二章05:買出、バースロイルの漫遊 Ⅰ
「素晴らしい成果でした。さすがは勇者様、領内を預かるものとして、心より御礼申し上げます」
とまあ、実際にその話を聞いたのはノーフェイスな訳だが、傭兵団が一月かけても遅々として進まなかった敵地攻略を僅か半日で片付けたのだ。兵士を維持する費用や現地の損害を鑑みれば、十分すぎる成果といっていいだろう。
クロノの代わりにコーンビスの言伝を預かってきたノーフェイスによれば、さっそく次の仕事に移って欲しいらしい。代わりに屋敷を始めとした領内の宿泊施設の提供、武器・道具・人員調達の為の資金供与と、まあ潤沢なサポートを受けられるらしいから、条件としては願ったり叶ったりだ。
「やっほー!!! ショッピングゥ!!! 楽しみだなあ〜ねえクロノンンゥ!」
という訳で今日は買い出しである。急がば回れとはいうが、ソシャゲもRPGも、基本はじっくりとした育成と、万端な準備が不可欠である。確かに突っ走ってシナリオを進める事はできるだろうが、それは兵站を無視した関東軍の大陸打通のようなもので、結局は損耗が多すぎてジリ貧になる。余裕、余力、腹八分目、最終決戦ならいざ知らず、まだまだ序盤ともなれば、準備で死力を尽くし、本番は八分の実力で臨むのが吉だろう。
「ところでリーナ様は、どういった召し物を買われるのですか?」
まあクロノにとっての問題はといえば、こうして未だにステラ・クロウの姿を取らざるを得ないという所だろう。不自然でなくノーフェイスと入れ替わるには、王道的RPGにおける「◯◯の酒場」で仲間を見つけた体にしなければ怪しい。
「はっはーん。ボクの身体の隅から隅まで知っておいて、いまさらそんな質問はいけないぞホシノリゾート〜。ほらほら、お姉さんのおっぱいに顔をうずめて、どんなサイズの服がいいか考えてみなさい〜」
く、くそう……立場と身体のせいでろくな反論ができない。これってパワハラじゃないか? いや物理的には天国だけど……ああノーブラおっぱい気持ちいい……
「わ、分かりませんよリーナ様! 私が聞いているのは、戦術的にどういう品を設えるかって事です! その辺は、戦闘のプロのリーナ様にしか分からないでしょう!」
しかして任務は任務。乳の海からぷはあと顔を出し、クロノは頬を膨らませる。何度も言うが、自然に仕草が女の子らしくなっているのを、彼本人はまるで知らない。
「おっ、真面目だねえクロロッピー。まあまあ、そこは着いてからのお楽しみってやつよ。ボク……お姉さんはちょっと……馬車の揺れでこうおやすみムード的な……スヤァ」
言うやかくりと頭が揺れ、次の瞬間にはくーくーと寝息が聞こえてくる。まったくこいつ、本当にどこでも寝れるんだなお気楽ヤローと、クロノはため息をつき項垂れる。
(しかしリーナクラフトのヤツ、レベル1で召喚された割には強かったよなあ……装備品も一通り揃ってるし。問題はこの装備が、この世界でどのレベルに位置するかって所なんだろうけど。それは今日見に行く武器防具屋で分かるだろう)
スマホの装備スロットを見る限り、リーナクラフトは最初から「光輝の剣」「光輝の胸当て」「光輝の具足」と、一通りの光輝シリーズを揃えている。これが銅やら鋼なら初級中級という所だろうが、名前の雰囲気からするに上級のそれである可能性が高い。
(ん〜、覚醒済み、みたいな特典がついた引きだったのか。ノーフェイスはどうだろう)
画面をスワイプし、ノーフェイスのステータス画面を見るクロノ。……なになに、ダガー、黒装束……追加スキルなし……ネーミング的にもいかにも初期装備といった風合いだ。
(これはノーフェイスの装備品を重点的に揃えたほうがいいかもなあ……)
リーナクラフトの光輝シリーズが、ほぼ全てにステート付与があるのに引き換え、ノーフェイスの装備品は明らかに必要最低限のものでしかない。今後のレベリングを考えると、素のステータスが低いノーフェイスにこそ、装備品で金をつぎ込むべきだろう。
(ねえノーフェイス、ノーフェイスはどんな装備が要るの?)
ひそひそ声で呼ぶクロノに、影のままノーフェイスは応える。
(はっ、隠密行動に適したものがあればそれで)
(素早さアップとか、移動力アップとか、そういうの?)
(はっ、忍びの基本は攻撃を受けない点にありますゆえ、重い防具や具足の類は不要かと)
(なるほど。となると、次はサイズがわかればなあ)
(はっ、それでしたら、マスターがご試着頂き、それでサイズが合っていれば拙者でも着れるかと)
(そっか、この身体だとほぼ体型一緒なのか……じゃあ店に入ったら欲しいの言って。僕が試着して、合ってれば買うから)
なんにせよ、特化型というのは扱いやすい。装備品も長所を伸ばすだけで済むので、下手にバランスを考えるより紙装甲でも回避率に全振りしたほうがいいだろう。
(はっ、ご厚意感謝申し上げるでござる)
うーん、そういえばこの怪しげなござる語。何が正しくて何が間違ってるんだろう。大量のキャラを投入せざるを得ないソシャゲの手前、話し方で差別化を図るのは仕方のない事なんだろうけど。外野にはまるで分からない。
と、そんなこんなとしているうちに、馬車は界隈最大級の都市、バースロイルに到着していた。
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