配下にチートな魔王がいたって、ガチャで引いたから問題ない!

糾縄カフク

序章:ガルガンチュア・インヴォケーション

序章01;敵将、アイゼンタールの回顧

(なぜ俺が――、あそこにいる?)


 帝国軍四将軍が一人、黒鉄くろがねのアイゼンタールは慄いていた。というのも、敵陣の中にまさに、自身と瓜二つの影を見て取ったからだ。


 部下からの報告を受けた時は世迷よまい言と一笑に付したが、事ここに至っては認めざるを得ない。なるほど確かに――、俺はいたのだ。


 焼け落ちる戦陣、入り乱れる阿鼻叫喚。およそ白兵戦では負け無しと謳われた自らの軍隊が、田舎の弱小国に遅れを取るなどとは、万が一にもあってはならない。


 だが、しかし、現実として敗北はそこにある。我が最強の鉄騎隊は無残にも瓦解し、迫り来る敵兵に致命傷を与える事もなく散っていく。さながら象を前にした蟻のように。風に斃れる葦のように。為す術もなく、ただ無力に。


 自らを模したもうひとりのアイゼンタール。鉄仮面を被り、馬を駆り、戦場を駆け巡る戦場いくさばの死神は、外貌も剣技の癖も似通っているが、技量も装備も圧倒的に上を行く。言ってみれば、オリジナルの上位互換。


 いくら自身が歴戦の勇士とはいえ、これだけの砲火の中を無傷で切り抜けるのは不可能だ。育て上げた鉄騎隊を百人も相手に涼しげに立ち回るなど、背筋も凍る所業だ。人の種の極致に位置するのが自身であるなら、アレは、眼前に迫るもう一人のアイゼンタールは、まさしく化物だ。人の世の理を踏み外した恐るべく何かだ。


 やがて悲鳴が止み、重なり合う剣の音が消え、燃え盛る炎に混じって、一点に向かう足音だけが響く。――嗚呼どうやら、我が軍はついに、一兵も残さずして壊滅したのだ。アイゼンタールは瓦礫の下で呻き、これが悪夢なら醒めてくれと、恐らくは生まれて初めて、神に祈った。


 そして止まる足音。ゆっくりと顔を上げるアイゼンタール。その頭上にはもうひとりのアイゼンタールが、恨めしいほど壮健に佇んでいる。


「何者だ……お前は?」

「我が名は帝国軍四将軍ドゥーチェスが一人、黒鉄のアイゼンタール」


「黙れ……その名は……その名は……俺の」

「我が主命に基づき、我が鉄騎隊は貴様らを蹂躙する。――全ては、至るべき平穏の為に」


 問答を重ねる度に、平素の自分と全く同じく返すもう一人のアイゼンタール。失われる血と踏みしだかれたプライドが意識を徐々に蝕む中、アイゼンタールは最後の言葉を絞り出す。


「――俺の、名だ」


 かくて事切れるアイゼンタール。そして佇むもう一人のアイゼンタールの、背後から現れた影が、ようやっと答えるように口を開く。


「どっちも同じアイゼンタールさ。君はこの世界メインシナリオの、そしてこれは、僕が引いた・・・、黒鉄のアイゼンタールだ」


 もはや炎以外に音の無い世界に、応える者の無い、無慈悲な答えだけが木霊した。

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