三章04、限凸、ララミレイユの強化

 宿へ戻った面々(満腹即就寝のリーナクラフトを除き)は、神妙な面持ちでクロノの部屋に集う。理由は明白、此度この地にて、転生後初の10連ガチャが執り行われるからだ。一応、人員が増えた場合を想定し、宿には友人が宿泊する旨を伝えてはある。


「さて、この異世界にやってきた僕の、唯一のまともなスキルはこれ――、ガチャと呼ばれる召喚魔法だ。最も今のところ分かっているのは、絶唱石と呼ばれる石か、フレンドポイントと呼ばれるポイントを消費する事で行使ができる、という点のみなんだけどね」

 

 いつになく厳かなクロノの雰囲気。そして意味ありげに轟く窓外の雷鳴。あと茶々を入れてくるリーナクラフトの不在、様々な条件が揃った結果、あのララミレイユですら固唾をのんで見守っている。


「今日、みんなに退屈なクラスCクエストをこなしてもらったのは、まさにこのFPを獲得する為にあった。おかげでポイントは3800、10連召喚の為の布石は、今ここに整ったって訳だ」


 無意識に大仰なポーズをとるクロノ……もといアレイスター。果たして人が出るか蛇が出るか。万感の期待を込めたガチャが、今まさに回される。


「わっ、眩しっ!」


 以前、ララミレイユの召喚を目の当たりにしたノーフェイスは慣れたものだが、初体験となるララミレイユは案の定戸惑っている。外でひときわ大きな雷鳴が鳴ったのに合わせ、10の光が室内に顕現した。


「装備品、装備品、強化素材、強化素材、ドラゴン、強化素材、強化素材、強化素材、強化素材、回復アイテム……ドラゴン???」


 まあこんなものかと復唱しておきながら、小さくちょこんと座った可愛らしいドラゴンに、クロノは頓狂な声をあげる。


「なにこれ、かっわいー!」

「いやなんだドラゴンって……いやむしろトカゲって感じだが……こういう場合、トカゲって呼ぶと怒るんだよな、オイラはトカゲじゃねえ!!!みてえな感じで……」


 まずは考察を巡らせるクロノ、ついで何も考えず手を出すララミレイユ。そしてそのララミレイユになつくトカゲ(ドラゴン)。


「おいララ、勝手に!! ……ってこれは、おお?」


 強化素材のうち「星屑の欠片」と記載されたものが、ララミレイユの星の上に輝きを齎している。どうやらこれが、レアリティ星1の為の、限凸用素材らしい。


「待ってろララ……行くぞ……それ!」


 トカゲ(ドラゴン)と戯れるララミレイユに、星屑の欠片を分け与える。すると淡い光が彼女を包み、次の瞬間にはレベルの上限が10増え、基礎ステータスも大幅にアップしていた。


「うわっ……なんだこれ??」

「もういっちょ、そらっ!」

「いやっ……んんっ、こんな……」


 これにて無事10/30。やはりレアリティが低いキャラは育成も楽なのだ。そして限凸に合わせスキル・ジョブも解放され……こ、これは。


(ドラゴンテイマー……なんかすごい強そうなジョブがあるんだが……)


 見ればツリーの最後に「ドラゴンテイマー」の項目がある。今現在が見習い剣士、次いで解放されたのが見習いサモナー、サモナー、ソードサモナーと続いてのドラゴンテイマーである。そして眼前には低レアなれどドラゴンもどき。これは中々に当たりの引きではなかろうか。


「おいララ。調子は……どうだ?」

「なんかすっごい力を感じる……ちぎっては投げちぎっては投げ的な……」


「聞いて驚け……お前、サモナーの素質がある」

「は? なにそれ……あんまり格好良くないんだけど」


「召喚魔法使いだよ。今回の限凸でドラゴンテイマーまではなれる事がわかった」

「ドラゴンテイマー!! 一気に格好良くなったんだけど??!」


 これが本当にあのお姉さんかよってぐらい単純で素なララミレイユに、さしものクロノもため息を漏らす。だがこれでララミレイユが足手纏いになる可能性は低くなった。ソードサモナーは一種の魔法剣士だし、クロノの前の後衛ぐらいのポジションでは頑張れるだろう。


「ああ。いまララに懐いているドラゴンを、やがてはそのまま使役できるようになる。ただ魔法に通ずる必要はあるから、嫌でも勉強は怠るなよ」


「オッケー!!! こう見えてもあたし、服の勉強とかかなり得意だからね、そこは任せといて!」


 随分と頼りになる返事で、ララミレイユの限凸はあっけなく終わった。問題はノーフェイスの限界突破だが、この子は高レアリティなぶん、素材の要求も多いのだろう。少なくとも今回のFP召喚では有用な素材が見当たらなかった。


「ごめんステラ、ステラの強化は今回は無理だった」

「大丈夫ですよマスター。忍は忍らしく、月影に映える事だけを考えておりますので」


 となると最終的に目指すべきはランクB〜Aのクエストか。一週間ほどフレンドポイントの獲得に務め、全員がLV40前後に到達した時点で、ランクAのクエストに挑むのが良いのかもしれない。


「さて、じゃあうまい具合にララの強化も終わったことだし、今日はゆっくりと……」


 しかし、そこまで告げたクロノに、ララミレイユの冷たい視線が刺さる。


「なんだ?」

「ねえクロノ、せっかくあたしが強化されたってのに、このままお別れおやすみなさいしちゃうつもり?」


「……」

「ねえ、お姉さんと……夜通しいいことしない?」


「……いやララ、全然僕より年下だったじゃん」

「……つべこべ言わない! はい! 行くよ! 訓練! クロノ!」


 いつの間にか意味ありげな雷鳴は止み、やれやれとかぶりを振るステラ・クロウに見守れらながら、クロノは夜の町に引きずり出されていく。こうしてララミレイユのレベリングを終え、クロノが無事床についたのは、結局今日も夜の白み始めた明け方だった。

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