星空ロマネスク
俺と海斗の部屋に入ってくるなり鈴影ツインズが言い争い始める
「あの下着は私じゃなくて あかりが持って来たものだからね」
「お風呂場に持ってきたのはあかりだけど、修学旅行に持ってきたのはひまりちゃんでしょぉ?」
「そ そそ そうだけど、何であかりが持ち出してくるのよ? 」
「家では鏡に向かって似合うかどうか、毎日合わせてチェックしてるのに、ひまりちゃんが全然着けないから」
鏡の前でポージングしてる、紐パン姿のひまりを想像してしまった……
清楚な見た目と下着のエロさのギャップが破壊力抜群すぎる
「べ 別にいつ着けようが私の勝手じゃない」
「陽太に見せたかったんだよね? それに陽太も見たいんでしょ? 」
「い いや 俺は」
「わ わたしは別に……」
俺たちの否定のタイミングが重なると
やれやれ。と言ったように首を横に振るあかり
「ほら、これだよ……あかりのせいで2人は別れたんでしょ? 」
「あかりのせいじゃない。俺のせいだ」
「じゃあ 陽太のせいでも良いけど、お互いにまだ好きなんじゃないの? 」
俺もひまりも否定も肯定も出来ずにいる
「妹ちゃん。それが関係あるのかい? 」
「赤ピ お互いに好き同士なのに付き合わない理由ってなに? 」
「う~ん 立場とかかな? 先生と生徒だと周りの目が……」
「赤ピのは華麗なる一方通行な想いだ! 」
なんなんだよ あかりの言いたい事が分からない
俺は俺の考えで今はひまりとは付き合えない
あかりへの負い目もあるし、あかりへの償いでもある。が、その理由をあかりに言う事はしたくない
「あかりは何を言いたいの? 仮に私と陽太君がまた付き合い始めたら、あかりは嫌じゃないの? 」
「嫌だよ。 でも、それ以上に気を使われたりする方が嫌だ! 」
「気を……気を使ってる訳ではねーよ。ただ、今は付き合えない」
肩を落とし伏し目がちになるひまりが視界の端に映った
「ね? ひまりちゃんは陽太が好き? 」
「え? そ それは……ハイ……」
ひまりは顔を赤く染めるとテーブルに置いてあるリモコンを弄り始めた。
「ひまりちゃん。宜しい……ならば私と
「はい?……」
「だから恋争だよ。陽太はあかりとひまりちゃん、どっちと付き合うかをしっかり考えなさい」
ピシッと指を差してくるあかりの目は本気だった
その真っ直ぐ瞳に魅了され、思わず心を掴まれそうになる
「あかりは急成長してるから、ひまりちゃんに外見も内面も追い付ける」
確かにここ1ヶ月で身長も2㎝伸びたらしいし、話してても前より年齢差での違和感はなくなって来てるし
「私は陽太君を甘やかせる事が出来るし、陽太君の好きな料理が作れる」
くっ 確かに! あかりには膝枕をしてやる方だが、ひまりには膝枕をさせて欲しい……ひまりの優しく甘い声で『大丈夫だよ』言われると安心出来る! 何よりも胃袋が掴まれる!!
「では宣誓しよう! 鈴影あかりは恋愛シップに則り正々堂々せず、どんな手段を講じようとも陽太と付き合う事を誓います。ひまりちゃんもどーぞ」
「え? わ 私もしなきゃダメなの? 」
「不戦敗で良いならしなくていいよ」
目を瞑りながら恥ずかしそうに、ひまりは右手を上に挙げる
「や やるわよ…… せ 宣誓。鈴影ひまりは、恋愛シップに則り、あざとさや色仕掛けも厭わない覚悟がある事を誓います」
あざとい。って他人から言われるものを自分で言う辺りが、ひまりの正直さを物語っている
ツインズは謎に笑みを浮かべ握手を交わしている
「よし じゃあ明日に備えてあかりは寝るよぉ」
「妹ちゃん。その明日の事を話すために来たんじゃないの? 」
「う~ん ひまりちゃんが
栞を受け取ると丁寧に行く場所までの経路や時間が書いてあり、その場所のオススメポイントや簡単な概要まで書いてある
「すげー さすがひまり! 頼りになるわ」
照れたように前髪を手直しするひまり
「皆に楽しんで欲しくて頑張っちゃった。じゃ 明日は1日自由行動だから朝食後にエントランス9時まで集合ね」
「分かった おやすみ」
「おやす……キャッ」
危ない!
ひまりが立ち上がろうとするとバランスを崩したのか俺の方向に倒れそうになったので 咄嗟に立ち上がり受け止めた
胸の柔らかさとシャンプーの甘い匂いに俺が眩みそうになる
「あ ありがと陽太君」
「大丈夫か? 」
ひまりは耳元に顔を近付かせて来たかと思うと小声で
(2人だけだったら、このまま倒れ込みたいね)
体制的に抱き合ってる様にはなっているが……あざとい!! これはわざとか? ひまりの策略か?
「あっ 私も立ち眩みが……」
「おっと 大丈夫かい? 妹ちゃん」
あかりも真似をしたのであろうが、俺にたどり着く前に海斗にキャッチされてしまい固まっている
「赤ピイィ! どうもありがとな!! 」
「あ あぁ そういう事か 逆にごめん」
そんな怒りながらお礼言ってる奴初めて見たわ!
