布団インザシーツ

 決して広くない浴場にあかりとひまりの会話が響く

 盗み聞きしてるみたいで嫌な気分になるが好奇心が勝ってしまう


「お土産屋さん行ったくらいだよ。あかりにも、あぶらとり紙買って来たじゃない」

「それだけ? 」

「それだけだよ」

「何かさ」


 あかりが言い掛けてから沈黙が続く


「何かさ本当はあかりに、勝ち目がない。って分かっちゃてるんだよね」

「え? 」

「だってさ。仕方ないけど陽太はひまりちゃんには欲情するだろうけど、あかりに欲情しないもん、絶対に」

「そんな事ないよ」


 何のひまりのフォローか知らねーが。そんな事あるよ!


「あかりに欲情したら逆にヤバくない? 少しは成長したって言っても、まだ見た目も小学生に見えちゃうし」

「そうじゃなくて。欲情する欲情しない。って事が全てを決める訳じゃないでしょ? 」

「そうだけど。付き合ってれば、そういう感情にもなるでしょ? 」

「そ そそ それはギューってされたり 頭ポンポンされたら嬉しいけど」


 あかりのため息が漏れ聞こえてくる


「そんなんだから、陽太もはっきり出来ないのかもね」

「どういう事よ」

「私がひまりちゃんなら、とっくに陽太とヤってるね! だってひまりちゃん程の色気があって、至宝の胸があれば簡単に落とせるよ」

「嫌よ。体が目当てみたいな事言わないで」


 今度はあかりの笑い声が響いた

 もう 耳を塞げば良いだけなのに 聞き入ってしまう自分が嫌だ


「好き同士なら当たり前だと思うけどな。あかりはまだそういう事が出来ないから恋愛対象にもならないだろうし」

「じゃ じゃあ あかりが私なら陽太君にどう接するつもり? 」

「修学旅行何てチャンス中のチャンスじゃん。浴衣着て、あの紐パンをちょい見せしてから、潤んだ目で胸を押し付けながら抱き付けば、あっちから我慢出来ずに襲ってくるよ」


 想像したら、このに変わったよ。浴場が欲情だよ 頭がボーッとしてきた


「も もも もし もしもし」

「ひまりちゃん。どもりすぎ! 電話掛けちゃってるみたいになってるから落ち着いて」


 ひまりは深呼吸をしてるみたいだ

 ってか、もう浸かってるのも限界に近い。早く出てってくんねーかな


「あかりが昏睡してた6年間でも、日本の性教育は進んでなかったみたいだね」

「もし 私と陽太君がそういう関係になっなら、私が勝っちゃうんじゃない? 」

「それはそれで良いよ。ひまりちゃんにはまだ出来なさそうだし」

「わ 私だって出来るもん。キヤッ! 」



 ヤベッ 一瞬だけ落ちて 頭を水面に打ち付けてしまった!!


「誰かいますかぁ? 」


 声が大きくなって、あかりがこっちに近付いて来てるのが分かる


「あかり、戻ってきなさい。上がりましょう」

「う~ん でも気になる」


 くそっ あかりはどんどん近付いてくる

 柱を上手く利用して あかりから隠れても 今度はひまりに見付かるだろう

 前後左右に行けなければ、上か下しかない!


 あかりが柱の裏まで近付いて来た頃を見計らい

 思いっきり息を吸い込み 静かに潜る


 中は乳白色で何も見えない。俺は目を瞑り ひたすら我慢した

 あかりがすぐ近くを通ったのか、体をまとう水圧が変化するのを感じる

 もう少しだけ我慢だ この我慢が出来るか出来ないかで俺の一生が変わってくるぞ、絶対に負けられない戦いがある!



「おかしいなぁ ひまりちゃ~ん 誰もいないよぉ」

「あかり~ 私上がってるからね」


 離れた所からひまりの声が聞こえた


「待ってぇ あかりも上がる~」


 良し!


