三章02:任務、フレンドポイントの収集 Ⅱ

 昼休み明け、ギルドの再開を待って向かったクロノたちは、そこで大いに歓迎を受ける。コーンビス直達のお触れがあった事に加え、到着早々に二つのクエストをクリア――、それも指名手配のモンスターを駆除した事が大きかったらしい。


「指名手配モンスター?」

 

 ぽかんとするクロノに、窓口担当者は「ヒュージスライムですね」とだけ返す。なるほどあのヒュージスライムが、指名手配モンスターの一匹だったって訳か。


「あのヒュージスライムは、自分より強い相手には決して襲いかかりません。という事は、駆除の為に囮を使う必要があるのですが、強いパーティには囮になるようなメンバーはおらず、かといって弱いパーティでは太刀打ちできず、囮を雇うリスク、下水道という悪条件等々が絡み合い、結果として野放しにされ続けてきたという訳です」

 

 なるほど。これで合点がいった。クロノとララミレイユという格好のカモネギの影の中に、ノーフェイスなる伏兵が潜んでいた事を、あのヒュージスライムは気づけなかったのだ。報奨金を見れば昨日の出費を差し引いても黒字になるレベル。そこにゾンビと他のスライムの金が上乗せされるから、コーンビスの軍資金がなくても暫くは安泰なほどに潤ってしまった。


「そしておめでとうございます。コーンビス様のお達しで元々ワンランク高いクエストからの受注が可能でしたが、今回指名手配モンスターの討伐もクリアなさいましたので、ランクAにご昇格という事になります」


 受付いわく、ギルドのクエストにはランクが設定されているらしい。――まあ、どこの馬の骨とも知れない輩に重要なクエストを依頼できる訳もないから、この設定は妥当だろう。要約すると、Dが入門編。役所から寄せられた雑用。次いでC、ここで市民からの依頼がぽつぽつと加わるが、基本はDの延長線上。命に関わるクエストはない。そしてBになってようやくモンスター討伐が追加される訳だが、まだ低級、兵卒経験者レベルならどうにかなるクエストしか受注できない。その中で切磋琢磨し手配モンスターを駆除して初めて、ランクA以降のクエストを請け負う事ができるのだ。


「といった次第で、現状これらのクエストの中からお選び頂けますが、いかがいたしましょう」


「あ、でしたらランクCのクエストから行きますよ」


 一応、ギルドに入る前にアレイスターと化しているクロノだが、この返答には周囲も受付も、いささか拍子抜けしたような様子だ。――が、これにはこれで理由がある。 

 

 クエストクリア報酬を得た直後、クロノのスマホは通知を受信。目を落とせばプレイヤーレベルの上昇を告げていた。ここから推し量れるのは、クロノというゲームのプレイヤーは、モンスターの討伐ではなくクエストのクリア時に経験値が得られる仕組みなのであろうという仮定。


(ならば簡単なクエストから順に片付けたほうがいい。プレイヤーレベルを上げて、それから――)


 ――フレンドポイントの存在である。現在の仮説では、この世界の住民と関わる事で徐々に貯まっていく可能性が高いのがFPだ。ランクCのクエストなら、必然的に住民とは関わらざるを得ないし、もしこれで貯まるようならば仮説はQED。いつ手に入るか分からない絶唱石よりフレンドポイントを貯蓄して何十連か回す。そこから何が出てくるのかという点も、データとしてまとめておかなければならないだろう。


「えー、クロちょんそんなのあり? 退屈すぎじゃない? ねえねえモンスター討伐〜まだ見ぬ強敵との出会い〜」


「あたしも身体動かしたいんだけどっ?! 変な気を遣わないでね!」


 沈黙を守るステラ・クロウ(ノーフェイス)を除けば、ブーイングの嵐である。まあ血気盛んなメンツの事だ、致し方もない。


「まあまあわかった。リーナ(ちゃん)は好きにやってきていいから。でもララは駄目だぞ。昨日危ない目にあったの覚えてるだろ? まずは簡単なクエストで身体を慣らして、それからじゃないと。――ステラも、頼む」


 猛獣は飼いならせない。リーナクラフトに限ってはそうだと諦めたクロノは、ランクBの任務から適当に見繕う。本人はやる気だろうが、まだ全盛期の力には程遠いのだ。せめてレベルぐらいはカンストさせてからじゃないと、危険なクエをソロでは任せられない。


「おっけーおまかせ! ガッツリ斬って、ガッツリ稼いでくるからね! それじゃ、行ってくるね!!!」


 と、指示書の束を掻っ攫って、リーナクラフトは駆けていく。いやほんと暴風雨みたいな子だなと唖然と見つめるところ、ララミレイユが口を開く。


「昨日はごめんな……あたし、なんか調子に乗っちゃって……ま、まあ今日から気を取り直して行くから、よろしくな!」


 かわいそうではあるが、ララミレイユではクラスCのクエストですら時に危険を伴うだろう。一対一ならともかく、不意打ちや複数の暴漢が相手となれば、流石に分が悪い。


「うん、とりあえず簡単そうなクエストからガンガン攻めよう。みんなの状態は三十分おきに僕のほうで確認するから、ともあれ勝手に遠出せず、無理をしないように」

「おっけー! この街ならあたしの庭みたいなもんさ! 任せて!」

「はい。では私のほうも任務に向かいますね、マスター」


 こうしてめいめいに依頼書を抱え散開。クロノはフレンドポイントの獲得に乗り出すのだった。

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