第7話 初キス
遊園地に来て2時間も経たないうちに 俺は3度先立つ不幸をお許し頂いた
ジェットコースターで1回 バイキングで1回 で、まさに今やってきたフリーウォールで1回
フラフラな足取りをしてると
「よ 陽太君……お お昼にしようか? 」
「そ……うだな 休もうぜ」
絶叫系のおかげで、内蔵は互いの感性の違い慣性の違いかも知れないが活動停止中になったので とにかく何でも良いから座りたかった
適当な屋内のレストランに入り ひまりはパスタを 俺は蕎麦を食べ終えた
「ジェットコースターの写真 良いよね」
「何処がだよ! 完全に俺は魂抜けてる顔だろ」
写真に目を落としながらアイスティを口に含むひまり。キャップにポニーテールだから 後れ毛の汗がうっすら浮いてるうなじ姿にドキドキする
そんなひまりはジェットコースターを降りた際に、わざわざ写真を買ったのである まぁまぁなボッタクリな値段にも関わらず
写真をよ~く見てみると白目を剥き出し 半開きになった口からは ふよふよとした魂みたいなのが半分抜けてるように見えた
そんな半分天国に向かう俺の隣では 何事もない顔をしたまま万歳をしているひまり
何て涼しい顔で乗ってやがる! 写真に映るひまりの表情だけを見ると 詠唱魔法でも詠んでるが如く
肝っ玉の問題なのかな……
それよりも俺たちの関係をあかりに告げるかどうか聞かないと
「ひまりさ。俺たちの関係ってあかりには告げないのか? 」
写真から視線を上げると 少し伏し目がちに口を開く
「悩む……あかりがリハビリ頑張ってるのは 少しでも早く 私や陽太君と昔と同じように遊びたかったり 対等でいたい気持ちからだけど 付き合ってる事が分かって あかりが気落ちするのが怖い」
「そうだよな……」
「今はリハビリ頑張って欲しいから まだ言わない方が良いと私は思うし、必要以上に気を使う事も 逆にあかりの負担になるだろうから 陽太君も昔みたいに気を使わずに接して上げて」
「分かった あかりが日常を取り戻してからだな」
気を使わずに。っても俺はあかりが小学生の女の子にしか思えない。とても小さいあかり 言葉遣いも行動も幼いあかり 今さら対等に接して上げる事が出来るのだろうか
「腕組みして考え込まないでよ。ねっ 午後はますます暑くなるだろうし 屋内で過ごそうか? 」
「屋内って? 」
ひまりは机に置かれたパンフレットを指差した
『この夏 最狂の怪奇 最恐のホラー 廃墟と化した病院内 キンキンに冷えてます』
なんつーキャッチコピーじゃ これに行きたいと思うか?
「ね 怖い? 」
「別にこわかねーよ 人間がやってんだし」
「ほんとかなぁ 昔から肝試しも苦手だったじゃん」
「あれは、お化け役に驚く、あかりの声が大きくて心臓に刺さってくるようで嫌だったんだ! 」
とにかく手当たり次第に ワーキャー叫ぶあかりだったので その度にこっちも釣られて驚いてしまった
「あかりも苦手だったもんね 良いよ 手 繋いでて上げる」
「だから 別にこわかねーっつーの」
言いながらとっくに飲み終えていたアイスコーヒーを啜った。
ほんっとすいません……怖いもんは怖いもんで 廃墟の病院では 驚いて繋いだ手を離し先に逃亡する事、実に5回 最後はひまりに呆れられたまま廃墟をクリアした
くそっ 想像以上にキンキンに冷えてやがったぜ 出てきてもまだ背筋がゾクゾクして汗が止まらない こえーよ 思ったよりこえー
「もう 置いてかないでよ 女の子を置き去りにするとか最低だよ」
逆にお前は全く怖がらないで このアトラクションを楽しめたとでも言うのか?
普通は『きゃーこわ~い』言いながら抱き付いて来たりするんじゃねーの?
そしたら俺も頑張って逃亡せずにいけたんだけど
どちらにしても あかりにもひまりにも置いてかないで言われた俺は最低野郎だ
「じゃ 陽太君でも楽しめるように 次はあれに入ろう」
ひまりが指差したのは併設されているゲーセンだった
ゲーセンと行っても
転がる10円玉を両サイドにあるバネで弾いて穴に落とさずにゴールまで運ぶ。とか 順番に光るルーレットをタイミング良く押すゲームとか。レトロ感が満載で全部が10円で楽しめた
2人で一緒に出来るゲームも多いのだが 物理的距離が近くなり 自己主張が強いひまりの柔らかい胸が 二の腕に当たる度 俺は気を取られ負けてしまった
あかりとだったら気にすることねーから負けることもなかっただろーな
「時間も時間だし出ようか。トータルでは私の勝ちだね」
「ば~か 最後に勝った方には1億点入るのがあかりが昔に決めた俺たちのゲームでのお約束だろ」
「ねぇ 陽太君。最後も私が勝ったんだけど……」
「別にゲームで勝ってはしゃぐなんて格好悪いからな! 」
「ねぇ 陽太君。絶叫系はまだしも お化け屋敷で女の子を置き去りにして逃亡することは格好良いの? 」
「俺の敗けです 大敗北です すみませんっしたあぁぁ」
ぐぬぬ! 俺の完全敗北だ……ぐうの音も出ない。全面降伏だよ!
