完結 さんかく
ここに来るのは優也さんに誘われた夏以来だな
人気のない公園と放課後の誰もいない教室は雰囲気が似ていると思う
外灯に照らされたすぐ近く、滑り台の下に残る足跡や砂場に転がっている小さい、プラスチック製のシャベルにバケツは
ほんの数時間前まで子どもたちが遊んでいた事を伝えてはいるが、1日の役目を終えた今は、公園そのものが眠りについているみたいだ
その眠りを起こすかの様にあかりはブランコに駆け寄ると立ちこぎを始めた
「こら あかり 夜だし危ないよ」
「ひまりちゃんもどう? あっ ひまりちゃんは立ちこぎ苦手だもんね」
あかりの返しにひまりは「ったく もぅ」と呟きながら頬を少し膨らます
勢いを増したブランコからジャンプし着地を決めるあかり
「うぅ 漕いでると凄い風が冷たい」
「風邪引いても知らないからね」
「そう言いつつも、ひまりちゃんはお粥とか作って看病してくれるんだろうなぁ じゃあシーソーは? 」
あかりがブランコから戻ってくる
「しないわよ」
「ひまりちゃん。体重差を気にしてるのかな? 」
「し してないわよ! 」
「分かったよ 滑り台一緒に滑ろうよ」
「それくらいなら……」
ついにあかりの押しに負けたのか 深く溜め息を吐きながら、ひまりはあかりが待つ滑り台へと向かっていく 2人の他愛もないやり取りは昔から見ていて心地が良い 似ている顔だけど全然違う行動パターン
「寒いからくっついて滑ろうね。あかりが前で、ひまりちゃんは後ろね……」
「別に良いけど何も2人で滑らなくても……」
『『あっ 陽太(君)が真ん中で』』
でも やっぱりシンクロするところはシンクロする
ツインズは互いに見つめ合うと笑い合った
「了解。うぅ さみぃ」
ポケットに両手を突っ込んだまま肩をすくめ滑り台へと駆け寄る
「よっしゃ あかり」
「うわぁ 冷たい! バカ!! 」
ポケットから出した両手で後ろからあかりの顔を挟む
と あかりは振り向きポコポコと俺の肩らへんを叩いてきた
「わりぃわりぃ あかりの頬っぺたが温かそうだったから」
「早く滑りましょう 体が冷えちゃう」
「氷の美少女らしくない台詞だな」
「周りが勝手に言ってるだけだもん」
わざとらしく胸を押し付ける様に思いっきりくっついてくるひまり 背中には胸の感触が伝わるので妙に温かい
前に座る幼いあかりを守りたい気持ちと 後ろからひまりに抱き締められる安堵感が1つになる不思議な感覚
俺にしか分からないし俺にしか味わえない この感覚をとても懐かしく感じる。
6年前は落ち着きのない好奇心の塊のあかりに、ヒヤヒヤさせられながらもそれが楽しくて あかりが次に何を起こすか期待していた
そんなあかりの隣にいたいと思った
騒ぎを起こすあかりを優しく時には叱るひまりに、尊敬と憧れを抱いた ひまりが次にどうあかりを包み込むのか気になった
そんなひまりの隣にいたいと思った
「よ~し 滑るよぉ 321 GO! 」
あかりの掛け声の元、俺たちは一気に滑った。
6年前から現実に強制的に戻らされたが
「え? もう終わり?? 」
「一瞬だったわね」
「でも 先頭だと何気に怖いから!! 」
歓声も悲鳴もないシュールな滑りっぷり
小さい頃は滑り台って、もっと興奮したし楽しかったんだけどなぁ
あかりとひまりは立ち上がり おしりを軽く払い砂を落とすと外灯の下へと向かった
噂話ではあの外灯の下が告白場所だったはず
6年越しでの告白かぁ 案外されると分かってても緊張はするもんだな
見えないプレゼント箱にでも入ってるかの様に それぞれツインズの周りを外灯の仄かに白く淡い光が包み込む
「ブランコも滑り台もしたし 後はこれだけだね。あかりはどんな結果になっても大丈夫。受け入れるよ」
「私もこれで胸を張って前に進めます。もちろん陽太君の答えを尊重しますし受け入れます」
くっ 公園のどっかにセーブポイントはないのか?
