一章02:勇者、リーナクラフトの召喚 Ⅰ
煌めく白銀の甲冑、溢れ出る光輝は希望そのものを示し、神気を纏う少女は降り立った。――厳かな託宣を口にしながら。
「――っていうの、やってみたかったんだよね! やっほー! 元気! はじめまして! ピッチピチノリノリの現役
が、それらは一瞬で台無しになった。さながら面接でだけ印象の良かった新卒生が、入社した途端にボロを出すそのように。
「えっへんボクの名前はリーナクラフト・アーメンガード! 呼んだのはキミだよね? まあそもそも、こんな風に呼ばれること自体はじめてなんだけど!」
このキャラの変遷。地味で真面目な委員長タイプが口を開くと、実はオタクで腐女子でなんたらかんたら。――知らない人ならちょっと引いちゃう系の。
「で何? また魔王を倒しちゃうぞ〜! みたいな? いやあ前回はボク、ボロックソに負けちゃったからね〜! でも大丈夫だよ! 今度は大丈夫! 勝てる勝てるよ絶対勝てる! ね、お姉さんにまかせて!」
なんて弾幕だろう。ホシノクロノが一言も返せぬまま、恐るべき無呼吸連打がジャブロージャブローひたすらに打ち込まれる。
「あれ? そういえばキミの名前は? どこ住み? どこ中? 好みは? 嫌いな食べもの! あ、ボクは野菜が嫌いだよ。好きなのはンヌブルドゥドゥーグ! この辺じゃ当たり前だよね? え、知らないって顔? 信じらんない! 今度ボクがおいしいお店に連れてってあげるね! ンヌブルドゥドゥーグの!」
いやなんだよンヌブルドゥドゥーグって。知らねえよそんなの。せめてまだムァグロとかカツウォヌスとかそういうネーミングなら想像もつくが。
「あー、えっと。ホシノクロノっていいます。よろしく」
「ホシクロ!!!! クロちゃんでいい? クロちゃんです! ぴゃ〜辛気くせえ!!!! でもボク、そういうの気にしないから。ね、ホッシー? よろしくね!」
う、うぜえ。底抜けにうぜえ。だがスマートフォンの画面は、このキャラに☆5の表示を出している。☆5といえば、基本的なソシャゲの最高レアリティに属する数値だ。
「あ、ああ。こっちはなんて呼べば? リーナ? クラフト? アーメンガード?」
「はっはーんほっくん! そこはもっとフレンドリーでいいんだぞ! ボクとキミの仲じゃないか! リーナちゃん!とか リーナちゃんとか……リーナちゃんなんてどうかな?」
選択肢がない。いやこんなのが勇者なんてどうなってるんだこの世界は。だがよくよく考えると、高レアリティのキャラクターほど様々な属性が付与されて語尾も動作も不可思議になるというケースはままある……驚く事ではない。
「リーナクラフト・アーメンガード。――第十六代勇者候補生筆頭格。三十二代中最強と囁かれる、光の剣の使い手。少年と偽っていたが、その実は少女。一人称のボクは、当時の立ち居振る舞いから自然と身についてしまったもの」
「おおーッ! お姉さんのストーカーですかキミは??? はい。ええ、おっしゃる通り、ボクは生前男の子として生きざるを得ませんでした。おまけに女の子に戻れないまま無惨にも殺されてしまう始末。ああ、その積もった怨嗟の結果がこの、なんかちょっとはっちゃけたいな〜みたいな。久しぶりにちゃん付けで呼んでもらいたいな〜みたいな」
――意外と重い理由だった。確かに情報には、魔王軍との死闘の末惨殺との記載がある。それからどの程度の時が過ぎているかは不明だが、久しぶりの現世ではしゃぎたくなる気持ちも、分からないではない。
「なるほどリーナちゃん。ええと……リーナ、ちゃん。実は僕もこの世界についてはまるで分かっていないのですが、恐らくは、今回も。魔王討伐という流れで間違いは無いと思います」
「まーやっぱりそうなるよねー。正直ボク、今度こそは女の子らしい格好でイケメンとイチャイチャして子作りなんかしちゃって、近所で噂されるくらい綺麗な奥さんとして生涯を終えたいなーなんて思ってたけど」
「あーいや、でも魔王を倒せばそういう事もできるかもしれませんよ。というか多分、魔王を倒さないと僕たちも殺されます。だってあなた、リーナちゃんの代から倍になっても、いまだに勇者はやられ続けてるんですよ」
「あーなるほど!! そうきたか!! わかる、わかりみ、ボクわかっちゃうな〜そういうの。はー。やるしかないのか。怖いなあ嫌だなあ。あーでもせっかくの女の子ライフを満喫する二度と無いチャンスだし」
腕を組んで考え込むリーナクラフト。快活なショートカットに、健康的な双脚。こんな様では当時から少年で通すのは無理だったのではと思わぬではないが、黙ってさえいれば十分に美少年……というか美少女である。
「よし決めたッ! さっさと魔王を倒して、ボクはボクの青春をもう一度謳歌する!!! と決まれば行こうクロノトリガー!! ボクたちの輝かしい未来の為に!!!!」
天を仰ぎ拳を握りしめるリーナクラフト。次にむんずと掴まれるクロノの襟首だったが、これが少女の力と目を丸くしている間に、哀れな少年の身体は近くの街まで引きずり降ろされていた。
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