三章03:任務、フレンドポイントの収集 Ⅲ

 久方ぶりの単独行、クロノは効率の良さそうなクエから優先的に処理していく。最初は火葬場、要するに昨日処理したゾンビの弔いだ。この手の仕事は不浄なるものとしてやり手が見つからず、単発高収入の触れ込みに誘われて現地に赴く。――マスタースキルのファイヤーボールを用い、これを難なくクリア。この時点で他のメンバーの状況も確認するが、異常はない。


 このスマホの便利な所は、各キャラの状況以外にも、クエストの受注・進行状況も表示される点だ(まあ気づいたのは今しがただが)これで他のメンバーとクエストが被るという心配もなく進められるのはいい。


 リーナクラフトは廃屋の幽霊調査。どうやら屋敷ごと綺麗さっぱり消し去ってしまったらしく、解体費用が浮いたとの事で追加報酬をゲット。


 ノーフェイス、もといステラ・クロウは、さる奥様の不倫調査。当然隠密のプロが相手に気取られる筈もなく、昼下がりの情事をばっちり押さえ、相手方の家庭はボロボロだろうが、こちらの懐はがっぽりといった具合だ。


 ララミレイユはというとスタートから二時間で四件をクリア。三人中最速ペースだ。迷い猫は自宅近くで保護、万引き常習犯は、ララミレイユの店でも悪事を働いていたらしく、恨み倍返しで検挙。不審者も左に同じ。あとは昨日寄った武器防具屋で、呼び子として夕方まで居座るつもりだ。恐らく、武器の使い方や素材のノウハウについても、仕入れてくるに違いない。


 なんとも望外に順風満帆。クロノはというと最初の火葬場での魔法使いとしての力を買われ、そのまま廃棄物処理やら野焼きやらに連れ回された。どうやら魔法使いというのは雇うにも金がかかるらしく、こうして安くこき使えるのは貴重なのだそうだ。それを知っていればもう少し値段を釣り上げられたろうが、今はプレイヤーレベルとフレンドポイントの獲得が第一である。あまり文句は言っていられない。


 そうこうしているうちに否は落ち、集合場所のギルドにぽつぽつと全員が集まってくる。トータルのクエスト達成数は、クロノが4,リーナクラフトが3,ノーフェイスが4に、ララミレイユが10だった。




「10?? ララちゃんどうしたのいったいっ!!」


 内容はともかく、数の上では惨敗のリーナクラフトは、悔しそうに声をあげる。


「あっはっは、武器防具屋の掛け持ち中に、臨時の修理依頼やらコーディネート依頼を加算してもらったって訳!」

 

 うまい、さすがはアパレル店員。そういうところは如才ない。――というか、キャバ嬢みたいな仕事が向いてるんじゃないだろうか。


「私は可もなく不可もなく、ですね。もう少し稼げればよかったのですが、マスター」


「いいや、ノーフェイスも面倒なクエお疲れ様。みんなも、今日はがっつり食べてゆっくり休もう」




「お疲れ様でした。それではクエストの精算を行いますので、少々お待ち下さい……こ、これは、流石ですね。初日でトータル20クエストオーバー。4人パーティとしては過去最高記録ですよ、これは」


 思わず唸る受付嬢。しかしてまあ、普通パーティってのは団体で動く前提だし、ランクの低い任務ばかり選んだ今日の内容だと、普通に不正だとクレームが来そうだ。


「はあ、そんなものですか。と行ってもランクCのクエストがメインですから、報酬は大したことないのでしょう?」


「いえいえ、これだけ積もればボーナスがつきますし、下手なランクAクエに数日かけるより遥かに高収入ですよ。っていうか、ランクBをソロで3つとか化物ですか……」


 最後のほうでうっかり素が出る受付嬢。当の化物はと言うと、さっきからハラへハラへと呪文のように呟いているだけで、傍目にはその少女こそがそれなのだとは、まるで分からないだろう。


「なら良かったです。まだこの街に来たばかりですので、暫くはクラスC・Bのクエストを周回しつつ、様子を見られればと」

「周……? はあ、かしこまりました」


 おっと、周回なんて言葉はソシャゲでしか使わないか。そもそも同じクエが毎日ある訳でもなし、その辺は臨機応変に対処ということで。


(お、プレイヤーレベルが一気に上がった。レベル9。取得スキルは……)


 既存、位置補足、体力譲渡、ファイヤーボール。

 取得、フリーズ、サンダーボルト、ヒール、スキャン。


 定番ではあるが……無いよりはマシか。分かりきった属性攻撃魔法に、序盤を乗り切る回復呪文。体力譲渡は自分のHPを削る必要があったが、こっちは自他問わず回復できるので、当然ながら勝手はいい。スキャンはトラップを見定める効果らしいが、果たして使うタイミングはあるのか……


(本音を言えば、エスケープみたいな脱出系と、何かしらのワープ系が欲しかったが……)


 まあ移動系の呪文はRPGならではといった所で、マップ間が点の事が多いソシャゲにあっては存在すらしないのかも知れない。消費系アイテムか、英霊が誰か覚えるのか、或いは現地人を雇う必要があるのか。いずれにせよ、考えなければならない問題の一つではあるだろう。 


(……で、フレンドポイントは、3800。行ける行ける10連行ける!)


 こちら側に来てはじめての10連、これは結構高まるものがある。宿に帰ってからじっくりと回そう。


「じゃあまた明日も来ますんで。お疲れ様でした」


 この辺の住人、一月分の給料を余裕で抱え、一行はほくほく顔で帰途についた。当然道すがら、おいしいごはんに舌鼓を打ちながら。

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