゆっくり食べましょう 」
「ひまりちゃんが言うなら仕方ない その2つは後でで我慢しよぉ」
屋台から漂ってくる匂いって 何でこんなにも香ばしいんだ! 確かに食べられそうな気もしてきた
1つの大きめの袋に焼きそばやイカ焼きのパックをまとめた上にラムネやらも入れたので、なかなかの重量感だ
花火が打ち上げられる河川敷から 少し離れた運動場は人の多さで熱気に満ちており 人混みを掻き分けて有料席のブルーシートへと向かった。
「おっ ここだ 座ろうぜ」
「あかりは焼きそばを食べるのだー」
有料席のブルーシートもペアシートなので定員は2人だが あかり1人が追加になっても まだまだスペース的な余裕はあった。
「こら あかり。おしぼりで手を拭いてからだよ」
ひまりはあかりの小さい手を取り おしぼりで綺麗に拭いていた
その横顔や何でもない行動を見てると、母性と言うものなのか 俺はひまりにドキッとしてしまった……
『頂きます』
屋台の味らしく どれもこれもが、とても濃く大味だったが雰囲気がスパイスとなって とても満足出来る味になるから不思議だ
味覚1つより嗅覚や視覚の相乗効果が勝ったのだろう
「もぅ 口周りにも頬っぺにもソースが付いてるよ」
甲斐甲斐しくあかりの顔に付いたソースを拭き取るひまり
とても同じ年齢の双子には見えない
あかりには申し訳ないが 俺はこんな3人の関係もありだと思っている
6年間の空白を一気に埋めたいあかりだが 一気に埋める必要なんてない。
空白をゆっくりと取り戻して欲しい 嫌でも年は取るんだ それなら1年1年を大事に過ごして 少しずつでも成長した方が、あかりの為にもなるんじゃないか。と思っている。
そんなことを考えているとアナウンスが流れ 少しすると音楽とともに夜空には大小の様々な花火が上がった
「うおぉぉ キレイーー ひまりちゃん 凄いねー!! 」
「ね 凄い綺麗」
早くもボルテージが振り切れるあかり
打ち上がる花火は色取り取りでとても綺麗で あかりの隣に座るひまりの顔は、花火が夜空にパッと輝くと陰影のせいなのか、より美しく色っぽく見え、花火が打ち上がる度 ひまりの横顔に何度も見とれた
もう少しで届く……
間にあかりがいる以上は、ひまりを抱き寄せる事も出来ない
後ろに置いた両手の右手だけをバレないように あかりの背中の後ろを通り ジリジリとひまりの方に寄せると ひまりも気付いたのか左手だけを寄せてきた
届いた……
体勢は少し辛かったが ひまりと手を重ね合わせながら 花火を見上げ
どちらからともなく互いに指を絡め合わせた
暗闇の効果もあり鼓動は早くなっていったが ひまりと触れ合っている感覚はとても心地が良い
あかりが間にいるという背徳感もあり逆にそれが刺激ともなり、チラッと横目でひまりと見つめ合うと
『俺(私)たち共犯者みたいだな(ね)』想いが通じ合ったのか互いに笑みがこぼれた 改めて思う ひまりが好きだと……いつから ひまりに俺は恋愛感情を抱いたのか? ひまりはいつから俺を好きになったのだろうか?
恥ずかしくいまだに聞いていない
「最後の花火凄かったね」
「うん。大迫力で、あかり鳥肌立っちゃったよー」
「音も凄かったしな」
帰り道も混むだろうから 少しブルーシートに座り花火の余韻を楽しんだ
「我慢してたけど あかりトイレ行きたい」
「会場の備え付けのトイレでも大丈夫? 」
「う うぅ 汚なくなきゃ大丈夫」
「取りあえず そこまで行くか。多分、近所のコンビニとかもトイレ客多そうだし」
会場に備え付けのトイレは敬遠されているのか 人は少なく あかりはすぐに入っていき 俺たちはすぐ近くの自販機の前で待つことにした
「みんなコンビニのトイレとか行くのかな? 」
「かもな 」
「ちょっと どうしたのよ? 」
人通りもなかったので 我慢してた気持ちが抑えきれず ひまりを自販機に押し付けた
ひまりも子どもじゃないし、キスは初めてでもないから分かるだろ
黙って目を瞑るひまり あかりが出てくる前にしないと
壁ドンならぬ 自販機ドンをした
ピッ ガチャン
取り出し口にジュースが落ちた音が響いた
誰だよ! お釣り取り忘れたの? 良い雰囲気が台無しだよ
トゥットゥルー
しかも当たっちゃったよ もう1本飲めるよ!
