二章08:店員、ララミレイユの活躍 Ⅱ

「うーん、この胸当て、金具でケチってる。やめたほういいかも」


 それから武器防具を見繕いにいったクロノたちは、早速ララミレイユの鑑識眼に救われる事になる。元々服屋の店員である上に、冒険者に憧れて知識だけは仕入れていた手前、どんなに見栄えをよくした装備品も、ララミレイユの目を誤魔化す事はできなかった。


「ちょっとまってね〜。実はさ、ステラちゃんの服、ちゃ〜んと武器防具と合うように選んであげてたんだよね。こっちの胸当て、薬草入れるポケット付いてるでしょ。うん、取り出しやすい。厚手のタイツに、膝当てとブーツ。グローブは握りやすいのがいいね。お手入れ前提だけど、長く使うならやっぱり革かな? あ、あと消臭剤は忘れずにね!」


 こちらも一瞬である。ステラ・クロウの外貌はまさにベテランの道具屋、アイテム士と言わんばかりの格好に相成った。もうちょっと使い込んで年季が出れば(性別を除く)見た目で馬鹿にされる事はそうそうあるまい。


「次はあたしね! あたしね〜、剣士に憧れてたんだ。小柄な身体で大剣を振り回す〜みたいな! ウッ……!!!」


 だが意気軒昂に剣を手にとったララミレイユは、そのずっしりとした重さに耐えきれずうめき声を漏らす。クロノがスマホで確認すると、どうやらまだ筋力の数値が足りていないらしい。


「ララミレイユさん……今のレベルだと無理みたいですね……主に筋力が」

「うう……ララでいいよ……で、でもやっぱり駄目か……くそ〜、ただのショップ店員に振り回せるほど世の中あまくないか……」


「えっとじゃあ、ララの適正だと……今の所ダガーか、クロスボウあたりが無難かなと」


 まあ筋力がない時点で前衛は無理だし、かといって魔法が無理だから魔法職もない。ダガーもクロスボウも、せいぜいが護身用という事になるだろう。


「じゃあメインにクロスボウ、サブでダガーか……いかにもだけど、しょうがないね……」


 少し落ち込み気味のララミレイユだが、それはそれとしてコーディネートはしっかりしている。少なくとも見た目だけは腕利きのレンジャーといった装いだ。


「は〜、いいですね。ん……そういえば」

 

 クロノはすっかりノーフェイスの装備品を忘れていた。それからホシノクロノ(男)バージョンの衣装も。まあ背丈はさほど変わらないので、それぞれ魔道士用と隠密用に分けて選んでもらう。


(なるほど、武器防具のスロットが複数あるのはこの為か……)


 ソシャゲ七不思議の一つ。なぜか大量に持たねばならない武器。というのはまあゲームそれぞれだが、このロストヒライスは、一応メインウエポンとサブウエポンという括りで分けられていて、他の防具の分類は理屈で理解できる範囲ではある。なおララミレイユに見繕ってもらった膝当てやタイツ等々は、防具の「カスタム」という形で処理されるようだ。お陰で数値はだいぶ伸びている。


(あれ……ジョブとかってあるのかな……それによって装備適正が変わるとか)


 まあやりこみゲーにはジョブやらクラスってのもつきものだ。見た感じ、リーナクラフトは「勇者エイセス」とあるし、なんとそこに至るまでのジョブツリーが全てコンプリートされている。当然マスターボーナスだとかも含まれる訳だから、なるほどこの時点でスタートラインが違うと、改めてクロノは理解する。


 が、ノーフェイスはというとジョブツリーの最下層「シノビ」のまま。ララミレイユは仕方がないしにしても、どうやらやはり、リーナクラフトだけは特別な補正を受けて召喚されたらしい。ガチャでいう覚醒済みとか、強化済みって括りで。


「おっけー! 揃ったよ〜」


 と、気がつけばララミレイユのショッピングタイムは終わっている。ならばあとはリーナクラフトの装備品だけだなと思う所だが、肝心の本人がいない。


「あ、ありがとうございます! ちょっと待ってくださいね……」


 どうやらスマホのカメラをかざすと、ARの要領で現在の装備品との数値差が分かるらしい。とりあえずリーナクラフトの「光輝」シリーズと、店内の武具を比べるべく、クロノはカメラを向ける。


(は〜、これは……)


 おおよそ、辺境の都市が取り扱う武具の、10倍程度の値を光輝シリーズは示している。これは駄目だ。チートだ。リーナクラフトの持つレアリティも鑑みれば、恐らくいくら低レアの雁首を揃えた所で太刀打ちもできなかろう。


(う〜ん、暫くはララとフェイスを重点的に育てたほうがいいなあ、これは)


 ララミレイユが戦闘向きでない事は重々承知ではあるが、本人自身も冒険者を目指す手前、無下には出来ない。なんにせよ人手が足りない現状、ララミレイユにも最低限の立ち居振る舞いはしてもらうことになるだろう。


「はい、こちらもおっけーです。それじゃララさん、私たちもぼちぼちお店をでましょうか」


 リーナクラフトは……まあ放っておいても勝手に合流してくるだろう。最悪、スマホを使えば位置なり場所なりは把握できるから、こちらから迎えにいってもいい。――こうしてクロノたちの買い出しは終え、彼らはその日の宿へと向かった。コーンビスから預かった軍資金はまだ半分以上残っており、以外とあのおっさん太っ腹じゃねえか(見た目も)と感謝するホシノクロノであった。

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