フラジャイルメモリー

 物語は主人公であるヨータの幼少期、孤児院時代から始まる

 孤児院時代に唯一仲が良かった女の子が私の役であるマリー


 孤児院時代のマリーは、お花が好きな優しくていつも元気でヨータを引っ張って行くような、あかりみたいな女の子 そして小首を傾げるのが癖みたい

 幼少期のマリー役は色々と私には無理だから小柄な女の子が演じている

 本当はあかりがピッタリなのにね



『誰だよお前? マリー! マリーを何処に連れていく!! 』

『ヨータ 必ずまた会いましょううね さよなら』

『約束する! 必ず迎えに行くよ マリー これを! 』

『ありがとうヨータ ずっとずっ~と飾って置くわ』



 薄紫色の花をマリーが受け取った所で、暗転して物語は進む。

 なんとマリーはギャングに連れ去られてしまうのです


 ギャングは孤児院の院長に金を払いマリーを含めた数人の女の子を買ったんだよね


『喜びなさい。お前達の肉体に半永久的な命を授ける。ただし、時間を掛けて脳と心は捨てるがな』

『どういう事? 』

『お嬢さん。アンドロイドに興味はあるかい? 』


 裏の顔はギャングのボスであり表の顔は大企業のトップでもあるカイートは、秘密裏に人間に変わる働き手として、壊れず文句も言わない半永久的に働ける、美しい限りなく人間に近いアンドロイドを作ると言う思惑があった。マリーはそれの看護用アンドロイドの実験台として作られたのよね