「そんなとこも陽太君らしいけど」
彼女の前で敵前逃亡するとこが!?
「そんな陽太君にも乗れちゃう最後はあれだね」
それは俺も思っていた。 ひまりの足取りが大観覧車へと向かっていたからな
観覧車何て何年ぶりだろうか?
おぉ おっきい観覧車の真ん中にはデジタル時計で
18:39を表示していた
なんだかんだ けっこう時間経ってんだ 楽しすぎて あっという間だ
10分ほど並んだが ようやく観覧車に乗り込む事が出来た
俺とひまりは向かい合う様に座った
冷房も効いているし広めの観覧車だから 精神的余裕がある
「ねっ そっちに座っても良い? 」
「え? 」
答える前にあかりは俺の隣に座った
精神的余裕はもはやなくなった
「この観覧車15分くらいで一周するんだって」
「へ へぇ」
「だから 時間的に頂上辺りで日没になるんだよ」
え? まさか時間を狙ったのかよ
「おぉ 日没ねぇ 日没 良いよねぇ 日没」
少なからずパニクっている それもそのはず いつにもまして ひまりはくっついてくる。と言うか腕を抱き締めて来るから ひまりの神々しい胸に 腕が挟まりそうになってるんですが これ わざとじゃねぇよな
付き合い出してこんなにも密着した事はなかった
他の高校生がどんな付き合い方をしているのか友だちから聞く事もあるので 幼馴染みからの関係となった俺たちは奥手の方だろう
半年付き合って まだ手を繋いだ事しかない
「手汗が凄いよ ドキドキしてるの? 」
「ば ばか してねーよ」
「そっか……私は凄いしてるよ」
「ちょ おまっ 何してんだよ! 」
俺の手を取ると ひまりは自分の左胸へと当てた
とても柔らかい奥深くどこまでも埋まっていきそうな胸の感触に 気持ち良さと安心感を覚えた
「ねっ 分かる? ドキドキしてるでしょ」
俺の触覚は、ひまりの胸の感触に全神経を注いでるらしく 鼓動は分からなかったが、ひまり以上に俺の胸がバクバクしてた事は分かる
「あっ 前見て太陽が沈んで行くよ」
俺の手も胸に沈んで行っててそれどころじゃなかったが 観覧車から見る 沈む行く夕陽は幻想的で今まで見てきた中で一番綺麗だった
「海も街も夜になっていくんだね」
「そうだな 街側は高層ビルや家から 少しずつあかりが灯って綺麗だろっ」
突然ひまりに抱き締めら観覧車が揺れた……
「少し怖いよ……」
「な 何がだよ? 」
「分からない 分からないけど 不安に押し潰されそうになるの 怖いよ……」
自分でも分からなかったが 咄嗟にひまりの背中に手を回し強く抱き締めた
腕の中でモゾモゾっと顔を上げ、潤んだ瞳で見つめ目を瞑るひまり
言われなくても雰囲気で分かる
そのままひまりの頬に手を当て 初めてのキスを交わした
経験がないので上唇を挟んだだけなのに ひまりの唇が柔らかくてもっと味わいたくなる 息が上手く出来ない……お互いの口が半開きになると どちからともなく深く唇を重ね合わせた
溶けそうになるとはこの事か……溺れそうになるとはこうい事か……ひまりとのキスは溶け合い息苦しく溺れそうになる 脳は酸素不足なのに心は凄い勢いで満たされていく……
別れを惜しむようにゆっくりと唇が離れると ひまりは顔を真っ赤になり俯いた
そんなひまりが今まで以上に愛しく離したくなかった
「も もう観覧車終わっちゃうね」
「あぁ 終わりがあるって分かると、頂上を越えてからの 残り半分は淋しいだけの気分になるな」
恋愛も同じなのだろうか? 終わりが見えてしまえば 付き合う意味もない 別れて昔の関係に戻れないなら 最初っから 付き合わない方が良い
俺とひまりはそうはならないよな……
あんだけ覚悟を持って 半年前に俺に告白してきた、ひまりだ
俺がしっかりしてれば この甘く癒され落ち着く関係はずっと続いていくものだと思っていた…………
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