三章09:結成、クロウリーの旅団

 ――クラスSクエスト。

 その張り紙は、バースロイル・ギルドが発足以来、初めて出されるお達しらしい。9日目の朝、ギルドに赴いたクロノは、その常ならざる緊迫した雰囲気に、僅かだが気圧された。


「このクエスト、いったいどのような内容なのでしょう?」

「はい……実はバースロイル北方、メールベル山脈の瘴気の谷から多数の魔物が現れまして……現在、中央軍、南方軍の双方から部隊が招集され、周囲を閉鎖している状況なのです」


 受付嬢いわく、クラスSクエストとは国軍が動くレベルの非常事態で、請け負えるのはランクAをソロでクリアできる冒険者、またはパーティに限られているという。今回は中央政府からの増援を待つ間、名のある冒険者にも助力を請いたいとの事で、各ギルドにお触れが回っている状況らしい。


「なるほど、報酬は破格ですし……なにより政府に恩を売れるというのは大きい。請け負いましょう。出立は……現地までは自力でという事でしょうか?」


「……ありがとうございます。今回、現地へは本クエストを請け負ったパーティー全員で向かいます。昼休み明けににギルド前より出発しますので、それまでに準備を整えて頂ければと。ああもちろん、本日中に間に合わない場合は、明日も馬車を出す予定ですので、その点はご心配なく」


「分かりました。団員には急ぐよう伝えましょう。では」





「やっほーい!!! クラスS任務とか、ぜったい敵が強いやつじゃん!!!」

 

 宿に帰ると、既に朝のクラスA任務を終えたリーナクラフトが、バスルームから出てきた所だった。


「どうやら非常事態らしいからな……あまり浮かれないほうが良いかも知れない……ほらララ、起きろ」


 クロノは徹夜明けで爆睡中のララに一喝。頭をぼふと叩くと、彼女は飛んで跳ね起きた。


「いたたっ! なによクロノっ!! 素敵なレディがお昼寝してるのに!」


「御託は後だ。強化できるだけ強化してくぞ」


「えーちょっとー! 幼女誘拐反対〜!」


 叫ぶ演技のララと、それを無言で担ぐステラ・クロウ。かくして三人は、クロノの部屋に集結する。


「朗報……かどうかは分からないが、ララ。クラスSのクエストが開放された。バースロイルの北で、魔物が異常発生しているらしい。僕たちはこれから、その魔物を討伐に向かう」


 言うやFP全消費でガチャを回すクロノ。この一週間で貯まったポイントは49000。200連と少しあれば、それなりの装備が揃うだろう。


 ――結果、人員が4に、召喚石が3。他は強化素材や突破素材で、合間に出た装備品等々は売却に回す事にする。


「ふふ……悪い魔族ではないのですけど。フェリシアと申します」

「老兵と言えど我が剣に曇りなしッ! オルランド・グスタフッ!!!」

「バースロイルの平和は、この僕が守ります! ラピス・リカード!」

「私を喚んだか……? 黒の葬送……フューネラル・エメリッヒを」


 ……まあ、言うまでもなく全て☆2以下のレアリティである。見た目と名前と口上と雰囲気的には、四番目のフィーネラル・エメリッヒがダントツだが、これは見せかけだ……ステータスが余りに貧弱で、なんで喚ばれたのかさっぱりわからない。これならまだ喚ばれたてのララのほうが強いというのだから、マジでなんなんだ、こいつは。


 とりあえず強化素材と突破素材だけあれば即席でLV20〜30までは作れるから、今回のクエストにサブメンバーとして連れて行く事はできる。フューネラルを候補から外すと、残りは3人(うち一人は女魔族)だ。


「さて、今回は召喚に応じて頂き感謝する。皆にはこれより、魔族討伐の為にバースロイルより北、メールベル山脈にある瘴気の谷に向かってもらう。無論、出立にあたっての強化や、装備品の充当は行われるが……志願者はいるだろうか」


 こういうのはやりたいやつにやらせるのがいいだろう。とはいえ、まともに戦えそうなのは警備兵ラピス・リカード程度のようなものだが。


「僕が志願します! 故郷バースロイルを守る為に、この身を挺してッ!」

 

 おお……素晴らしい熱血漢だ。あと一人はおじいちゃんだし、ここはこの若者で決まりか……?


