第一章 完 終わりの始まり
どこに行ったんだよあかり?
飛び出した方向を追ってみたが姿は一向に見えない
街灯に照らし出される雨は横殴りになっていた。
焦燥感に駆られる。暗闇でましてや雨風が強い中をあかり1人にさせている。と言う事実が
テラス何かじゃなく俺の家で話せば良かった
あかりはひまりに『嘘付いてたの?』と言っていたが、俺も同罪だ。
ひまりと付き合ってるのに『付き合ってない』っ言ってたんだからな
優也さんの忠告を無視したから……
結局、俺は自分の事しか考えてなかったんだ
あかり待ってろよ すぐ見付けるから。
暫く走っていると前に見覚えのある姿が、ズブ濡れにながら歩いているのが目に入ってきた
やっと見つけた!
「あかり! 」
ダメか雨音で聴こえてない
腹っから思いっきり声を出した。
「あかりい!!」
こっちを振り向くと、驚いた顔を見せ、逃げるようにあかりは走り出した
くそっ 何で逃げるんだよ! 声を出さずに近付けば良かった
スピードを上げて追う もう少しで伸ばした手が届きそうだ
いつっ! 頭が 頭がいてぇ こんな時にまたフラッシュバックかよ
脳裏にはアスファルトに横たわるあかり……
側頭部を叩き左右に振りフラッシュバックを掻き消す。
視線をあかりに戻すと、信号のない交差点に突き当たる手前 右の道路からは車のライトが大きくなってくるのが見えた
あかりは気付いてねーだろ! このままだとぶつかる
「あかり!! 止まれ 」
ちくしょう 届け!! 届いてくれー!
悲鳴の様なクラクションが雨音に重なる……
間一髪……交差点に入る半歩手前くらいで、後ろからあかりを抱き止め……車のライトは地面に打ち付けられる雨を捉えながら過ぎていった。
「あかり! ボケ!! 車が来てただろ」
振り向き俺に抱き付いてくるあかりの濡れた髪を優しく撫でた
またフラッシュバックだ……
脳裏には横断歩道の真ん中で俺を押し出したあかりが、笑みを浮かべていた
なんだよ? これ?? 信号は、横断歩道は赤……だと……
過去の出来事が昔の映画の様にコマ送りとなって脳内に写し出される
青信号を進んで来る車のクラクションが鳴ったかと思うと、俺の目の前であかりは車に撥ねられた……
血を流しながらアスファルトに横たわるあかり。
呆然と固まる俺に手を差し伸べ、何かを言っていた……
なんだよ? 赤信号を無視した車にあかりは撥ねられたんじゃなかったのか?
俺が赤信号を無視して、あかりに助けられた?
あかりを昏睡状態にさせ、こんな状況にさせたのはオレ??
頭が割れる……心臓が苦しい、寒くて凍りそうだ。
息を切らしながら何とか口を開く
「……あかり。帰るぞ」
「ようたぁ あかりは目覚めない方が良かったの? あかりだって、好きで眠ってた訳じゃない! 」
違う あかりをこんな目に合わせたのは俺だったんだ……
都合良く記憶を
こんな奴にひまりと付き合う資格何かあるのか?
