ドラゴンたちは パーティープレイ を 楽しんでいる。


 対抗戦の開始から二〇分後。

 終盤に差し掛かったところで、ジークたちはついに九組のパーティーと交戦に入った。


「ハアアアア!」

「ぐぇ!?」

 ジークが振るう剣の一閃で、敵の【防御結界】が砕け散る。

「こ、この……ぎ!」

「喰らい、やがれ、べ!」

「ひぃひぃ、怯むな! 囲んで一斉に、ぐぎゃ!?」


 二、三、四人目と続けざまに敵が襲いかかるが、全員一刀の下に倒されていく。

 ジークたちが立つ辺りは段差が少なくほぼ平坦な地面。なのでジークはしっかりと足を踏みしめ、淀みない剣捌きで近づく端から敵を叩き伏せた。


 何人がかりで殺到しようが全く問題にならない。なにせ、相手は小突くだけで倒れてしまいそうなほどに弱っているのだから。


 アリスが召喚した魔物にばら撒かせた、ロビン製作のトラップ。その効果は絶大だったと見えて、罠で損害を被りながらの慣れない森林の行軍に、ここまでたどり着いた敵パーティーはすっかり消耗し切っていた。


 中には回復手段が潰えたのか既にボロボロの格好をした者も多く、どうやら途中で脱落者が出たパーティーも多くいる模様。


 対するジークたちは、召喚獣とロビンの索敵でこの戦いやすい場所を確保。後は召喚獣に周囲を警戒させつつ余裕を持って敵の到着を待ち構えていた。


 しかも周囲に配置した魔物には、自立して魔法攻撃を行う【ウィル・オー・ウィスプ】を随伴させている。学院の授業で習い、術者以外の者に随伴させられることも聞き及んでいたが、まさか魔物までその対象にできるというのは驚いたものだ。


 罠で動揺した敵パーティーをニシキが奇襲し、この砲台付き召喚獣が接近した敵をさらに間引き。到達できた人数は全体の半分以下に削られ、しかも戦う前から疲労困憊だ。


「全く、これではどちらがいじめているのかわからない、な!」

「向こうが悪いのは確か。遠慮、要らない」

「ええ! 悪い子は頭をちょん切ってしまいましょう!」

『それ、例えですよね!? 本当にちょん切ったらアウトですから!』


 ニシキを除く四人で陣形を組み、敵パーティーを迎撃中だ。

 ジークと背中合わせにリューが陣取り、ロビンは木々の上から援護射撃。

 そしてアリスがジークとリューの間に立って、二人に守られていた。


 一見するとアリスは棒立ちに見えるがその実、今も森中に散開した魔物たちと【思念伝達】で情報をやり取りしている。距離の遠いロビンが普通に会話に参加しているのも、声を真似る魔物がアリスを中継して互いへ声を届けているからだ。


 実はこのパーティー、要となっているのはニシキでもリューでもなく、一番戦闘力が低いアリスだ。彼女が大量に使役する召喚獣の果たす役割が非常に大きい。


 トラップの設置は勿論、【ウィル・オー・ウィスプ】を随伴させての迎撃。索敵も召喚獣の見聞きしたものが召喚主に伝わる【感覚共有】によって即座に情報が入る。果ては声真似の魔物を介して迅速な連絡まで可能としていた。


「しかし、安価でありふれた材料から大量のトラップを製作するロビンも凄いが……アリスが使役する魔物の数が尋常ではないな。ニシキによれば、アリスは魔物が住まう異界と非常に『波長』が合っているそうだが――」

「波長が合うから、魔物、アリスに従順。少ない魔力で、召喚、応じるし。一度に大勢、召喚しても、支配に魔力を割く、必要ない」


 故にアリスは、他の召喚士より圧倒的な魔力効率で召喚・使役を行えるという。

《刻印》に蓄積された過去の研鑽ではなく、アリス自身が生まれ持つ天賦の才。真の天才とはアリスのような者を指すのだ、とニシキは若干悔しそうな顔で言ったものだ。


 なるほど、ローラは惜しい人材を手放したものである。


「ちょっと! 相手はたった五人ですのよ!? さっさと片づけてしまいなさいな!」


 後方でキーキーと叫んでいるのはエレノアだ。


 どうもパーティメンバー全員を犠牲にここまでたどり着いたらしい彼女は、【魅了】で他のパーティーを支配下に置いているらしい。これが意外にもファインプレーだったようで、烏合の衆も同然の生徒たちは結果的にだが統率が取れていた。


 しかし、既に残る人数も三〇を下回っている。いくら数が勝っても敵は死に体、こちらは意気軒昂で体力もまだまだ余裕だ。

 油断だけはしないよう気を引き締め直しつつ、ジークは仲間に檄を飛ばす。


「陣形を維持し、目の前の敵を確実に倒そう! 私たちなら絶対に勝てる!」

「うん。もっと倒して、ニシキにいいところを見せ――あ」


 杖術と魔力弾で敵を蹴散らしていたリューが、ふとなにか察知したように声を漏らす。

 直後、森の向こう側で爆発が起きた。


「グルアアアアアアアア!」


 敵の悲鳴をかき消すように轟く咆哮。

 木々より高く舞い上がった土煙から飛び出したのは、一つの人影。


 両足を【龍化】させたニシキだ。戦い方を制限されながらも、パーティーと協力して戦う体験は大変有意義だったと見える。


 それはもう楽しそうに、獰猛な笑みを浮かべていた。

 完全に、冒険者を狩るドラゴンの顔で。


「あ」

「あら」

『あーらら』


 色々と察したジークたちは思わず脱力する。リューはニシキの楽しそうな様子に表情を綻ばせつつも、さりげなく【龍覇気】による全方位の結界を張った。


 どうやら、戦いはもうここで幕引きのようだ。


「ハハハハハハハハ! 龍秘技、【ドラゴン・フィスト】――!」


 すっかりテンションが上がってしまったらしいニシキが、空中で拳を振り上げる。


 両足から両腕に【龍化】が移り、龍の拳が目も眩む光を放った。

 そしてニシキは拳を突き出す形で急降下し……地面に着弾。

 隕石でも落ちたような轟音と衝撃波に、森全体が震えた。


 薙ぎ倒される木々。木の葉のようにふっ飛ぶ生徒たち。ジークたちだけがリューの張った結界のおかげで無事だ。離れているロビンも同様だろう。


 視界を覆う土煙が晴れれば、無残に爆撃された森に死屍累々と転がる敵。

 その真ん中で、ニシキだけが満足げに仁王立ちしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る