選択肢はいくつある? ハッピーエンドは何パターンでバッドエンドは何パターンだ?
「陽太 あかりを選ぶなら抱き締めて」
「陽太君 私を選んでくれるならキスして」
ツインズは目を瞑る ついに俺に委ねられてしまった
6年前から今の出来事を回想しながら ゆっくりと近付き立ち止まる 三者三様の些細な嘘から始まった物語
18時を過ぎたからか ツインズを照らす外灯は先程より強さを増すと 周りを包む白く淡い光りの明るさも強くなる
ツインズだけが切り取られた様に浮かび上がる
6年前の俺よさようなら
「俺の答えは」
覚悟を決めて俺なりの答えとともに前へと進み出た
『え? あかり(私)『で良いの? 』』
…………
ハモったツインズだったが目を開けて俺を見ると 可愛いお目目を必死にパチクリさせている
『『どういうこと? 』』
おぉ またハモった さすがはツインズ!
「どうもこうもねーよ! あかり! 」
「ハイ! 」
「どんな結果でも大丈夫何だよな? 受け止めるんだろ」
俺は左腕をあかりの背中に回し抱き締めたまま答えた
「ひまり! 」
「はい……」
「俺の答えを尊重して受け入れるんだろ」
ひまりの頬っぺたにキスをしてから右腕で抱き締める
「6年前、俺の答えは1つだ!! 」
首を後ろに反らし夜空に叫んだ
「甲乙付けがたし!!! 」
『はっ? 』
俺から一歩離れたあかりの目はつり上がっていた
ひまりの目はいつも以上にジト目になっていた
6年前の俺よこんにちは
「だから 6年前なら俺は、あかりもひまりも大好きだから、選べられなかったし今は今で……」
「今は今で……何よ陽太! 」
「ひまりと付き合ってたのは事実だけど 2人の内どちらか選べって状況に実際なると選べん」
開き直りだと思われても良い。あんだけ ひまりが大好きだ。とか言ってた癖に全てを思い出すと結局6年前から1番何も変わってないのは俺だったんだ
だが言い訳を述べさせて欲しい こんな可愛い過ぎるツインズの片方だけを選ぶ事など今の俺にはまだ出来ねーよ
「超絶むぅ~ 陽太のバカ! もう知らな~い 」
あかりが頬をこれでもか。と膨らましプイッと横を向く
「やった! あかりが知らないなら。私が陽太君を貰うわ」
そう言うと俺の右腕を自分の体に巻くように抱き着いて来た
「体が冷えちゃった。ギュってして」
「あぁ!! ずるい。ひまりちゃん! 」
「ふふ。私はずるいよ。自分でも知ってる」
「ぜぇ~ったい ひまりちゃんには陽太は渡さないんだから」
あかりも俺の左腕に思いっきり抱き着いてくる
知ってる限りの神様を頭に浮かべて強く出来る限りの感謝をした
鈴影ひまりと鈴影あかり。こんなにも素敵で可愛い2人を同時に好きになれた事も2人から好きになられた事も
「ねぇ 陽太君。 卒業までには決められそう? 」
「うっ……善処します」
「ダメだよ。卒業までなら、まだあかりの分が悪い」
「じゃあ いつまでよ? 」
「ひまりちゃんはどうせ大学に行くんだから22歳までにしよう」
「私は陽太君が18になったら籍だけでも入れたいのにな」
「ダメ!! 陽太の籍ないから。次いでに席もないから」
とてつもなく口が悪いし 席は無くさないで下さい
それは もはや苛めだから。
「俺の席は打ち上げ場所にもなさそう。3人で今から行くか?」
「大丈夫。陽太君の席はいつだって私の隣だよ。指定席だから」
俺の右手を胸に当ててひまりが赤らめた顔を近付けてくる ほんっと可愛いぜ!
「超絶超絶むぅ~ あかりの隣だって陽太何だから」
あかりは背伸びをすると袖をくいっと引っ張り口を尖らせながら熱い目で見上げてくる
くっ 可愛いじゃねーかよ!
2人に引っ張られる様に打ち上げ場所へと向かう
まだまだ恋争は終わらない
ツインズ2人のうちの1人なんて
心の中で叫ぶ
『どっちもどっちで選べねえぇぇぇぇ』
完
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