お高いハイヒール
恋愛同好会の面々は、いつもの部室ではなく、今日は俺がバイトしてるファミレスへと集まっていた。
ひまりだけは用事があるとの事で来てないが
それにしてもバイトが休みの日にバイト先に行くのは気が引ける。
どうしても秋限定のスウィーツをあかりと来栖が食べたがってたからである
「ひなちゃんの推薦人、意外と早く集まったな。さすがイケメンな俺」
推薦人の名前が書かれた書類をひらひらと見せびらかす様にドヤ顔の海斗が呟く
「自分で言っても周囲を納得させる容姿が優れてる奴は良いよな。イケメンに生んでくれた両親に感謝しとけよ」
「陽太も幼い頃から鈴影ツインズの近所に住んでる事を両親に感謝した方が良いぞ」
「それは間接過ぎだろ。俺もイケメンに生まれたかったわ」
海斗の向かいに座る来栖は書類を奪い取ると視線を落とした
「そうでしょうね。それで良く、ひまりさんと付き合えますね」
「自分で言う分には良いけど、人から言われるとイラッとするぜ」
「我が儘ですね。で、さすが海斗先輩。って言いたい所何ですが……」
「何ですが……その続きは? 」
「いえ。この推薦人の名前が女の子だけ何ですよ」
「ダメなの? 20人以上集めれば良いだけでしょ?」
書類から目を離さずに ため息を吐く来栖
「そうなんですけど、これだと本戦でも男子の票は貰えずに惨敗しそうですね」
「クルース! 折角、赤ピが手伝ってくれたのに」
「すみません。もちろん海斗先輩が悪い訳じゃないですよ。ありがとう御座いました」
あかりが来栖を窘めるが 口周りにはモンブランのクリームが付いていた
「あかり。ここにクリーム付いてっぞ」
自分の口横を指差すと あかりは舌をペロッと出してクリームを拭い取った
可愛いけども、こいつはこいつでミスコンは似合わない気がするし、本戦で票が取れるかは疑問だ
「ってかさ。来栖は今の金髪で出るのか? ウィッグ着けた黒髪に眼鏡で出るのか? 」
「黒髪眼鏡に決まってるじゃないですか? 」
勝ち目ねーだろ 黒髪眼鏡の来栖は、よ~く目を凝らして見ると可愛く見えるが パッと見は地味過ぎる
「ひなちゃん。本来の姿で出てみたら? 」
「嫌ですよ。それだと意味ないじゃないですか? 黒髪眼鏡でミスコン取りたいんです。外見でチヤホヤされても嬉しくないですし、やっぱり怖いです……」
トラウマってやつか。外見で苛められた過去がなければ、今ごろは金髪美少女として青春を謳歌していただろうに
コーヒーを飲もうとすると、テーブルに置いてあるスマホが振動したので手に取り確かめる
おっ ゲリラ的にやってくるイベント討伐のお知らせじゃん
これは今のうちにモンスター倒しておけばレアアイテム貰えるな
皆には申し訳ないと思いつつアプリを立ち上げる
イスラさんとテレジアさんもログインしてるじゃん
誘うか
(一緒に討伐行きましょう )
(そうだね。マミちゃんは時間ないだろうからサクッと倒そうか)
(私もリアルが忙しいから少しだけ付き合うわ! マミ。足手まといにならないでよね)
くっ テレジアさん。何で初心者なのに上から目線何だよ! しかも俺に対して当たりがキツくない?
イベントでのモンスターは中々手強く 手こずっている
「おーい 何で3人スマホ弄ったまま喋らないの? 」
「赤ピ! 黙ってて 集中したいから」
「海斗、ごめん。もう少しで終わるから」
あかりと来栖は何をしてるんだ? やけに真剣にスマホ弄ってるみたいだけど
2人を気にしてる余裕もねーか。こっちはこっちで必死にやらないと
ふぅ 何とか倒したしアイテムゲット出来た!!
