第二十九章 薄暮
第二十一回 李矩は洛を救って漢兵を破る
漢主の
▼「韓王の旧塁」は
郭黙の救援を受けて
この時、劉琨の麾下にあった
李矩は夏縣に人を遣ってともに漢兵を退けることを求め、二将は
劉燦が戦を怖れていると知ると、李矩は甥の
その出発に際して言う。
「趙固は太子を救援しなかった。必ずや異心を懐いていよう。動静を探って不審なところがあれば、捕らえて平陽に送って朕に見えさせよ。その際は副将の
劉暢たちは洛陽に向かい、劉燦の軍勢と会してその言葉を伝えたものの、まずは趙固の様子を探ることとした。
この時、
劉聰に上奏して言う。
「趙固は李矩から
劉聰はその言に従い、詔を下すと王沈の腹心の者を洛陽に遣わす。その使者は洛陽に入る前に李矩の兵に捕らえられた。李矩は詔を一読すると、趙固に送って晋に降るよう説得した。
趙固は詔の内容を知って怒り、周侲を斬って晋に降った。
※
劉燦と劉暢が郭黙を破った後に趙固を捕らえる算段をしていると、間諜が駆け戻って報せる。
「趙固が周侲を斬ったようです。謀が漏れたと思われます。洛陽に拠って吾らを阻むつもりと見られます」
劉暢はそれを聞くと、趙固を破るべく軍勢を洛陽に向けた。趙固は漢兵が攻め寄せたと知ると、兵を出して迎え撃つ。劉雅が陣頭に馬を出して叛乱の理由を問うも、趙固は応えず鎗を捻って突きかかる。
戦が十合にならぬうちに卜泰の率いる後詰も攻め寄せ、趙固は敗れて洛陽に逃げ込むと城門を閉ざして堅守する。劉暢は軍勢を分けて洛陽の城門を包囲した。
二日に渡って昼夜を問わず城を攻めるも、暗夜に城上から石を打ち落とされ、無数の漢兵が死傷する。そのため、三日目からは日中だけ城を攻め、夜には軍営に兵を退けた。
漢の大軍を退けられぬと知り、趙固は夜陰に乗じて人を遣わし、滎陽にある李矩に救援を求めた。この時、李矩は郭黙と合流するべく軍勢を率いて城を出ていた。
軍営で趙固からの要請を受けると、李矩は郭誦、范勝、
郭黙は郭誦に言う。
「趙固は洛陽の城に籠もっており、すぐには崩れるまい。吾らは漢兵の五分の一を過ぎず、どうやって退けたものか」
「間諜によると、漢賊は日中に城を攻めて夜間は軍営に退くと聞きます。これは、趙固を苦しめるためでしょう。かつ、趙固が吾らに救援を求めたと知らず、まだ百五十里(約84km)も離れていますから、気づいてはおりますまい。一計により打ち破れましょう」
衆人は郭誦にその計略を問うて言う。
「救援が迫っていると知れば、漢賊どもは兵を分けて吾らに備えるであろう。そうなっては勝ち目がなかろう」
「敵が大軍であれば正々堂々の戦では勝てません。詭計によるよりないのです。軍勢を二つに分けて夜間にのみ進み、昼は姿を隠して漢賊に吾らの兵数を知られてはなりません。夜陰に乗じて攻めかかり、『吾らの軍勢は漢賊に二倍する。乱戦を避けて整然と包囲し、一人たりとも逃がすな。これまでの仇に報いるのはまさに今日である』と声を合わせて叫ばせます。漢賊どもは吾らの数を知らず、暗夜であれば確かめられもしません。必ずや浮き足立って乱れるでしょう。それを観れば、必ずや城内も兵を出します。そうなれば、漢賊どもは到底踏み止まれますまい。怖れるに足りません」
郭誦の言葉を聞くと、郭黙も言う。
「この策を用いれば、必ずや漢賊どもを打ち破れよう。どうして漢賊を怖れようか」
それより、郭黙と耿稚は一万の軍勢を率いて左の道を進み、郭誦は范勝と
その夜のうちに九十里(約50km)を進み、昼間は山間に身を潜めて漢兵の眼を避けた。まだ漢の軍営までは六十里(約33.6km)ほど離れている。
時が来ると、鬨の声を挙げて一斉に斬り込む。
漢兵は敵がどこから来たかもわからず、当然のように備えはない。慌てて鎧を身に着けるも割れるような大音声が響く。
「二十万に上る大晋の軍勢が洛陽を取り戻して仇に報いに参った。漢賊を一人も逃がすな」
それを真に受けた漢兵はさらに混乱し、暗夜にあっては敵か味方かも分からない。同士討ちが始まった。漢の二つの軍営は互いに連繋もできず、負傷した者の
洛陽城内の趙固は漢兵の哭声を聞くと、大いに鬨の声を挙げて討って出た。
劉燦は晋兵に包囲されるかと懼れ、軍営を捨てて逃げ奔る。卜泰は劉燦を見失い、軍営を捨てて兵を引いた。漢兵は指麾する者を失い、互いに損なって死傷する者は数え切れない。
逃げ延びた漢兵が劉暢の軍営に駆け込んで叫んだ。
「太子は逃れられ、行方が分かりません」
劉暢は大いに愕き、軍営を捨てて兵を返した。
晋兵はその後を追わず戦場に残る敗卒を掃討し、漢兵は二万を超える兵を喪ったことであった。
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