ラブロマンス同好会

 あかりの学園生活2日目

 靴箱には相変わらず中等部に加えて、幼女好きな危ない高等部のお兄さんからのラブレターも増えていた


 あかりは大量のラブレターを両手に抱えては

 心の底からため息を吐くと、俺と目が合った。

 ヤバイな……

2回瞬きをすると目を輝かせ微笑んできた


「全部読むと時間が掛かっちゃうから 陽太が代わりに読んで 」


 来たよ この唐突な振りが


「アホか! お前の為に書いてくれたのに俺が読んでどうする」

「え~ 陽太も気になる人が見付かるかもよ」

「見付かったら逆にヤバイわ! 」


 周りからの視線が突き刺さって痛い

 周りで観察してる

 男子生徒からはメラメラと青い炎のオーラが漂っている

 何故に高2の俺が中学生から睨まれなきゃならんのだ


「じゃあ ひまりちゃん一緒に読もうよ」

「だから、お前はアホか! 漫画じゃねーから 1人でこそっと読めよ」

「え~ こういうのは仲の良い女子と、笑い合いながら読んで『こんなもんを私に書いてくるなんて身の程知らずね キモッ』って書いた人をバカにするんでしょ~? アニメで観たもん」


 おっと一部の男子生徒には

 Sキャラが受けたのか

 ハァハァしちゃってる奴もいるよ


「そのアニメ観るの止めろ 。女の子たちがキャッキャウフフしながらカフェで働いたり南極に行くアニメ を観ろ……」


 ひまりさんの只でさえ冷たい視線がより冷たい

 凍っちゃいそうだ

 南極はここにあったんだ 全然近い場所にあったんだ


 2日目からは通常の授業があり

 現段階で中2程度の学力しかないあかりは

 付いてこられずにいるので

 ノートに書き写すだけとなった。


「焦らなくて良いから、後でノート見直せる様にしときなよ」

「ひまりちゃんは字も綺麗だねー。 うわっ 陽太の字……こ 個性的なんだね」


 俺に気を使ってんじゃねー

 思わず、シャーペンをカチカチと連打した

 ってか、前の席の海斗は早くもサボりか?

 俺は空白の席に目をやった


 ※※※※※


「おっひるだー おっひる! お昼ってどこで食べるの? 」

「どうしよっか? 今日はお弁当作って来なかったからね」

「じゃあ 購買で買って屋上で食べようぜ」



 購買まで行くと 早くも大勢の生徒で賑わっていた


「相変わらず凄いね。あの中に混じって買うのは無理な気が……学食にする? 」

「あかりは焼きそばパンとイチゴ牛乳とプリンが良いなぁ」


 俺の裾を引っ張り

 上目遣いに可愛く

 おねだりしてくるあかり


「よっしゃ 待ってろ 買ってくるから!」


 食欲旺盛な中高生に取って、並ぶと言う

 不文律化された行為は

 意味を持たず ただ己の

 本能に従い前へ進むのみであった


 いっ! いってー!

 こいつらわざと 蹴ったり

 叩いたりしてるだろ

 鈴影ツインズと仲良くするのも命懸けだ


「おばちゃん。焼きそばパンにイチゴオレとプリン。あと……」

「あいよ」


 何とか買えたが

 シャツの裾がいつの間にか

 はみ出ていた


「あかり! 買ってきた……ぞ」


 ちょっと!

 何で両手いっぱいに

 焼きそばパンやらサンドイッチやら イチゴオレやら抱えてるの?


「エヘヘ 何かみんなから貰っちゃった みんな優しいねぇ ありがとーー」


 目尻を下げたあかりは、周りにお礼を言うと

 周男子生徒たちからは歓声が起こった


 もうこいつファンを手懐けてやがる!