 幼少期から時間を掛けてゆっくりと洗脳していき、心と脳を空っぽにした状態で、半永久的に生きられるアンドロイドに必要なコアを心臓に打ち込む。


 コアが何かしらの理由で壊れるとアンドロイドは永久に動かない。

 それにしてもSFも入った脚本家志望の高校生が書いたご都合主義の物語だよね


 ここからが身体的にだけ成長してアンドロイドになった私の出番だ

 名前もマリーからリリーに変わる

 リリーが帰宅してる時にバッグをお腹に抱えながら隠れる様に細い路地で倒れてるヨータに出会うんだ



『誰だ? 俺に構うな くっ……何だよ? その針は? 』

『即効性鎮痛剤』

『い っ! 』

『足折れてる。病院、安静必要』

『病院はダメだ もう俺から離れろ! 』

『…………』

『な 何だよ? 』

『仕方ない』

『だから 俺に構うなって!バカ! そのバッグを寄越せ ! おい聞いて…… 』

『静かになった』


 鎮痛剤で眠ったヨータを連れて帰る

 あかりに見られてるのを気にしない様、演技に集中しよう


『起きた? 』

『ここはどこだ? 』

『私の家』

『何故 俺を助けた? 』

『分からない』

『お お前 分からないって……』

『お前じゃない。リリー』

『じゃあ、リリー 世話になったな。俺は出て……いつっっ!』

『まだ動くのダメ』


 それにしても片言っぽい喋り方って意外と難しいわね


 少しずつ心を許し始めたヨータは色んな話しをするけど、リリーはそれに答えていくが ズレタ答えしか言わない

 リリーも言葉を覚えていって片言から、普通に話せる様になっていく、物語の中でも一番優しく穏やかなカットが続く、このシーンが私は好き


『笑うなよ? 孤児院育ちだった俺にも夢はあって花屋さんになりたかったんだ』

『何処にも笑う要素がないわ』

『お おう……』

『花屋……さん』

『あぁ 花屋さん。孤児院の周りには色んな花が咲いてたんだ』

『近くにもある』

『え? 花が沢山咲いているところが?』


 私は小さく頷く


『今度、連れていってくれよ』

『足が治ったら連れていく』


 そう言いながら先程よりも少しだけ大きく頷く


『不思議だけどリリーと話してると懐かしい匂いがするんだ』

『匂い? 』

『あぁ 何て言って良いかわからないけど』


 そしてヨータの足も治りつつあり 1人で歩けるようになってくる

 その足でヨータはリリーの部屋をノックする


『リリー 入っても良いか?』

『許可する』

『俺 もう出ていくよ』

『なぜ? 』

『ここにいたら迷惑かけちゃうから』

『迷惑? 』

『あぁ 俺はいない方が良い……リリー! それは? 』


 驚いたように部屋のテーブルに飾ってある薄紫色の花を指差す


『分からない……』

『分からない? 』

『分からないけど、何故か枯れる度に摘んできて飾ってしまう』


 私は小首を傾げてヨータを見つめる

 その仕草にヨータは目を大きく丸くすると叫んだ


『マリー……マリー!! 』

『私はリリー』

『マリー ごめん 気付かなくて……遅くなったね。ごめんねマリー』

『分からない 私はリリー』


 涙目になるヨータ。

 陽太君って何気に演技が上手い気がする こんな才能があったなんて


『やっぱり噂は本当だったのか? 孤児院で買った女の子達をアンドロイドにさせてたってのは』

『買った? アンドロイド?? 』

『マリー もう大丈夫だ。こっちに来てくれ』


 腕を捕まれ部屋から引っ張り出される

 ヨータは今まで安静にしていたベッドの下からバッグを取り出すと


『これはギャングに所属してた時に、アンドロイドを作ってる会社に忍び込んで盗んだもんだけど』


 バッグの中から小瓶と注射針を取り出す


『小瓶の中に入ってる液体はアンドロイド化したコアを破壊する薬だよ』

『コア? 』


 私はまた小首を傾げる

 ヨータは器用に小瓶の蓋を開けて注射針を差し込み液体を救う


『安心しろ。コアが壊れても死なない様に作られている。アンドロイド化してるのがバレるから公には出回っていない薬だけど。さっ 腕を出して』


 私は怖がる様に震え後ずさる


『怖がらなくていい。これで助かるんだよ。元通りになれるんだマリー 大丈夫、全部思い出すよ』


 ガラスが割れる音とともに男達が侵入してくる


『ここだここ! 裏切り者はここにいるぞ!! 』

『ちっ! 見つかったか!! マリー逃げるぞ』


 強引にヨータに引っ張られ 訳も分からず家を出て走り出す2人

 暫く逃げ回ると舞台は暗転しクライマックスになる

 私は上手く演じられるのか不安に駆られる


 ヨータは息を切らしながら


『くそ! もう少しだったのに』

『ここ』

『何がだ? 』

『夜だから暗くて見えにくい』


 ヨータはしゃがみ込み目を凝らすと

 小さく笑う


『懐かしい 孤児院の周りと同じだ ここで花屋を開くってのも悪くない』


 さっきまで必死に逃げ回っていたのに 鼻歌混じりに花を摘むとヨータは片膝を付いて私の顔の前に花を差し出す


『迎えに来たよマリー 』


 花を受け取ると、舞台の後ろのスクリーンには幼少期のマリーとヨータの仲睦しいワンシーンが映し出される

 一瞬だけリリーがマリーに戻る


『ヨータ!! 』


 銃声が鳴り響き 私はヨータの上に覆い被さる


『マ マリー!! 』


 慌てて私を仰向けにさせるとヨータは地面に着いた片膝に、私の頭を乗せるように優しく誘う……ヨータは本当に泣いていた


『マリー? マリー!? しっかりしてくれ』


 後ろのスクリーンには幼少期の2人の楽しい想い出が次々と映し出され、切なさを盛り上げる回想シーンに変わる


『ふふ…偶然にしても……私のコアを破壊した…みたい』

『マリー 喋るな! すぐに病院に連れてってやる』

『病院に行っ……ても意味ないわ。それに病……院はダメなんでしょ』

『もう関係ない! マリーを見付けたから……』

『……コアが破壊されたおかげで……マリーのままで逝けるわ』

『マリー……』

『こ これを渡すわ』


 私は地面から花を摘むような仕草をして、手に持った勿忘草わすれなぐさをヨータに差し出す


『マリー マリー 俺が君とさえ再会しなければ……』


ヨータは花と一緒に私の手を両手で強く握りしめる その両手にも涙がこぼれ落ちていた


『む 迎えに……来てくれたんでしょ? 約束……』

『マリー ずっと ずっと ずっと飾って置くよ』

『私は……迎えに行かないわよ』


最後にヨータに微笑む


『だから ゆっ……くり来てね』


 ヨータの頬を流れる涙を片手で拭う

 温かい陽太君の本当の優しい涙


『想い出と……引き換えでも貴方を救えて良か……った』

『ずっと……ずっと忘れないよ 愛してるマリー』


 ほんの少しだけ頭をお越し陽太君の耳元で、聞き取れるか聞き取れないか位の大きさで呟く


(陽太、忘れないでねあかりの事 あかりも大好きだよ)


 陽太君はピクッとしたものの 膝を崩しそのまま私の胸に顔を埋めては、劇の最後を演じきった


 あの時、あかりが言った言葉 そして陽太君の後ろに控える私を見てから、ニコッとしたかと思うと『ごめんね』口の動きはそう開いていた


 事の重大さに子どもながら気付いた私は呆然と立ち尽くし あかりに押し出され時に頭を打ったのか、脳がパンクしたのか、陽太くんも完全に気を失い 私1人だけが取り残された

『ごめんね』今でも呪いの様に私にまとわりつく

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