海斗もあかりの意図を汲んだのか、気を回して謝らなくて良いって
今はひまりの感触をもっと味わっていたかった、実に名残惜しい
鈴影ツインズをエレベーターまで見送り部屋に戻ると海斗が真剣な顔をしていた
「お前はどっちかと付き合う気はあるのか? 」
「なんだよ。急に」
「もし、お前がどちらとも付き合わないつもりなら、2人の真剣な気持ちを
「なんで、海斗が怒ってんだよ? 」
海斗の言いたい事は分かるが、2人を弄ぶ何て事が出来るわけがない
「俺は性格的にどっち付かずの奴が嫌なんだよ。今の陽太はモテない奴が、神様の悪戯で美少女2人から言い寄られているのを、一歩引いて楽しんでる様にしか見えない」
「はぁ? 嫉妬か? 花森ちゃんと上手く行かないからって」
「それとは話が別だろ。前に『一夫多妻制』とか言ってたし、お前が中途半端に接すると2人が可哀想だ」
多分だけど海斗はモテるから女の子の気持ちや 行動ってのも分かるのだろう
それに対して自分が言うべき事やする行動も
「なぁ 海斗。あかりが事故って6年間昏睡状態になったのは俺のせいなんだ……」
「え? 」
さすがに驚いたのか眉根を寄せ困惑している
「赤信号を無視して車に
「だから同情してるのか? それでお姉様とも別れたってことか? 」
「同情で別れた訳じゃねーよ」
「そうだな。それは
贖罪? 何となく意味は分かるが、俺はあかりが成長するのを待っているだけで、俺が奪ったあいつの6年間が戻った際に……
ダメだ考えてる事や思ってる事が上手く口に出せない
理解して欲しい気持ちはあるのに、俺の気持ちなんか誰にも分からないだろうとも思う
何気なく窓に目をやると星が綺麗に輝いているのが見えた
「海斗。少し外、散歩してくるわ」
「消灯まで時間ないし気を付けてな」
それ以上、突っ込んでくる事もなく見送る海斗の声音は優しかった
取りあえず外の空気に当たりたいのと星が見たかったのでエレベーターに乗り込む
俺がひまりと別れた事はエゴだったんだろう
ひまり自身に落ち度もなければ、ひまりを嫌いになった訳じゃない
俺のエゴで一方的に別れを告げられたにも関わらず
今でも俺を好きでいてくれるひまり
外に出ると冷房とは違う自然な涼しく心地良い風が吹き抜けた
入ってくる時に見掛けたが、すぐ近くにバス停のベンチがあったはずだから そこまで行ってみる事にした
もし、償いなのか何なのかあかりと付き合ったとして、あかりを愛したいと思ったとしても 会いたくなるのは
「陽太君? 」
「ひまり……」
いつだって会いたくなるのはひまりな気がする
「こんなとこで何してんだ? 」
「それはこっちの台詞だよ」
2人並んで腰掛けるベンチは狭く 互いを意識してしまう距離だ
鈴虫の鳴き声がBGMになって良かった 無音だと余計に居づらい
「周りに光がないから、星も月も凄い綺麗だね」
夜空を見上げるひまりの横顔は 月明かりと街灯に照らされ陰影がくっきりとしてる分 いつにも増して美人で見蕩れてしまう
「天の川もはっきり見えるし。ねっ 陽太君が彦星で私が織姫だとします」
「なんだよ 突然」
「良いから お互いに好き同士ですが1年に1回しか会えません。じゃあ残りの364日はどうやって過ごしますか? 」
謎々? 答えがないクイズか?
「そりゃあ 相手を想って早く会える日が来ないかなぁって過ごすんじゃない? 」
「相手って織姫は私だよ」
言葉を誘導するように
ひまりは俺の顔を覗いてくる
「毎日ひまりを想って過ごす」
「じゃあ 365日会える様になったら? 」
毎日会えたら……毎日会えたら幸せだろうけど 飽きられたりしない?
「そんなに考え込む事かなぁ」
「何かさ毎日会ってたらそれはそれで、飽きられたりしない? 」
「しないよ。私は陽太君に飽きる事なんかないし、飽きさせる事もない」
ひまりって基本は控え目なのに、たまに自信たっぷりに言ってくるから反応に困る
「朝起きる度に一目惚れして、夜眠る前までに沢山沢山好きになって眠りにつくんだ。そしてまた起きると陽太君に一目惚れする……だから365日幸せが続くんだ」
答えに困るから……海斗や優也さんみたいな気の利いた言葉が出てこない
「あっ だからって重く受け止めて欲しくはないかな」
「ひまりらしい答えだな」
「今も星に願ってたんだよ。 陽太君が来ますようにって」
「願いが叶ったって事か」
「そっ だから」
胸の前で祈る様に指を絡め両手を合わせると
チラッと横目で俺を見てから目を瞑り
「陽太君はもう一度私を好きになる 陽太君はもう一度私を好きになる 陽太君はもう一度私を好きになる」
ふぅっ。っと短く息を吐くと、ひまりはハニカミながら俺を見てくる
「ってか、流れ星じゃないから1回でも良いんじゃない」
カアッっとみるみる顔を赤らめるひまり
俺の前では感情も表情も豊かで氷の美少女の面影もない
ひまりに触れたい抱き締めたいキスしたい
ひまりにはちゃんと伝えなきゃならないだろう
俺の今の気持ちを……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます