第十七回 張咸は梁州を以って成に帰す
民に課される
加えて、連年の豊作により盗賊は鳴りを潜めて鶏犬も愕くことがなく、人々は道に落ちた財貨も拾わず、夜間に戸に鍵をすることもない。
その反面、官吏たちは無闇に昇進したが職に対する給料はなく、口利きなどで民から財貨を得て暮らし、将兵は練られず紀律も失われた。これらは平和であるがゆえの弊害であった。
※
晋の
先に刺史の
「張光は
王敦もその言に同じ、朝廷に上奏を行う。晋帝の
張邁が赴任して将兵を握らぬうちに、
州の僚属たちは張光の甥にあたる
梁州の寡兵では楊難敵に抗いがたく、張咸は晋朝に救援を求めようとしたものの、遠路でもあって急場を救えそうもない。近隣の郡縣も頼みにできず、梁州を捨てるよりないかと悩んでいた。
張邁の妻の王氏が言う。
「士民は張氏の徳を重んじてくれました。州の人々を見捨てたくはありません。賊はすでに逼っています。逃れたところで追いつかれる
「仰るとおりです。しかし、敵は強く吾は弱く、このまま留まっては進退に窮することとなりましょう」
そう言うと、張邁は
「一計を得ました。これで梁州を守り抜けましょう」
そう言うと、書状を
使いの者は
▼「徐輦」は『後傳』『通俗』ともに「徐挙」とするが、前段より推して改めた。
楊難敵は梁州の城を囲むこと十日を過ぎても城を落とせず、逆に数千の兵を損なっていた。そこに成の援軍が来たと知り、軍勢を仇池に返す。
張咸は自ら成都に向かい、李雄に見えて恩を謝した。李雄は張咸を梁州の統治を委ねることとした。
※
漢の
「大国である吾が大漢に救援を求めず、成のごとき小国に救いを求めるとは。必ずや征して降してくれよう」
すぐさま上奏を認めて
「関中と梁州は山を挟んでいるものの成に近く、出兵すれば必ずや救援を出しましょう。一たび怨みを結んで仇敵となれば、必ずや大軍を遣わさねばならぬ事態に陥りましょう。また、元老が朝廷を去った後、計略に長じた者がおりません。そのため、先には
「朕も久しく曹嶷が不臣の心を懐いておるとは知っておる。朝廷に召還できるならばそれはそれでよい」
そう言うと、詔を下して
※
曹嶷は
「靳準と
参謀を務める
「仕える主君を軽々しく変えるべきではありません。しかし、漢に身を置けば
曹嶷はその言に従い、上奏して太傅の職を辞退した。
※
曹嶷の使者を迎え、劉聰は言う。
「曹嶷は齊の地に拠って天下を
范隆が言う。
「ふたたび詔を下してその罪を責めるべきです。入朝せぬならば、代わりに米穀と銀を十万ほども差し出すよう命じられればよいでしょう。従えばよし。従わぬならば、軍勢を発して
劉聰はその策を容れて詔を下し、ふたたび青州に勅使を遣わした。曹嶷は漢の恩を思い、五万斛の兵糧、
その荷が届くと、劉聰は大いに喜び、祝宴を開いて慶賀した。その席である者が、王沈の侍女に
傍らにあった者たちは、酔いに紛れた冗談と思って王沈に従わぬよう勧めたが、王沈は劉聰に取り入るべく夜陰に乗じてその侍女を後宮に送り届けた。
劉聰はその侍女を皇后に冊立し、月華に次ぐ地位を与えた。
臣の聞くところ、王者が皇后を立てるにあたっては、皇帝は天であり日であり、皇后は地であり月であるがため、必ずや代々の名門より貞淑なる令嬢を選んで天下の望みと宗廟の祭祀にそぐうようにするといいます。それでこそ、皇后として天下に臨み、後宮を治めることができるのです。
このことは周代より連綿と続けられており、『
今、陛下は欲を
周の
▼「厲王」は春秋時代の周の王、賢臣を退けて佞臣を寵用し、国人の暴動により都を
劉聰はその上奏を見ると怒って言う。
「一婦を納れただけでお前たちは朕を厲王のごとき暗君に比するというのか。朕を
王鑒が駁して言う。
「臣は陛下を蔑ろにするつもりは毛頭ございません。婢女を皇后に立てることは理に適わぬのです。たとえ王沈の娘であったとしても、刑罰を受けた者の娘です。後宮に入れるには相応しくありません。まして、王沈の婢女など言うにも及びません」
「すでに皇后として立てたにも関わらず、後になって朕の過失を言い立てるつもりか」
曹恂と崔懿も言う。
「宦官の婢女など、下賎も下賎と言わねばなりません。誰が皇后に立てるよう勧めたのですか。士大夫にとって大切な冠の傍らに汚物を置いて穢すようなものです。このようなことが史書に載れば、後世にまで謗られましょう」
劉聰はついに靳準と王沈に三人を斬るよう命じた。王沈は三人を庭に引き出すと、王鑒を杖で殴って言う。
「これ以上は悪事を働くでない」
王鑒は睨みつけて言う。
「賊めが、大漢を乱す者は必ずやお前であろう」
崔懿も靳準を顧みて言った。
「お前は獣心を懐き、国の患いとなろう。それゆえ、婢女が皇后に立てられても一言の諫言も口にせぬ。王沈のごとき小人と結んで大漢の国威を衰えさせるつもりであろう。吾にはお前の内心など分かっておる。だが、お前が人を食うのであれば、人もお前を喰らおうとするであろう。どれほど意を尽くそうとも、行き着く先は滅びである」
曹恂はただ言う。
「大丈夫が死に場所を得たのだ。言うにも及ばぬ。お前たちのような国賊は、必ずや誅殺されよう。吾らは先に死んでその末路を見られぬだけのことだ」
そう言うと、三人は従容として刑につく。その様を見た者で涙を流さぬ者はなかった。
その日、
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