四章04:咆哮、ベヒーモスの覚醒 Ⅰ
翌日、中継地の基盤を固めたクロノらは、隣接する地域への増援に向かう事で一致した。現在、中継地を中心に峡谷を囲む陣形で、五つの部隊が駐屯している。この間のルートを盤石にする事で、非常時の連携をとりやすくする、というのが主たる目的だった。
「へいへいへいへいお馬がとおるーっ!!!!」
「ったく、もっと静かに走れないの?」
相変わらず先陣を駆けるのはリーナクラフト。道中にはランクAクラスの魔物が多かった筈なのだが、元勇者の膂力を以てすれば恐るるにたらない。
「あ〜もう、これ使わなきゃ追いつけないよ!」
そして負けじとララもドラゴンを召喚。これを駆使し巨木を薙ぎながら進む。なるほど獣道であれば魔物の襲来に気づかない事もあろうが、道さえ拓けてしまえば多少の対策はできるだろう。
「ふむ……護衛役を仰せつかったはいいが……この儂が追いかけるだけで精一杯とは……年は取りたくないのう……」
リーナクラフトが点の、ララが線の敵を処理してくれるおかげで、グスタフとノーフェイスは、彼女たちが撃ち漏らした敵を屠るだけでいい。中継地を出て既に半刻は経過したが、全てを擦りぬけクロノの元まで辿り着いたのは、まだコウモリが一匹だけである。
「はは……こんな快進撃、王都でも見たことはない。これならば、ベヒーモスも或いはと思わぬでもないが」
馬を駆り、苦笑を漏らすゾルド准将。まあ実際、我々だけでベヒーモス程度なら葬れるだろうという確信はあるのだが。そこでお上の意向に背かない程度の自制心は、幸いにもクロノにはあった。
「ここだな……むむ……なぜ誰もいない」
暫くすると、クロノたちは物見櫓の立つエリアに到着する。そこは中継地から最も近い駐屯地で、かつては外敵の侵入を見張る為の詰め所があった場所らしい。
「見た限り、さほど広い陣地では無いがのう……いったいどれだけの兵力置いていたのじゃ?」
意外そうに首をひねるゾルド准将と、質問するグスタフ。これに前者は「三個小隊に加え、昨日到着した冒険者パーティが含まれます」とだけ返す。
「うーん、ここから見渡す限りでも、誰もいないねえ」
到着早々、ララは物見櫓の上から辺りを見回している。リーナクラフトはというと、全力を出し切ったのか大の字で寝ている。
「――ノゥ」
「はい、マスター」
早速ノーフェイスが辺りの索敵に出かけ、残されたクロノは、フェリシアに匂いのありかを訪ねる。
「ここから山頂のほうへ……まとまって動いているようですわね」
「あんたは位置が分かるのか……まったく、黒の旅団ってのは何でも揃ってるのかねえ。しかしおかしいな。それでも万が一に備え、銃後の人員は確保しておく筈なんだが」
フェリシアの発言を受け、しばし黙考するゾルド准将。そこで索敵を終えたノーフェイスが、音もなく帰ってくる。
「マスター。周囲に人影はありません……ですが、山頂に向けて大人数が移動した形跡があります。恐らくはそのルートかと」
フェリシアとノーフェイス、二つの意見が一致した事で、おおよその仮説はとれた。なんらかの事情により、駐屯部隊の総力が山頂へ向かっている。それがここの概況だろう。
「武勲でも焦りすぎたか……? ともあれ、追いかける他あるまい。ラッド、ジェスタ、お前らはここに残れ。ロイスとガレリオは、中継地に戻り概況を伝えろ。クラスA・Bまでの敵が現れればこれに応戦、クラスSが目覚めた時には……陣地を放棄し逃げろ。山裾までおびき寄せ、南方軍の一斉放射でケリを付ける」
――まあ、それでケリがつけばいいんだがな。ゾルドはそう付け加えると、部下をめいめいの場所に赴かせる。
「……厄介な状況じゃな。上官は待てと命ずるが、部下は功を焦る。――昔どこかで見たような光景じゃ」
「その節は……ですがだからこそ、俺には二度と惨劇を繰り返させない責任があります。行きましょう隊長。こんなところで戦力を失う訳にはいかない」
「そうじゃな。愚痴と説教は老兵の悪い癖じゃ。駄弁る間に前線に赴こうぞ」
お互いに目配せをしあい、馬を嘶かせる二人。クロノもまた、ノーフェイスの駆る馬の背に乗って覚悟を決める。――まったく、攻略wikiの無い展開は、これだから嫌だ。どこでどんな属性の敵が、どういう編成で現れるのか。増援はいつくるか、バフやデバフはいつ入るか。ドロップアイテムななんなのか。それらが全て分かって初めてバトルが始められる……というソシャゲのセオリーを、このリアルな異世界はことごとく否定しにかかってくる。
「起きろリーナ。ララ、念のため魔力の消費は抑えておけ。本番でこいつみたいに爆睡じゃ、命がいくつあっても足りない」
「わかってるよ! っと。悪いけどリーナ。暫く背中に乗せてもらうよ!」
「むにゃ……うむうむ。戦闘の始まりかい? よしっ、それじゃあいつも通り張り切っていきますか!!!」
こうしてときの声を上げ(主にリーナクラフトだけだが)一行は森の中に踏み入っていった。
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