「クスクス 運が良いね」
「あ あぁ……」
突然 ひまりが俺の首に腕を回し背伸びをするとキスをしてきた
この感触だ! 柔らかく温かい ずっとしていたくなる ひまりの付けている香水の瑞々しく甘いフルーティーな匂いとキスはほんの一瞬だけだった
「トゥットゥルー」
「な なによ 陽太君? 」
「当たりで もう一回……とかないかなぁ」
「バカ ないわよ あかりが戻ってきちゃうし 早く帰らないと門限が」
ひまりが言った通りで あかりはすぐに戻ってきた。鈴影家の門限は22時なので 残り20分でギリだな。
俺は取り出し口からジュースを2本取り出しプルタブを開けてあかりに手渡した
何か悪い気はしたので100円は自販機に入れといた
「ほれ 炭酸だけど、まだ飲めるか? 」
「飲めるーやったー」
ゴクゴクと飲み出すあかり
「はいもう1本はひまりちゃんに上げたみたいだから 陽太も飲んでいーよ」
「お サンキュー」
あかりから受け取り少しだけ飲んで返した
「あかりと間接チューだぁ りんご飴よりわたあめよりも甘いよー」
何が嬉しいのか、あかりはエヘヘと笑いながら缶ジュースを眺めながら歩き出した
少しするとあかりの息遣いが荒くなって来てるのを感じ
「あかり 大丈夫か? 」
「無理しちゃダメだよ 少し休む? 」
「大丈夫ー 少し疲れただけ 門限もあるし」
今日は大分はしゃいだし 長時間外にいたから余計に疲れたのだろう
俺はしゃがみこみ背中の後ろで両手を組んだ
「ほれ 乗れよ」
「うぅん……」
遠慮するようなキャラじゃねーだろ!
「時間がないんだろ? 乗っていけ! 」
「なにそれー? じゃあ乗るーー ありがと陽太」
「よし じゃあ歩くぞ」
一度は言ってみたい台詞だったんだよなぁ 主役が悪役を追いたいけど、足がなく困っているところに颯爽とバイクで現れて 後ろを指差しながら言う。みたいな
おんぶされているあかりは眠ってしまったのか 可愛い寝息を立てていた
「ひまり 今さら変なこと聞くけど あかりが事故った時って覚えてるか? 」
ひまりの足が止まる
「……ほんと今さらだね。陽太君とあかりが足の遅い私を置いて、先に走って行っちゃったから……私が追い付いたときにはもう……」
そうだよな。ひまりが後から来たのは何となく覚えている
「あかりね。10歳の時にはもう陽太君に惚れてたんだよ」
え!? そうなの! 全然気付かなかった
「陽太君もそこそこ女子には人気があったんだけど、あかりが女子の皆に『あかりは陽太が好き』って公言しちゃってて 可愛くて性格も良くて人気者のクラスのリーダー格だった、あかりに敵う訳もないから 陽太君を好きだった他の女の子は勝手に諦めた感じなんだよ」
初めて聞くことばかりだ 前にあかりは『陽太は昔からモテナイもんね』って言ってたけど、お前のせいでモテなかったんじゃね?
「私もあかりだったら、後々、陽太君と付き合っても良い。って思ってたし」
10歳やそこらで そんな風に思うか? 女子って大人だな……
ギリギリ22時前に鈴影家に着いた。
「あかり。起きなさい 着いたわよ」
ひまりが あかりの背中を軽くはたいた
「ん んんぅ……お家ついたのー?」
「降ろすぞ」
しゃがみ込むと あかりはゆっくりと足を地面に着けた
「ありがとー 陽太 陽太の背中おっきいね 安心出来たよぉ」
「そっか それは何よりだ」
「陽太君 今日はありがとね お休みなさい ほら あかりも」
「お休み 陽太 夏休みだからって ゲームばっかしないんだよぉ」
「気をつけます お休み」
ひまりから昔のあかりの想いを聞いたから 妙にこそばゆい
車に撥ねられた時、口を開いて何かを俺に伝えようとしてたあかり
何を伝えようとしていたのか……
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