第14話 彼女公認での二股交際
8月ももう半分が終わってしまう……昨日の優也さんには何か救われたなぁ。ズルズルと2人と同時に付き合っても終わりは来るだろうし、しっかり話さないと。
リビングのソファーに座りながらも 俺はめちゃくちゃ緊張している。
まだ頭の中で、ひまりにどう説明しようかが固まっていない。
悪いのは自分なのに、どうしても保身が先に出てしまう……
ダメだな。言い訳とか俺の考えは二の次で謝罪と事実だけを伝えるしかないか。で、ひまりの反応を待とう。
『あかりと付き合ってる』言った時の、ひまりの反応が全く分からない 。
逆にあかりに『ひまりと付き合ってる』言ったら泣きながら怒ってくるのは予想がつくんだけどな。
ってか腹減ってきた、時間もまだあるしカップラーでも食べっかな。
キッチンの棚からカップラーを取り出しリビングまで持っていくと、玄関のチャイムがなったのでビクッとしてしまった。
リビングのテーブルに置いたスマホに視線を落とす、約束してた13時よりも 20分以上も早いじゃんか。
ドアを開けると、熱気が一気に押しよせ光が眩しかった
「お邪魔します。ちょっと早かったけど お昼食べた? 」
白のノースリーブワンピース……目映いぜ! ひまりの艶やかな長い黒髪と相まって 、田舎の洋館の窓近くか庭を歩いている、夏休み限定で出てくる美少女幽霊みてぇ。と、嬉しくはないだろう感想を飲み込んだ。あまりにも現実離れしている美しさ可愛いさではある。
「いらっしゃい まだ食べてないけど」
「だと思った。おじさんとおばさんがいないからって、インスタントばかり食べてちゃダメだよ」
そう、俺の両親は盆休みを利用して絶賛旅行中だ。
ひまりはスーパーにでも寄っていたのか、ビニール袋を下げていた。
脱いだサンダルを綺麗に揃え、ついでに脱ぎっぱなしの俺の靴まで揃えてくれているが、ほんとに出来た女子高生である。
「キッチン借りるけど、冷やし中華で良いかな? 」
「ひまり様 助かります。冷やし中華が良い! 」
ひまりはキッチンに行く途中で、リビングに置いてあったカップラーを見てクスッと微笑んだ
「少し早めに来て正解だったみたいだね」
そのままキュウリでも切っているのか、キッチンからはリズムの良い包丁の音がリビングまで聞こえてきた。
チラッとキッチンに目をやると
「もうちょっと待っててね。すぐ出来るから」
目が合った。微笑まれた……妙にソワソワするし恥ずかしい気がする。
「お おう 何か手伝おうか? 」
「じゃあ お皿出して貰える? ここのキッチンってアイランド型で良いよね」
「そうなの? 良く分かんないけど」
鍋で麺を茹でている、ひまりの隣まで移動し器を手渡した。
「ありがと。火を使うと一気に暑くなるね」
手首にしていたヘアゴムを取ると口に咥えたひまりは、器用に髪を束ねてポニーテールにした。その姿にもドキドキするし、ポニーテールになった、ひまりの白く細いうなじには、うっすら汗が浮いており艶かしく、これにもソワソワしたしキドキした。
ソワソワとドキドキが止まらん……ソワドキだよ。このまま抱き締めたい欲望に駆られる。
「アイランド型はスペースあるから解放感あるし IHだったら完璧なんだけど、こんな素敵なキッチンなら毎日でも料理してたいけどな」
菜箸を口に当てながら少し顔を赤らめて俺に言ってくるひまり。
そ そそ それは もしや俺に毎日、作ってあげても良いよ。と言っているみたいじゃないかーー
可愛い過ぎるよぉ MKMSだ! めちゃくちゃ可愛いくて
我慢できずに後ろから、危なくならない程度に抱き締めようとすると、キッチンタイマーがピピピっとなった。
キッチンタイマー空気よめや……
ザルに移した麺を水切りし手際よく器に盛り付け、細く切ったチャーシューやキュウリに錦糸玉子を飾り付けしていく
細長く綺麗なひまりの指が踊ってるみたいで、手際の良さに見とれてしまった。
「どうしたの? 麺少なかったら、私の少し分けようか? 」
そんな食いしん坊な考えで見てた訳じゃないんだが……
「だ 大丈夫。何か凄い美味そうだなって」
「普通の冷やし中華だよ。誰が作っても同じ味だよ」
そのままダイニングキッチンで向かい合わせになり少し遅い昼飯を食べた。
やはり誰が作ったか、誰と食べたか。で、味覚は変わるらしい