「陽太君 それ私が貰おうか? 」

「ひまりには、いつもの春雨サラダとアロエヨーグルトと午後ティー買ってきたから。俺が食べるわ」


 両手一杯に焼きそばパンやイチゴオレを抱えたあかりがホクホク顔で通る度にスマホで捕ろうとする奴が多いこと



「いっただきま~す」

「「頂きます」」


 屋上のベンチに3人で座りテーブルを囲んだ

 あかりは本当に美味しそうにモグモグと食べる

 口いっぱいに詰め込めるだけ詰め込むので

 頬っぺがすぐにリスやハムスターみたいに膨らむ



 あかりの人気ぶりは異常だ。

 ひまりの時を軽く越えている。

 高2の途中から入ってきたり

16歳にも関わらず見た目は

小学生といった物珍さもあるのだろう


 あかりに目をやると

 パンが喉につまったのか

 急いでイチゴオレを流し込んでいた


「ふぅ 屋上で焼きそばパンにイチゴオレ。はぁ~ 学園生活でやってみたかったこと20位くらいだよ 」

「上に19コもあんのよ! 」

「あるよ! ねぇ、ひまりちゃん。陽太」


 こ これは、必殺の瞬き2回からの目を爛々とさせる

 俺には良くない前触れ!


「どうしたのあかり? 」

「ふっふっふ あかり同好会作りたい」

「却下」

「ぶー 陽太! まだ内容言ってないよぉ」


 聞きたくない 聞きたくない

 聞きたくない 聞きたくない

 嫌な予感しかしねーもん


「陽太君も、聞くだけ聞いてみようよ。あかりは、何の同好会を作りたいの? 」


 口角を上げたかと思うと

 拳を作り天高く突き上げた


「恋・愛・同・好・会」

「「却下」」

「なんでー 帰宅部とかつまらないよぉ 青春しないと青春」

「俺はバイトあるし」

「ない日もあるじゃん。その時に恋愛同好会しようよぉ」


 謎に天高く突き上げた拳を

 あかりは縄跳びをするみたいにブンブンと大きく回し始めた


「恋愛同好会って何すんだよ? 」

「恋愛に付いて学んだり デートしたり」

「同好会を作ったとして3人なら いつもと変わらないわよ」


 あかりの提案にさすがの

 ひまりも付いて来られずに

 いるのか、目をぱちくりとさせている


 人差し指を左右に振りながらあかりが答える


「チッチッチ 学園内でやるから良いんだよ! 」


 ひまりと目を合わせると

 明らかに(面倒臭そうね)

 と言っていた

 初めて目は口ほどに者を言う。を体現した瞬間に居合わせてしまっていた



「話しは聞かせてもらったぜ!」

「海斗!? 授業サボってここにいたのかよ? 」

「ってか、君たちが来てから 俺はすぐ隣のベンチで横になっていたのに気付かれないから悲しくなってしまったよ」


 もう何コ目の焼きそばパンなのか分からないが、口に入れるとあかりは海斗を指差した


「おぉ 赤髪! 盗み聞きとは品性を疑う」

「外ハネッ子! 物を口に入れてる時に喋るとは品性を疑う」


 両者視線を逸らさず

 火花が飛び散りそうだ


「まぁ 良い その『恋愛同好会』とやらに俺も入れてくれよ」


 無駄に髪をかき上げ

 流し目をしてくる海斗


「赤髪ピアス野郎には気を付けろ。ってお婆様が言ってから無理。ねっ ひまりちゃん」

「え? え えぇ そ そうね」

「明らかに、お姉様の方は嘘を付くの下手過ぎだろ」


 海斗はゆっくりとあかりに近付くと


「俺を同好会に入れてくれれば これをやろう ほ~ら甘いが、さっぱりしてて美味しいぞ」


 海斗が持っているのは すぐに売り切れになってしまう

 品数限定のずんだシェイク!!

 バニラとずんだの絶妙なハーモニーが生んだ奇跡


「時代が変われば物事も変化する あかりは変化対応型だから赤髪ピアスも受け入れなければならない」

「交渉成立だな! ほら、まだ一口も手を付けてない」


 満面の笑みでずんだシェイクに口をつけるあかり


「ほぉ~ 美味しぃぃぃ」


 あかりは目を細めるとグーにした手を小刻みに上下に振り始めた


「何か既にやる方向になっているが、ひまりは良いのか? 」

「陽太君はどうなのですか? 」

「もう手遅れだろ」

「じゃあ 私もそれで良いです」


 少しずつ秋の足音が近付いてくる9月に

 俺たち4人は謎の

『恋愛同好会』を発足させたのであった

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