「陽太 感謝しなさい。チャンスを上げるよ」


 突然、あかりの声が入ってきたと同時に頭を叩かれた様な気がした


 え? 見付かってた!?


 そのままあかりが浴室を出る音がしてから顔を出した


 本当に苦しかった。体に力が入らない、浴場から出たいのに、思うように足が上がらん 鼓動も早いし倒れ込みたい


 何とか這うように浴室を出る 海斗に助けを求めようとスマホを手に取ると

『女子部屋に行ってくる 部屋は鍵掛けてないから』

 LAINEが入っていた


 仕方ないのでクーラーの前に陣取り、ポカリ⚪️エットをガブ飲みする

 服に着替える余力もないから今は少しでも涼んで行きたい


 どの位経ったのか分からないが 少しずつ落ち着いて来たので着替えてから部屋に戻ると布団は敷いてあったが案の定、海斗の姿はなかった


 あの野郎 いつまで女子の部屋にいんだよ!

 人を騙しやがって 物理的にも社会的にも死ぬとこだったわ 戻ってきたら1発殴ってやる!


 スマホを取り出し海斗にLAINEする


『テメー ツインズと俺を鉢合わせにするよう騙したな!』


 すぐに既読になり返信が来た


『お礼何か良いから 楽しめた? 』

『文句しか出てこねーよ! 楽しめるかバカが! 』

『まだイベントは続くから』

『は? 何だよそれ? 』

『困った時は枕元に置いたポーチを開けてみろ』

『何 言ってんの? 』



 そこからは既読になることはなかった

 もう23時だから消灯の時間なのに海斗は戻って来ない

 あいつ女子部屋に泊まる気かよ! いくら花森ちゃんが放任主義とは言えヤバイだろ


 温泉で体力を奪われたので眠いが 確かに枕元のポーチが気になる

 ポーチを開けようとするとドアがノックされたので海斗が戻ってきたかと思い勢い良く開け


「海斗! テメー……って、ひまり? 」

「こ ここ 今晩は」


 目の前には風呂上がりの髪の毛を渇かしたばかりなのか 横に一束にまとめた黒髪は濡れ髪でしっとりとしている

 それに浴衣の襟元がゆるいからか ひまりの綺麗な胸の谷間がくっきりと見えてしまう

 本当に色気が半端ないって!


 しかもボディフレグランスか髪の毛のトリートメントの匂いか分からんが

 鼻孔も心も下半身も刺激してくる 甘く良い匂いがほんのりと漂う

 匂いフェチにはこれだけでもご馳走なのに 漂ってくる大元が超絶美少女とか

 もはや拝むレベルだ


「大丈夫 陽太君? 」

「お おぉ 」

「ずっとここにいると見付かったら大変だから は 入っても良いかな? 」

「お おぉ」


『お邪魔しま~す』と俺の横を通るひまりから漂う匂いを 思いっきり鼻孔を広げてクンカクンカしたった

 めちゃくちゃ良い匂い 簡単に眠気と理性が吹き飛びそうになる


「ど 何処に座れば良いのかな……? 」

「え? 椅子に……」


 ふぁー 布団が敷いてあるから 机と椅子は端に置かれてあるんだ

 どうしよう 今から椅子を真ん中に置くのもおかしいし


「じゃ 適当に座って」


 ひまりが布団の上に女の子座りするのをチラ見した


 和室にお風呂上がりの浴衣姿が似合う美少女が布団に座っている

 浴衣から はみ出た白く細い素足やくるぶしが艶かしくゾクゾクする


 スケベ心を悟らせなように極力 普通の振りをする


「海斗君は女子の部屋に行ってるみたいだね」

「あぁ。あかりは? 」

「あかりは疲れたのか寝ちゃってるよ」


 沈黙になる 普段は話すことなんていくらでも出そうとすれば出てくるのに

 ひまりの色っぽい浴衣姿に視線と心が奪われ

 脳が上手く働かないのか たんに眠くなって来てるのか

 言葉が会話の糸口が上手く掴めない


「ねぇ 陽太君」


 ひまりが喋り出すと同時に勢い良くドアが叩かれる


「おい 高坂こうさかはいるか? 」


 げっ 花森ちゃん?


