膝枕とおっぱいのハッピーセット

 バス停の街灯が時折小さく明滅めいめつする度

 普段とは違う月明かりは神秘的に感じる

 ひまりの目を見て話す事すら出来ない俺には 月と満天の星はありがたかった


「ひまりに言わないといけない事があるんだ」

「うん……」

「正直、ひまりには良い話にはならないと思うけど、最後まで聞いてほしい」

「……うん」


 順序立てて喋る事が出来るだろうか

 俺の気持ちをダイレクトに届けられたら良いのに

 言葉ってのは難しい

 自分の一番適した感情を言い表す言葉を俺は知らないから



「ひまりはあかりが事故に遇った瞬間見てないだろうけど、あの事故は俺のせいなんだ」

「…………」

「あの時、ひまりは遅れて事故現場に来たけど、俺が赤信号を無視して車にねられそうな所を、あかりは押し出して俺の代わりに」

「そう……あかりは何も言わないから」

「俺自身がその事実を忘れていた。事故ったのは赤信号を無視した車が、あかりに突っ込んだ。と思っていたから」


 次に何を話せば良いのか。

 沈黙になると鈴虫の音と老朽化が進んでるのか街灯のジー。って音が響いてくる


「それと私たちが別れたのは関係があるのね? 何となく理解は出来るけど」

「あかりを6年間昏睡状態にさせたのは俺だ。本当だったら俺がなってたはずだ。最悪死んでいたかも知れない」

「『たられば』は意味ないわ。結果、あかりが6年間昏睡状態だった事実しかないもの」

「その事実が苦しい。あかりを見てると6年間の空白を作らせてしまい 俺のせいで幼いのか。と自分を責めてしまう」


 不意に隣に座っていた ひまりから爽やかの中にほんのりと甘い匂いがしたかと思うと

 俺の顔を両手で優しく挟み そのまま膝枕へと誘ってくれた


 髪を撫でてくれる ひまりの甘い匂いと太股の柔らかい感触に心がふわふわする


「苦しかったよね 大丈夫だよ。大丈夫だから」


 優しく包み込んでくれる ひまりの声は魔法の言葉の様に聞こえる


「でも、俺はあかりを」


 空いてる方の手で口を塞がれた


「陽太君……あかりって強いんだ。私なんかよりも全然」


 俺の口を塞いでいた手を肩の方まで持っていき、優しくあやすようにトントン。と一定のリズムを刻むひまりの手は、服越しにでも温かさが伝わってくる


「よく思われがちなんだけど、私の方があかりを引っ張ってる。って……でも、昔から私は あかりがいないと不安で、だから『あかり、おいで』って言ってそばにいさせてたんだ」

「あかりが強いのは分かるよ 運動神経も良いし、頭も良いし、誰とでもすぐ仲良くなれる」

「ね。あかりって凄いよね 。だから、何か欲しいものや1人しか出来ない場合は、お姉ちゃんの振りして、あかりに譲ってた」

「それは、ひまりの優しさや自己犠牲の精神ってやつじゃん? 」


 ひまりはクスッと微笑むと懐かしそうに目を細める


「違うよ。残り1つのお菓子とか。可愛いぬいぐるみとか……私も欲しかったのに『私は良いから、あかりが食べなよ。あかりが貰いなよ』って言ったりして最初から、あかりと争うことを避けてた。あかりには勝てないから」



 不思議だ……

 俺からしたら完璧なひまりでも

 不安に思う事や あかりをそんな風に思っていた何て考えた事もなかった


「あかりが事故を起こしてから6年間の空白で、私は少しずつ自分を変えてみたの。もう、あかりには頼られない。自分で何とかしなきゃって」

「全然知らなかった。俺から見たら、ひまりも完璧だったし」

「それは精一杯演じてたからだよ。そして、あかりが昏睡状態になってから5年間は待とうって決めてたの」

「待とう? あかりが起きるのを? 」


 うぉ 突然 ひまりは足踏みする様に太股を動かして来たから 頭が跳ねる


「それももだし、 陽太君に告白するのをだよ」

「え? 」

「あかりが陽太君を好きだったのは分かってたから、あかりにだったら陽太君を取られても良いかな。って私の悪い癖が出てたんだよね。その癖、陽太君から私に告白してくれないかな。とか、お祈りしちゃったりして」


