第9話 鈴影ツインズと花火大会に夏祭り
8月4日 地元では夏祭りに花火大会があり 学生やカップルに親子連れと、人口密度が通常の5倍は濃くなる日だ
俺はかなり前からひまりと行く予定だったが 駄々をこねたのかリハビリが順調なのか その両方か、あかりが外出許可を貰い 3人で出掛ける事になった
18時を過ぎていたがまだ空は明るく 昼に雨が降ったせいでアスファルトは湿っており肌もベタつく
鈴影ツインズを迎えに行く途中途中で巾着袋を手から下げ 浴衣姿の女の子がカランコロンと下駄を鳴らし 夏の風情を感じさせながら歩くのが目に入ってきた
1時間後には この街にも夜の帳が下り 空一面には花が咲き乱れ そこかしこから歓声が上がるのだろう
鈴影家へ着いたので呼び鈴を鳴らす
前と同じ様に勢い良くドアが開く
今日は心の準備は万全だ
「陽太ー 花火だ はなびー あかりの浴衣を見てくれー 」
俺に抱き付いてくるあかりをしっかりと受け止めた
「おす あかり。 おっ珍しいな 上は浴衣なのに下はスカートかよ 可愛いじゃん」
あかりの浴衣は上下ともハイビスカスの柄があしらっており 帯留めも後ろはリボンが付いてたりと子どもからみて『可愛い』と思えるような感じだ 襟元や袖口にスカートはフリルがついてるし あかりの茶髪と相まって 浴衣姿でチョコチョコ走り回る様な元気っ子の誕生だ
「そうだろー ひまりちゃんは もう少し時間が掛かるって 何かぁ 鏡と凄いにらめっこしてたぁ」
「そっか じゃあ 少し待ちますか」
「うん。テラスで座ってよー」
鈴影家の独占禁止法を食らってしまわないか心配になる だだっ広い庭を少し歩くとウッドデッキがあり 木々や花壇の草花をゆっくりと観賞が出来るように白い丸テーブルと椅子が置いてあったので ポケットに入れているスマホをテーブルに置いて座った
「それにしても 相変わらず広いな」
「ねー 。 あかり 小さいころ何回も家で迷子になったもん」
「今も小せーだろ」
「むぅ 陽太にバカにされたー あの陽太にバカにされたー」
椅子に座ると床に足が届かないあかりは 頬をぷくっとさせながら足をブラブラとさせている
本当に小さい……事故に遇わなければ 今はどの位の身長だったんだろ?
姉のひまりと逆で運動神経は抜群に良いあかり 頭はツインズはどちらも優秀だったよな 絵とか図工は苦手だったけ、かな。
「陽太 この虫の鳴き声って良いよね? あかり好きだなぁ」
虫の鳴き声? ミンミンミンミン聞こえるがミンミンゼミはさすがにわかるよな?
「ほら これ」
あかりはテーブルに両手で頬杖を付くと小さい顔を その上に乗せ目を瞑った。
「 このカナカナカナカナってやつ 何かさぁ あかりが落ち込んでる時は癒してくれるし 元気が有りすぎの時は落ち着けよ。って言ってる様に聞こえんだよねー」
良い声してんなー とは思うが そこまで風情に浸ったことはねーよ
「このカナカナカナカナ。って声……あかりが車に轢かれたときにも ずっとしてた気がする 耳に入って来てたもん」
瞬間 脳裏に、頭から血を流すあかり アスファルトに流れる血。横たわりながらも手を差し伸べ 口をパクパクと動かしては俺に微笑みかけるあかり。そして、後からひまりの耳をつんざく悲鳴がフラッシュバックした……
頭が割れるように痛い 息が苦しい 耳の奥深くからキーンと何かがずっと鳴り響いている
「ようた? どうしたの? どこか痛いの? 」
鼓動が早くなる 汗が止まらない 俺は深くゆっくりと息を吸い込み ゆっくりと吐き出した
3回目くらいから 落ち着きを取り戻した
「いや 大丈夫だ。落ち着いた」
そう言うとテーブルに置いたスマホが振動と点滅を開始したので手に取ると
『あ 陽太君 ごめんね待たせちゃって あかりと一緒だよね? 準備出来たよ』
『ひまりを待つのは嫌いじゃねーよ じゃ すぐにあかりとそっち戻るわ』
スマホをポケットにしまうと
(陽太は悪くないよ)
「え? 何か言ったか? 」
ボソッとあかりが呟いたものの声が小さすぎて聞き取れなかった
「うん。あかりを待つのは嫌い? 」
いつもの無邪気な笑顔で俺の顔を覗き込んでくる、あかりの頭をポンッとしながら
「バーカ 超好き」
「ひまりちゃんより? 」
うっ 言葉が出てこない……
「冗談だよぉ いこ ひまりちゃんが今度は待ってるよー」
そういう冗談は止めてほしい
それにしてもフラッシュバック何て初めてだ
目の前で起こった幼馴染みの事故だからなのか 俺はあかりが撥ねられた瞬間の記憶が飛んでいる
覚えてるのは青信号を渡るあかり 血を流しアスファルトに横たわりながらも俺に微笑みかけるあかり……
ダメだ。やっぱり撥ねられた瞬間は全く覚えていない
赤信号を無視した車が突っ込んだのは分かるが……
「ごめんね 陽太君。あかりも」
鈴影家の玄関前まで戻るとひまりが立っていた。見た瞬間に言葉を失った 俺から数秒間は50音が消失してしまったのである
「ひまりちゃんキレーだねぇ おっとなーー」
「ありがと。あかりだって可愛いわよ」
「ようたーー ハトが鉄砲喰らったような顔をしてるー」
それはヤバい 動物愛護団体に訴えよう
せめて豆に変えてくださいと
「陽太君? 」
「ぷっはぁ」
息をするのも忘れていたらしい
あかりが言うように 藍色の浴衣に黒髪も片サイドに寄せた大き目の三つ編み?って言うのか分からないが 凄い大人っぽい。けど毛先には細いリボンがしてあって可愛いし
「めちゃくちゃ良いし、めちゃくちゃ似合ってる 女神が平伏すレベルだよ ひまり」
「あ ありがと」
「褒め方がへただなぁ 他に出てこないの陽太は? 」
「ボキャブラリーが少なくて悪かったな! 俺的には最高だよ」
何故かあかりとひまりは見つめ合うと笑いあった
何かおかしい事を言ったかな
「引き分けみたいだね ひまりちゃん」
「あかりズルいよ 陽太君に言わせたでしょ? 」
「しらなーい 普通に聞いたら 陽太が言っただけだよぉ」
どうやら2人は ひまりの浴衣姿を見て俺が何を言うのか、賭けをしていたみたいだ。
ひまりは『めちゃくちゃ』
あかりは『最高』
このワードが出てきた方が勝ちだったらしい
俺ってホントにボキャブラリーが少ないんだなぁと悲しくなってきた
「さっ 行きましょう」
「陽太 いくぞー」
右手で繋いだあかりの手は小さく柔らかい
左手で繋いだひまりの手は華奢で温かい
鈴影ツインズと両手を繋ぐ俺は一番幸せだと思う。と同時に このままどちらとも繋いだ手を離したくない……
カナカナカナカナと鳴くヒグラシの声は、色を変えた黄昏の空に吸い込まれていった
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