 ひまりと顔を見合わせる

 咄嗟にひまりは布団に身を隠す


「高坂? 美馬? 」

「はい! 」

「美馬か。高坂海斗はいるか? 」


 布団にくるまりながらも

 ひまりはスマホを弄り小声で囁いた


(電気は消してた方が良いよ)


 そうだな。取りあえず静かに電気を消す


「高坂はいないのか? ここを開けろ」


 ヤバイ! 開けたら海斗もだし、ひまりもバレてしまう


 ひまりが布団から手を伸ばしスマホを渡して来た

 ディスプレイには海斗の文字とスピーカーになっていた


 そういうことか! スマホに向けて声を出す


「か 海斗 起きろよ。花森先生が来てるぞ」

『何だよ~ 寝てたのに 花森ちゃん俺に会いたくなっちゃった』


 海斗が喋るとスマホをドアに近付けて、花森ちゃんに聞かせる事にした


「お前は1年時のオリエンテーションでの前科があるからな」

『酷いなぁ 花森ちゃん。俺は真面目になったし、花森ちゃん一途何だけど。ってか眠いから、もう良い? 』

「あぁ いるのが分かればそれで良い。高坂も美馬も邪魔をして悪かった」

「花森先生。1つ1つの部屋を全部回るの大変ですね」

「回るのは高坂がいる、ここだけだ。おやすみ」


 花森ちゃんが去っていくのをドアに耳を当て確認してから


『海斗 花森ちゃん行ったから大丈夫だ』

『おぉ 了解! じゃあ 俺はそっちに戻らないから 困ったらポーチ開けろよ便利な必須アイテム置いといたから』

『ちょっと待て』


 ッチ 切られたか……


 薄暗くなった部屋に戻ると布団から顔だけ出した ひまりがクスッと微笑んだ


「何かドキドキしたせいで喉渇いちゃったね」

「海斗の日頃の行いのせいだ! 冷蔵庫に何かあるかな? 」


 薄暗いなか冷蔵庫を開けるとレモンジュースらしきものがあったので、取り出してプルタブを開けた

 プシュッと炭酸が弾ける涼しげな音が部屋に響いた


「炭酸みたいだけどレモンジュースあったから」

「ありがとう 喉カラカラだよ」


 美味しそうに一気にゴクゴクと飲み干すひまり。

 ずっと布団から出てこないが俺はどうしろと?


 海斗が言ってた困った時はポーチを開けろ。って、のも気になるし

 俺は枕元のポーチを開けると正方形のカラフルな包装紙が2枚入っていた


 なんだこれ? ガムか?


「どうしたの? 」

「いや これなんだろうって? 」

「貸してみて? 」


 1枚だけひまりに手渡し もう1枚を改めて眺める


「こ ここ これ ゴ ゴムじゃない? 」

「いや、ガムではないみたいなんだけど」

「ガ ガムじゃなくて、ゴ・ム! 」


 ゴム? 薄目で凝らしてみると0.01ミリって書いてあるけど……

 コンドームか! 初めて生で見たよ!!

 なにこれ? どのタイミングでどう使えば良いのか分からない


「うわっ」


 ひまりに腕を捕まれ布団に引き込まれる

 そのままお互い横向きに抱き締め合う姿勢になると ダイレクトに胸の柔らかい感触が伝わる

 ってか、あえて胸を押し当てて来る


「陽太君 今 この状況で何がしたい? 」


 めちゃくちゃ顔を赤らめ潤んだ目で見つめられながら ひまりの唇がせまってくる


「陽太君なら……」


 首に腕を回されひまりの柔らかい唇がどんどんと近付いて来る度に 胸の感触も強く押し当てられる


 こんなもん限界だ! もう どうにでもなってしまえ

 ひまりの頭にそっと手を添えて目を瞑り唇を求めた……

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