 ピタッと足踏みは止まり また優しく頭を撫でてくれた

 グラグラに揺らされた脳がひまりの手で優しく波に揺られてるかの様に心地良い


「いざ あかりが昏睡状態でいなくなると、だんだんと私が陽太君と付き合いたいって思い始めて、自分の中であかりを5年待とう。って決めてたの」


 何か俺が話すはずだったのに いつの間にか

 ひまりの話を聞く事になっているな


 ひまりと幼馴染みで付き合ってても

 知っているつもりでいただけで 本当はひまりの事を俺は何も知らなかったんだろう


「5年待ってもあかりは目覚めなかった……だから、私は一世一代の覚悟を決めて陽太君に告白した。なのに……」


 ひまりの口の動きは『ずるい』と言っているようだ


「ひまり。俺は……どうしても自分の身代わりになってくれたあかりを裏切れない。何て言って良いかが分からないけど」

「気を使われるのはあかりは嫌いでしょ? 」

「それは そうなんだけど、自分の気持ちがゴチャゴチャして嫌なんだよ」

「じゃあ 私は待てば良いの? いつまで? あかりが成長するまで? その時に陽太君は私と また付き合ってくれるの? 」


 頬に水滴が落ちて来たかと思い 顔を上に向けると ひまりの涙だった


「あかりは可愛いし優しいし裏表ないし みんなに好かれる。あかりが成長すれば陽太君も絶対にあかりを好きになる」

「そんな分かんねーだろ」

「なるよ! 双子の姉から見てもあかりは素敵だし可愛いもん! 」


 顔を覆うひまりの両手から溢れ 俺の頬にポツリポツリと落ちてくる 氷の美少女が流す生暖かい涙


「ひまり。俺は俺を許せるまでは誰とも付き合わない」

「だから それはいつまでなのよ!? 」


 俺から離れて行っても仕方ないな こんな半端な野郎を待つ方が 無駄な時間を過ごすってもんだ……


「……分からない。もしひまりが俺に愛想を尽かしても、俺以外の人を好きになっても仕方ないよ」

「……ここまで陽太君がバカだとは思わなかった。『仕方ない』って何が? 『仕方ある』に決まってるじゃん。私はあかりにも言ったけど」


 あれ? 俺が思ってる方向とは違う気がしてきた


「どんな手段も選ばない。あかりには負けない」


 足を少し上げたかと思うと ひまりの顔が近付いて来て そのまま柔かい唇を押し当ててくる

 あたたかいけど不器用な ひまりの感情が唇から伝わる


 目を閉じると街灯の明滅だけが気になる

 思考が止まり ひまりの唇だけを求めたくなる

 唇が離れたりくっついたりする度に 聞こえるキスの音が興奮させる余計に……


 どの位、時間が経ったのか分からない

 頭がクラクラする酸素不足だ


「あかりには持ってないものが私にはあるよ」


 ひまりは俺の頭の後ろに腕を回すと強く抱き締めてきた


 顔がひまりの大きい胸に挟まれる……ここは天国かな

 窒息死するなら

 この窒息死の仕方一択だね


「ど どうかな? 」

「めちゃくちゃ安心する」


 ひまりが左右に俺の顔を揺らしてくる

 わーい 右おぱーい 左おぱーい 右おぱーい 左おぱーい

 おぱーい皆平等……


 違う!! なぜ、こうなっているんだ!


 慌ててひまりの肩を押し 体を離した

 さっきまでシリアス展開だったのに なぜだ?


「もう 消灯時間過ぎちゃうね 戻ろっか? それとも……」

「も 戻ろう! 明日は自由行動で楽しみだし」


 髪を耳に掛ける俺の好きな仕草をしてから 立ち上がるひまり


「戻るまで手繋いで」

「あ あぁ」


 手を差し出すと指を絡め合わせた恋人繋ぎをしてくるひまり

 実際に恋人だった時にすらしたことねーよ!


 そのままドキマギしながらホテルに戻る


「じゃ 私は2階だから階段で行くね」

「分かった おやすみ」


 くるっと俺に背を向けると長い髪を束ね横に垂らした

 ひまりの細く白いうなじが全開になる


 最後まで何なんだあいつは……

 俺はうなじを……ひまりを見送り部屋に戻った


「ギリギリだな。で、お姉様といけない事でもしたのか? 」

「なぜ ひまりといたのが分かる? 」

「窓から2人が帰ってくるのが見えたんだよ」

「べ 別にしてねーよ」


 意味ありげにニヤニヤしてくる海斗


「お姉様。さっきの恋争ってやつで『あざとさ』や『色仕掛け』も辞さない。言ってたから、襲われてたのかと思った」


 なるほど、もう恋争は始まっていたのか

 恐るべし ひまり……

 無条件降伏しそうになったわ

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