《義賊》が 仲間 に 加わった!


「つーわけで、スカウトしてきた《義賊》のロビンくんでーす」

「スカウトというかフードを引っ掴んで力ずくで連れてきたように見えるのだが、私の気のせいかな?」


 放課後になって再集合した俺たち。

 ズルズル引きずられてきたフードくんを見て、ジークは呆れ顔だ。


 しかし捕まえとかないと逃げるからなあ。逃げ足速いわ障害物の利用が巧いわ、即席トラップまで駆使するもんだから随分と手こずったのだ。

 フードの下にある陰気な顔した茶髪黒目に、リューが思い出したように呟く。


「この人、村に来た?」

「ああ。自称勇者の馬鹿が連れてたパーティーの一人だな。なんか馬鹿がこいつに当たり散らして『お前みたいな役立たずは勇者のパーティーに不用だ!』とかほざいてたから『じゃあもらってくな』って頂いてきた」

「いや、僕の意思は!? そりゃ、あんな自意識過剰くんのパーティーなんか留まりたくもなかったですがね! 全く、ドラゴンに目をつけられるとか厄日だぜ……」


 観念した様子と見て手を離せば、フードをはたきながら立ち上がるロビン。ジークと目が合うと、どんよりした目つきを一層陰鬱にして視線を背けた。

 ジークはその態度に気を悪くした風でもなく、興味深げな眼差しをロビンに送る。


「ロビン……義賊……なるほど、貴殿が彼のロビンフッドの力を継承した者か」

「へーへー。如何にも僕が貴族様の大敵、大盗賊ロビンフッドの後継ですよ」


 フードくん改めロビンは卑屈な笑みで口元を歪めた。


《義賊》ロビンフッドは《刻印》が血筋より適性で後継を選び、平民の中から輩出される例で代表的な英雄だ。


 庶民の味方として悪政を敷く為政者と戦う逸話が多く、代々の継承者もそういった活躍をしている。しかし筋金入りのアウトローであるため、当然ながら貴族からは蛇蝎のごとく忌み嫌われた。


 そして英雄の末裔が貴族となった現在、英雄学院に於けるロビンの立場は正直よろしくない。「穢れた刻印」「英雄の恥さらし」等々と声高に陰口を叩かれ、馬鹿のパーティーでも相当理不尽な扱いを受けていたようだ。


 そのせいか、酷く捻くれた態度でロビンは肩を竦めて見せる。


「で、なんかスカウトがどうとか言ってましたけど、まさか僕にあんたらのパーティーに入れと? 天下のドラゴン様が両手に花してるパーティーの雑用係しろとか、惨めさのあまり軽く死にたくなるんですが?」

「なに言ってるんだお前? 俺は過去から現在、そして未来永劫リュー一筋だぞ」

「ん。ニシキの隣、リューだけのもの。リューの隣も、ニシキだけのもの」

「そして二人の惚気を毎日間近で見せつけられ、疎外感と独り身の危機感で、夏にも関わらず心に秋風が吹いているのが私だ」

「ア、ハイ。なんかその、ごめんなさい?」


 くっつき合う俺とリュー、そして若干煤けた空気を背負うジークに、思わずといった感じにロビンが真顔で謝罪する。

 するとジークは一転して、清々しい笑顔でロビンの手を取った。


「イヤ、いいんだ。これからは同じ苦楽を共にする仲。一緒に頑張っていこう!」

「嫌な歓迎のされ方! その苦楽ってダンジョン攻略とかじゃなくて、この二人の惚気に耐え忍んでいくって意味合いですよねえ!?」

「うーん。この打てば響くような反応、やはり逸材だな」

「これが、ツッコミ?」

「うむ。喜劇の舞台役者なんかにいる、やたらリアクションの派手なヤツだ。ジークは真面目だし、生温い視線で見守るのが常だからな。こんな風に小気味よく反応を返せる人材はそうそういないぞ」

「まさかのツッコミ要員としてのスカウトだった!?」


 いや、本当にリアクションが見事だ。盗賊より役者の方が向いてるのでは?

 ひとしきり笑ってから話を戻すことにする。


「まあ、安心しろ。ツッコミは重要だけどそこが本題じゃないから」

「せめて嘘でも冗談だと言って欲しかったんですがね……。大体、勧誘するなら《雷霆》とか《戦乙女》とか、もっと相応しい相手がいるんじゃ?」

「そいつらこそ不用だ。なぜなら、戦闘力だけなら俺とリューで有り余るほど事足りているからな。俺たちの下位互換にしかならないような戦闘員なら、いるだけ余分だ」

「英雄の再来と名高い、あの怪物たちを下位互換呼ばわりときましたか……」


 だって事実だ。

 天を割る雷も、鋼を貫く槍も、ドラゴンの咆哮や爪牙には及ばない。

 どうしたって「俺がやった方が早くない?」という話になる。


「独自の理で成り立ち常識が通用しないダンジョンじゃ、あらゆる状況に対応できる臨機応変さが求められる。そのために仲間同士で足りないところを補い合うのが、パーティープレイの意義だろ? つまりドラゴンが率いるパーティーにはドラゴンの不足を補える、ドラゴンにできない長所を持つメンバーが必要なんだ」


 なにも慈善活動で、馬鹿のパーティーから追放されたこいつを拾ったわけじゃない。

 ロビンの持つ能力が有用だと判断したから以前より目をつけ、これ幸いとばかりにかっさらって来たのだ。


「つまり、僕の姑息で小賢しい小細工が入り用だと?」

「ああ。お前の用意周到で抜け目ない手練手管が必要だ」


 キッチリ言い直してやれば、ロビンはフードを目深に被って顔を隠した。慣れない高評価に動揺しているのが丸わかりである。


 あの馬鹿のことだ。直接的な戦闘力の低い斥候職を頭から見下して、散々不当な扱いをしてきたんだろう。こいつを勧誘する側としては実に好都合だ。ただ正当な評価を下すだけで揺さぶることができるんだから。


 俺がほくそ笑んでいると、ジークがなにやら複雑そうな顔で挙手した。


「ニシキの言いたいことはわかったし、私もロビン殿の加入は賛成だ。ただ……その理屈で言うと、剣だけが取り柄の私は『余分』ということにならないか?」

「…………」

「露骨に目を背けないでくれ!?」

「冗談だ。ジークにもジークで、俺やリューには真似できない長所があるだろ。お前は騎士――他者を守ることに秀でた戦士だ。ドラゴンは敵をまとめて燃やしたり埋めたり吹き飛ばしたり呑み込んだりするのは大得意だけど、大抵守らなきゃいけない相手まで一緒に消し飛んじまうからな。アッハッハッハ」

「闘技場をふっ飛ばした竜巻の件を思うと、少しも笑えないんですがねえ」


 ちなみにそのとき、ロビンは闘技場の外から【遠視】スキルで観戦していたそうだ。

 本人曰く『なんか嫌な予感がした』とのことで、危機察知能力もなかなか優れている模様。こいつはますます引き入れたいところだ。


「そういうわけで、お前には是非とも俺たちのパーティーに入ってもらいたい。今なら報酬の分け前も、前のパーティーより一〇倍の待遇を約束するぞ?」

「一〇倍!? ニシキ、それは流石に――」

「いや、こいつ前のパーティーでの扱いが本当に酷くてな? 一〇倍でやっと相場の額になるんだよ。むしろ今までの待遇でよくやりくりできたな?」

「苦労、してきたんだな……」

「ハハハ。まあ、今後は別の意味で苦労しそうですがねえ」


 こうして、《義賊》ロビンのパーティー加入が決まった。


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