「海斗 ごめん。もう大丈夫! 何の話しだっけ? 」
「別に良いけど。って、3人とも用事は終わったの? 」
「私も用事は済みましたので大丈夫ですよ」
「あかりも終わったー で、クルースのミスコンの話しじゃなかったけ? 」
そうだった。来栖が黒髪のまま出るだか出ないだか
「私は黒髪眼鏡で出ます。あかりさんはどうするのですか? 」
「へ? どうするって? 」
「化粧とか普段してないみたいですけど、そのまま出るのですか? 」
「あかりの肌はきめ細かいし 化粧しなくても可愛いから。キラン」
人差し指を頬っぺに当ててウインクするあかり
アニメなら本当にウインクから星が出てきそうな感じだ
「可愛いのは分かりますよ。魔法少女コンテストなら断トツで優勝出来るかも知れませんがミスコンだと、どうでしょうか? 」
「ふっ クルース見てなさい。魔法少女なりのやり方で優勝出来ると言うことを」
来栖の発言に怒るかと思いきや、大好きな魔法少女って言葉が出てきたからなのか、何処と無くご機嫌だな ってか魔法少女なりのやり方ってなんだよ? まさかな……1つの考えが頭に浮かんだがすぐに打ち消した。
高校生にもなれば魔法少女からも卒業するもんだと思うが
「妹ちゃん。知ってると思うけどミスコンは、ファッションショーみたいなランウェイもあるんだよ」
「それ! 去年も一昨年も、ひまりさん綺麗でしたよねぇ 本物のモデルさんよりもオーラがあって。女の子はみんな憧れちゃいますよ」
「お姉さまはモデルや芸能事務所からの話しも沢山あったのに、全部断ったって噂は聞いたことあるけど」
「まぁ ひまりは、そういうの興味ないしな。ランウェイとかは黙って歩くだけたがら得意だろうけど、質疑応答形式は、回答が的外れでインタビュアーを困らせてたからな」
「逆にお姉さまのビジュアルだと、その的外れな答えも一種のオーラになっちゃって、余計に『神秘的な美しさ』に変換されちゃったけど、今、思えば単純にキョドってたんだ。って分かるわ」
そうなんだよな。今でこそ、ひまりとも仲良くなりつつある海斗は笑ってられるが、生徒全員が触れてはいけない至宝でも扱う様な感じになっちゃってるから その空気を感じ取って、ひまりもひまりらしさが余計に出せないんだろう
「ひまりちゃんも色々と大変だったんだねぇ。あかりが普通に過ごせてたら、ひまりちゃんはどうなってんだろうな」
あかりが一緒にいたら、ひまりも今よりは、もっと打ち解けてそうだけど
そうさせてるのは……俺のせいか、今更ながら本当にとんでもないことをしたもんだ
「あっ 陽太。もうこんな時間だよ そろそろ帰ろうか? 」
俺の暗くなった表情に気付いたのか あかりが袖口を引っ張ってくる
「妹ちゃんも言ってるし、今日は解散しますか」
「そうですね。スイーツも美味しかったですし、海斗先輩ご馳走さまです」
「え? 俺が払うの? 」
「え? 逆に払わないとおもったんですか? 」
「何で、ひなちゃんの手伝いまでした上に奢らなきゃならないんだ? 」
「胸に手を当ててみて下さい」
そ~っと来栖の胸に手を伸ばす海斗
「私のじゃないです! 海斗先輩の胸にです! 」
「なんだ。奢ったら、胸を触らせてくれるシステムかと思った」
「どういうシステムですか? そんな事を言って良いんですかぁ。私は知ってるんですからね」
「な 何をかなぁ……? まっ ここは男で先輩ですから奢りますとも」
「わぁ ありがとう御座います。海斗先パイ」
小首を傾げ、あざとく微笑む来栖の前で苦笑いを浮かべる海斗
おそらく来栖は何も知らないか、ありもしない噂話を信じてるだけだろうが 当の本人である海斗には思い当たる節が有りすぎるのだろう 自業自得だな ざまぁ
「あっ 陽太。あかりもあの事を知ってるんだからね」
「へいへい。別に知られて困る事何て俺はねーよ」
「クルース! 陽太の部屋のゴミ箱はティッ」
「さーせん!! あかりの俺に払わせて下さい! お願いします」
「仕方ないなぁ そこまで言うなら ご馳走さまです」
こいつは! 女子中学生にそんな事を言ったら ずっとゴミでも見るような目付きで見られるわ
バイト代が無駄な出費に消えていく 前の来栖と今回のあかりに奢ったせいで 一番くじを4回は損した気分だ
ファミレスで解散し、あかりとは帰り道が一緒だから、並んでアーケードを通っていると靴屋さんの前で立ち止まるあかり
「どうした? 」
ショーウインドウ越しに あかりが見つめる先には、照明が当てられた、爪先にリボンが付いたヒールが飾ってあった
「ん? 凄い可愛いなぁ。って、でもあかりには、こういうパンプスは似合わないのかな」
え? ヒールとパンプスって、どう違うの? ヒールじゃないのこれ? やたらとお金持ちのお嬢様が腕組みしながら、上から目線で攻撃的に罵詈雑言を浴びせる位に、ヒールが、お高く尖ってらっしゃるけど
「それ、多分だけど『お高くとまってる』だと思うよ」
くっ こいつ! また人の心を読みやがったな
しかも前までバカだった癖に近頃はやたらと正解を出して来やがる!!
「まぁ 良いや帰ろ」
気が済んだのか、くるっと回るとあかりは先に歩いていったので
横目でヒールの値段を確認しといた
ふむ 桁が1つ多いし、こっちのはあかりに合うサイズ何かねーだろうが、向こうのは子どもサイズもありそうだな。
はぁ。ミスコンもだし劇の台詞も覚えないといけないし、明日からは実際に演技練習も始まるし、何気に充実しちゃってる学園祭だな
夕闇に紛れ金木犀の甘い香りが漂ってきた事で、鈴影宅のテラスに近付いてる事が分かる。ここに来ると季節の移り変わりが強く感じられる。
玄関前まであかりを送るついでに2階にある ひまりの部屋に目をやった
カーテンからは微かに光が漏れていた 隙間が開いてドラマみたいにひまりが顔を出さないかと期待してみたが、そう上手くはいかないみたいだ
最近ひまりと話していないし、何か距離を置かれてると言うか様子がおかしい。劇の相手役はひまりだし、家に戻ったら電話でもしてみるか。
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