三章08:振興、バースロイル商店街 Ⅲ

「えーーーー!!! なに勝手に決めてんの馬鹿クロノッ!!!!!」


 翌日、声を張り上げるのはララミレイユ(素)である。まあ勝手にララミレイユ(本体)とのコラボレートを決めてしまったのだから、この程度の紛糾は想定内だが。


「まあまあ、これには深い事情がある。いいか、街の皆と関わればフレンドポイントが貯まる。フレンドポイントが貯まるとどうなるか? それはララ、君自信が強化される可能性が高まる」


「むむむ……そう来るか卑怯者め……」


「だからつまり、服飾の天才たるララミレイユがコラボレートに手を携えれば、事業も恐らくは大成功。フレンドポイントもがっぽり入って、僕もララも超強化間違いなしって寸法さ」


「ううくそっ……どのみちこれだけ面が割れれば、もうひとりのあたしにだってなんとなく感づかれてんだ……こうなったらやってやろうじゃねえか……」


 ようこそチョロヤンキー。こうしてクロノは、首尾よくララミレイユをララミレイユの店に連れて行くことに成功した。




「はじめましてーっ! 黒の旅団、切り込み隊長のララですっ! ララミレイユお姉さん、よろしくねっ!!!」

「はい、ブティックブーケランドのララミレイユです。よろしくおねがいしますね」


 ここからは便宜上、この世界のララミレイユをララミレイユ、召喚されたララミレイユをララと表記する。まったく、これソシャゲの世界ではどうやって処理してるんだ……? 同じキャラが二人いたらややこしいだろうに……




「そっか、じゃあララちゃんがこの防具のコーディネートを」

「えっへっへ、そうなんですよ。昔から冒険者になるのが夢で」


「へー、それじゃあお姉さんと一緒だね。架空の冒険者ギルドとか作っちゃって」

「そうそう、理想の装備品をスケッチしたり」


「切り込み隊長のララなんちゃら、なんて想像したり?」

「……」


「……」

「……」


 あーこれはやっぱりバレてるな。というか、違和感に最初から気づいてるよな……だって毎晩、寝る前に鏡で見る顔が目の前にいるんだから。しかしまあ、流石は同じ人物同士、趣味も志向も完全にドンピシャリで、作業は驚くほどスムーズに進んでいく。


「さすがねララちゃん、まるでわたしの考えている事が全部わかってるみたい」

「お姉さんこそ、まるでもうひとりのあたしみたい」


 結局、クロノがいたところで何の足しにもならないので、ギルドを回ったり、もう一つのコラボ先である武器防具屋で歓談したり、なんだかんだと手続きをしているうちに、数時間が過ぎていた。そしてその時間が過ぎる頃には、クロノ、ステラ、リーナクラフト、そしてララを象った「黒の旅団」グッズの、ひな形が既に出来ていた。




「まさか半日でここまで仕上がるなんてね……」

「当たり前じゃん、あたしたちがいるんだから」


「ふふ……」

「あはは」


 互いに拳をつきあい、ハグをする。西日の差す店内で、中々に尊いものが見れたなと思ったクロノは、顔を出すのもはばかられて戸棚の影に息を潜める。


「やっぱりあなた、わたしだよね? ララちゃん」

「ああ……黙ってたけど、あたしは、わたしさ……ララミレイユ・ブーケランドだ」


「ニュースを見た時は半信半疑だったけど、昨日、団長さんが連れてきた女の子の、コーディネートで確信に変わった」

「だよね……あたしもそう。わたしがコーディネートした服に防具をあわせてて、それで、その時かな。やっぱりわたしは……いいやあたしは、冒険者がやりたかったんだなって、改めて思った」


「おかしいね……今の人生に悔いなんてない筈なのに」

「おかしくないよ。悔いがなくたって、未練が残る時はある」


「あの時みたいに?」

「そう、あの時みたいに」


「お父さんがいなくなって」

「お母さんが残されて」


「でもわたしには、あたしたちには、本当は選ぶチャンスがあった」

「お父さんについていくのか、お母さんと残るのか」


「そしてわたしは、あの日のわたしは、お母さんと、この店を選んだ」

「そう、その事に後悔なんてない。ある訳ない。……でも」


「そうだね、もしお父さんに付いて行ったら」

「冒険者に……なれた、かも」


「ふふ」

「あはは……」


「行って、くるんだね」

「行って、くる」


「負けちゃ駄目だよ」

「負けるか、だってあたしは、わたしだぞ」


「そうだね」

「そうさ」


「いってらっしゃい」

「いってきます」


 そしてたぶん、ララはララミレイユと別れたのだ。バタンとドアが閉まる音がして、きっとすすり泣く声が、聞こえた。




「すいません、立ち聞きするつもりは……なかったんですが」

「クロノくん……ううん、クロノだね。こっちこそごめんなさい、こんな姿を見られちゃって……お化粧、落ちてないといいんだけど」


「落ちてませんよ。ララミレイユさんは、いつもどおり、お綺麗です」

「馬鹿言っちゃって……本当はまだ、ただの女の子なんだよ? わたし」


「知ってますよ……それでも無理して頑張って、精一杯背伸びしてる……ララミレイユさんだ」

「ふふ……そうだね。女一人で突っ立って戦うって決めたんだ。だから年なんて関係ない。……ありがとう、クロノくん」


「御礼には及びません。僕もあなたと出会えなければ、まともな服も揃えられなかった。……ララのこと、おまかせください」

「あたしのこと……頼んだよ。(どこからか来た……父さんに似た、あなた)」


「?」

「ふふ……なんでもないよ。言ってらっしゃい、アレイスター・クロウリーさん。そしてまたいつか、ここに戻ってくる事があったら、立ち寄ってね……ブーケランドのブティックに」


「……はい。では、今後ますますのご発展を祈念して」

「うん」


 軽く握手を交わすクロノとララミレイユ。彼女の身体からは、少女が精一杯背伸びした、お姉さんの匂いがした。

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