「……あかり ごめん。ごめん、あかり。あかりをこんな風にさせたのは俺だったんだ……」
「ようたぁ あかりは邪魔なのかなぁ? 6年間の空白であかりはいらなくなっちゃたの? 」
「違う 違うよあかり。邪魔な訳ねーだろ! 空白にさせたのは俺だ……謝ってすむ問題じゃないのは分かってる あかりごめん」
土砂降りの中、アスファルトに頭を擦り付けた
あかりの6年間を奪ったのは俺だったのか……
「あかりは邪魔じゃないの? 」
「あかりが目覚めてくれて本当に嬉しかった。また遊べるんだ。またあかりの笑顔が見られるんだ。って、すげー嬉しかったに決まってんじゃん」
「じゃあ。その、ごめんなさい。は何に対してなの? 」
今度は逆にあかりが俺の頭を撫でる
「全部だよ! ひまりと付き合ってないって嘘ついたのもだし、仮であかりと付き合ってた事もだし……あかりをこんな風にさせてしまったこと、全……部だよ」
「ようたぁ 顔を上げてよ。事故の事を思い出したの? でも、陽太は悪くないよ」
言われるがまま顔を上げると、あかりは泣き顔から俺の好きな、ニカッとあどけない笑顔を見せてきた
「仮でも陽太と付き合えて嬉しかったな。陽太が彼ピで楽しかったな」
「ごめん」
「もう 良いよ 帰ろう」
こんな最低な事をしてたのに許してくれるのか?
あかりが差し伸べてくれた手を掴み立ち上がる
「ひまりちゃんにも迷惑かけちゃったなぁ 帰り辛いなぁ」
「一緒に謝るか」
「うん。あかりは勝手に出てきちゃったの謝るけど、陽太は何を謝るのぉ? 」
「色々とだよ」
あかりを送っていく際に1つの決断を俺は下した。
あかりが出ていった時から変わってないのか、鈴影家の門は開いていた。
玄関に行くとタオルを待った、ひまりが待ち構えていた。
ひまりはタオルであかりの髪を拭いて上げると
「あかり ごめんね。あんな事を言うつもりじゃなかったのに、私」
「ひまりちゃん、あかりもごめんなさい。あかりは認めたくないけど、まだ子どもだから、大人なひまりちゃんの考えが分からないんだ」
拭かれてるのを擽ったく感じたのか、あかりは子犬のように頭をブルブルと振った。
「きっと、ひまりちゃんは1番良い作戦?って言うのかな。1番良い考えとか行動ってのを取ってたんでしょ。なら、ひまりちゃんは悪くないよ」
しゃがみ込んであかりの首に腕を回し、抱き締めて来るひまりをあかりは受け入れ、ひまりの背中に手を回した
「また あかりと仲良くしたい。今まで以上にあかりと仲良くなりたい」
「エヘヘ 照れるね これからも宜しくね、ひまりちゃん。あかりシャワー浴びてくる 陽太も風邪引いちゃうよぉ」
そのまま小走りにあかりは玄関を上がっていった。
「陽太君もありがとう」
タオルを俺の分も用意してくれていたのか、手渡そうとしてくる、ひまりの手を拒否した
「頬、大丈夫か? 叩いてごめん」
「頬より心が痛かったかな。別に良いよ」
「ひまり……俺たち、別れよう」
「……そう」
「明後日はあかりとの約束通り迎えに行く」
「……そう」
なんで何も聞いて来ないんだよ! 自分勝手過ぎなのは分かってるけど、理由すら知らなくて良いのかよ
「陽太君」
「ん? 」
「あかりをありがとう。早く帰って着替えなね」
言い終わるとすぐに、ひまりはドアを閉めた。
カチャカチャ。っと、鍵を掛けては、またすぐに戻したひまり
その鍵の音は俺と別れる事への無言の否定の様に聞こえた。
鍵は掛かってないから、すぐにでも俺がドアを開けてしまえば、この手にひまりを抱き締められる 今ならまだ取り消せるかもしれない このドアさえ開けてしまえば
俺とひまりを隔てるのは、たかが数センチの厚さしかない白いドア。その物理的距離は数センチでも、俺には遠く。とても重く……分厚く感じた
唯一の救いは、あかりとひまりが仲直りしてくれた事だけだ。
自分家への帰り道、土砂降りの雨で良かったと思える どんなに泣いてても、親に詮索される事はないだろう……
いっそ雨と同化して排水溝に呑まれて消えたい気分だ
夏休み残り2日で幼馴染みで大好きな彼女と別れた。
第一章 夏休み編 完
第二章 学園編へ続く
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