「待ってくれ!!! メールベルと言ったな?? なら儂を連れて行ってはくれまいか???」


 おっと予想外におじいちゃん騎士が手を挙げる……どうする、まさか本番でぎっくり腰とかになるなんて事はないだろうが……


「グスタフさん。あなたはなぜメールベルに固執を?」

「メールベルには、儂の孫娘が暮らしておる! 頼む、行かせてくれ……! 後生だ!」


 ふむ……事情が変わりつつある。どうあれ可愛い孫娘の為となれば火事場の馬鹿力も出るだろうし、今後の付き合いも踏まえると、ここで無碍にする訳にもいかない。


「わかった……ラピスくん、今回は強化素材に限りがある。ここはグスタフさんに譲って、街の守りに専念してはもらえないだろうか」


「……分かりました。微力を尽くします」

 

 正直、万が一に備えて、ララミレイユのガードマンは置きたかった所だ。並の剣士よりちょい上程度にまで育てて、ブーケランドの辺りに配置するのもいいだろう。


「ふむ……ではこの私、葬送のフューネラルは何処に往こうか? マイ・マスター」


「いや君は……ああ……えっと……銃後の守りを。鉄壁の布陣でお願いできないかな。そう、そうだ、麗しのレディが君を待っている。彼女の事を守ってやってくれ」


「理解した。貴君がそう望むのであればそうしよう。かくあれかし。汝らに死の祝福を。ククッ、クハハッ」


 すごい中二病の全開ぶりだ。こんなのがパーティにいたらうるさいだけだからなるだけ遠ざけよう……クソッ……どこがいいかな……彼女って言っちゃったし、ララミレイユの所しかないのか……?


「あら……ではわたくしはいかが致しましょう? 喚ばれてしまった以上、すごすご帰る事もできませんが」


 そして考えも定まらぬままに突きつけられるのが、最後の一人? 魔族のフェリシア。肌の色が紫という以外は人間の貴婦人だが、さてこの女人をどう扱うべきか。


「……ところでフェリシアさん、あなたは魔物の気配が分かったりしますか?」「ええそれは、魔族ですもの。殿方の匂いも、魔族の臭いも、どちらも嗅ぎ分けてご覧にいれますわ」


「ではフェリシアさん、あなたにはメールベルの案内をお任せします。瘴気の谷は異常事態に陥っていると聞きますから、我々のガイド役になって頂きたい」


「ちょ、マジ? クロノ、魔族なんて引き入れちゃっていいの??」


「まあ命令権は僕が握ってるからね。最悪の場合は……どうなるかわかってるよね?」


「はい。それはもう……それにわたくし、人間界の享楽に憧れておりましたの。こんな機会を逃して、みすみす魔界に帰ろうなどとは思いませんわ」


 となると即席のパーティは確定だ。リーナクラフト・ララ・ノーフェイスにグスタフ。そしてガイド役にフェリシアだ。タンク、壁役が不在だった現状を鑑みると、ララの盾役としてグスタフは機能してくれるかも知れない。


「じゃあグスタフさん、ラピスさん。フェリシアさん、あなた方には強化を施します。装備品はこれからそこの、ララと一緒に見てもらって……そのまま、メールベルへ出立です」


「フフ……マスターよ。ところで私には、どんな秘薬が齎されるのだ?」


「あ、あなたは……ええと、そのままで常人を凌ぐ膂力を有していますから……そこはハンデという感じで」


「ククッ……理解した。やはり強すぎるというのも罪な話だな……」


 かくして、レベル30グスタフ、レベル25フェリシア、レベル14ラピス、レベル1フューネラルと確定し、彼らはララに装備を見繕って貰った上、ギルド前に集合した。




「おいララ……あのフューネラルとかいうやつ、どうした?」

「あー……お姉ちゃんが気に入っちゃって、そのままお店でモデルしてもらうことにした……」


「あー、あいつ、見た目はいいもんな……」

「うん……あ、あたしはクロノのほうが格好いいと思うけど……」


 ちなみにここでいうお姉ちゃんとは、ララミレイユ本体の事である。結局どう呼ぶか迷った結果、先にいたララミレイユをお姉ちゃん、後から召喚されたララを妹と仮称する事で落ち着いたのだった。


「おおーッ! みんな揃ったねー! じゃあ行こうか! ランクSクエスト!!! 地獄の谷へ! レッツパーリー!!!」


 何も知らず、一人はっちゃけるリーナクラフト。いつもどおり寡黙なステラ・クロウノーフェイス。そして若干緊張気味なララ。ひたすらに気合十分なグスタフ。得体の知れないフェリシアと、ちぐはぐしたパーティは、用意された馬車に乗って一路、バースロイルの北、メールベルを目指した。同じく発った馬車は五つ、――それぞれのパーティの、それぞれの思惑を宿しながら。

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