四章13:孤児、カンパナリアの約束 Ⅱ

 翌朝、クロノはララと一緒にハーミッド団長の遺品の回収にやってきていた。一応名目は「ベヒーモスの死亡確認」だったが、それについては問題がなかった。あとは遺体処理班が来て、恙無く処理してくれるだろう。


「なになにクロノ? それ、ムームーちゃんに渡してあげるの?」

「それもあるんだが……遺品があれば、ガチャで団長を引きやすくなると思ってな……」


「そんな事できるの?」

「いや、分からない。でもララにせよリーナにせよ、あのグスタフのおっさんにせよ、だいたい地域や場所に縁のある人物が出てきている確率が高いんだ……だから」


「なるほどね。クロノったらやーさしー」

「そんなんじゃない」


「でもさ、そこまで気を遣う必要あるのかな? どういう経緯にせよ、呼ばれてからは本人の自己責任なんじゃないの? 厳しい言い方で悪いけど」

「そうかもしれない……でも僕にはわからないんだ。ただ、あの時、目の前で人が死ぬ事に耐えきれなかった……そして願った、今死んだ、この彼女を引きたい……救いたい、と」


「はあ。クロノって思ったより繊細だよね……いっつも冷静に指示出してるから、サイコパスっていうか、ちょっと頭のネジ飛んでるんだって思ってたけど」

「……実際に人が死ぬのを、目の前で見るのは初めてなんだよ。これからは、大丈夫だと……思う」


「ふーん、あたしが死んでも?」

「なんでそういうこと聞くんだ……? 死なせるかよ……僕が育てて、僕が指揮を執るんだぞ……死なせて、たまるか」


「あはは……嘘だよ。うそ。ほんと、ずる賢いようで、へんなとこだけ生真面目なんだから……クロノは」

「からかうな。人の生き死にがかかってるんだから」


「ふふ……ごめんね。んじゃ、基地に戻ろうか。ぼちぼちみんなも準備できてるでしょ!」

「ああ、頼む」


 崖下から飛翔するアステリオは、一気に空へ飛び立ち、それから半刻とせずに司令部に到着した。




「おお、来たか!」


 帰投した二人を出迎えたのは、指揮官のゾルド准将。既に他のメンバーは、馬車に乗って出立を待っている状況だ。


「時間を作って頂き、ありがとうございます」

「いやいやこちらこそだ。ベヒーモスの最終確認は必須任務だからな」


「ところで、これからは?」

「うむ、最低限の監視要員を残し、本隊は帝都、または所定の部隊に帰投する。それと……少し野暮用が出来てな。


「スネドリーの件……ですか」

「ああ。これまでの魔族の侵攻は、真正面からのものが殆どだった。ゆえに、力の差はあれど知略で対抗できたのだが……人が向こうに付いたとなると、話は変わってくる」


「籠絡のスネドリー……何か情報があればいいのですが」

「いや、風のうわさだが、情報自体はあったのだ。遥か遠方の国で、傭兵団が魔族側に寝返った……その頭目が、籠絡のスネドリーだと」


「なるほど……そいつがアルマブレッサにまでやってきたと」

「そういう事だ。いいか、この話はくれぐれも内密にしてくれ。俺も陛下にお会いするまでは伏せておくつもりだ」


「分かりました」

「それから、これを渡しておこう」


「なんですか? これは」

「王都への招待状だ。本来なら俺が最後までエスコートしてやりたいんだが……今回は状況が状況だからな。任務の報奨金をギルドで受け取り、それを路銀に当ててほしい。もちろん、王都に到着後、その分に色をつけて返させてもらう」


「ありがとうございます。バースロイルに戻って、一通りお別れを済ませたらすぐに向かいます。それでは准将も、道中お気をつけて。……ご武運を」

「ああ……お前らが来るのを楽しみにしている。……俺も久しぶりに、血が熱く滾るのを感じたよ……ありがとう」


 互いに拳を突き合わせ、敬礼で別れるクロノとゾルド。そういえば勇者ローエングリンの姿が見えないなと訪ねてみると、どうやら昨日相当飲まされたらしく、現在絶賛二日酔いの最中だそうだ。


「まったく、ローエングリンにも同情するよ」

「あー、あのあんまり強くなかった気障男」


「え、そんなに弱いの?」

「弱いよ。だってあたしの峰打ち食らって死にそうになってんだよ。だめだめ」


「ははー、すごいなララは」

「え、いまさら気づいたの??」


「いやあ、すごい」

「いや……改めて言われると、照れるっていうか」


「よし、今晩は奮発してステーキだな!!」

「おおおっ!!! いいねーっ! 流石はクロノ! だーいすきっ!」


「おいおいやめろって……」

「はなさねーぞ〜おらおら〜」


「……」

「……」 


 そして馬車は走り出す。一路バースロイルへ、それぞれがそれぞれの、別れを告げる、その為に。

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