普通の冷やし中華。だとひまりは言ったが、俺には普通だとは思えなかった。美味しかったのも勿論だけど、こうして向かい合って食べていると、これが毎日続けば良いな。と、思っていた。
優しい時間が流れていく……で、この後に話すのは優しい事なんかじゃないんだよなぁ ほんっと自分が悪いんだけど 気が重くなってきた
冷やし中華を食べ終えて、アイスティとアイスコーヒーを入れてリビングに座り直した。
2人掛けのソファに2人で座るのもドキドキしてしまう
ストローを咥えアイスティを一口飲むと、クッションをお腹と膝の間に挟みながら膝を抱えて座るひまり……
そのまま顔を横に向けてきた。
ポニーテールが揺れる……
「話って何かな? 」
来ちゃったよ。これ、話さなきゃダメだよね? 先伸ばしにしてもダメだもんな。
邪魔が入らないよう、スマホの電源をマナーモードにしアイスコーヒーを一気に飲み干した。
氷を多めに入れたせいか、冷たく喉の辺りが痛い。
「ひまりに謝らないといけない事があって、実は」
「あかりと付き合ってます」
え? 時が止まったかの様に俺はポカンと口を開いたまま、間抜け面になっていただろう
「し 知ってたの? 」
何とか言葉を絞り出した。
ひまりは向けていた顔を戻すとポニーテールをほどいた 綺麗な長い黒髪がひまりの背中や横顔に広がり落ちる。右手でヘアゴムを弄り出すひまり。
「だって、私は陽太君の幼馴染みで彼女なんだよ。誰よりも一番近くでずっと見てた自信がある。気付かない訳がないじゃない。あかりも双子の妹なんだし、さっきチラッと見えたスマホ画面も私じゃなくなってるし」
予想外の展開過ぎて、何を言えば良いのか混乱している。ただ、ひまりが片手でヘアゴムを弄ってるので、決して良い状況ではないのは分かる。
「私は前に言ったよね。『あかりに付き合ってる事は内緒にしといて』って、だから、おあいこなのかもって」
「それは違うだろ! 俺が100対0で悪い。ひまりの内緒は。リハビリを頑張ってるあかりに対してだろ? 俺の内緒は俺自身の保身の為だ」
横顔に垂れる髪を耳に掛けると、ひまりの目からは涙が溢れていた。
「私はそんな良い子じゃない。私は誰よりもズルくて卑怯だから……」
ひまりの言いたい事は分からないが、俺が悪いに決まってる。
「俺、あかりに言うよ。『ひまりと付き合ってるから、あかりとは付き合えない』って」
ひまりもあかりも傷付けてしまう俺はバカだ。
「あかりとは、そのまま付き合ってよ。今、そんなことを言って、あかりがどうなっちゃうのかが恐い」
「何でだよ? 先伸ばしにして、後になればなるほどダメージは大きいだろ? 」
「あかりは葛藤してるんだよ、もがいてるんだよ。10歳の心の自分と実年齢は16歳の自分に……早く大人になりたい年齢に追い付きたい。けど、心が追い付かない。不安で一杯なんだよ。だから心の支えになってる陽太君が今のあかりには必要なんだよ」
あかりと付き合ってろって言うのかよ? 騙してるみたいじゃねぇか……
って、俺も2人を騙そうとしてたんだけど
「俺はひまりと別れたくない。ひまりが好きだ」
「私も同じだよ……だから表面的には今まで通りにしよう」
「2人と同時に付き合え。って言うのか? 」
ひまりは頷いた……そんなのって有りなのか?
彼女公認で二股するだと。
「ひまりはそれで良いのか? 」
「元は陽太君が、あかりの告白に断れなかったんでしょ? 」
「……ごめん」
「なら、あかりがもう少し大人になるまで、心が追い付くまで、あかりを支えて上げて。我慢するのは慣れてるから……」
「ひまりとは付き合ってるのに、付き合ってない振りをして、あかりと付き合ってる振りをすれば良いんだな」
本当の共犯者みたいじゃねーかよ。この選択は正解なのか不正解なのか……何でこんなに選択することが多いんだよ!
恋愛ゲームの様にセーブが出来れば、いくらでもやり直しはきくのに、リアルならやり直しがきかなくなる事もあるだろ。
やりばのない怒りと言うかモヤモヤ感がして、思わずアイスコーヒーの氷を乱暴に口に含み思いっきり噛み砕く。
この日から彼女公認で本格的に二股交際が始まったのである。
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