第三十五回 遊光遠は乱を劉曜に告ぐ
漢の
宿に泊まっていると、前を一群の人馬が通りかかった。内より窺い見れば、
「
気づいた関河が馬より下りて言う。
「一族ともに蜀に帰ろうとしている。後ろには
呼延寔とともに宿に入ると、
「吾が父は命を捨てて平陽に向かわれる際、
「二人がいる
「吾が父は逆賊の手に殺され、骸の在処も分かりません。この賊とは決して共に天を戴かぬ決意です。一同して長安に向かい、趙王とともに逆賊を滅ぼしてその心臓を亡魂に奉げるのが悲願です」
関濤の言葉を聞いた関心が言う。
「そうではない。趙王もまた福をともにするには難しい。
諸葛武も傍らより言う。
「しかし、これは不幸中の幸いとも言えます。劉曜が平陽に入ったところで靳準を侮って備えようとはしますまい。先手を打たれれば、ともに滅ぼされていたところです。
関心が同じて言う。
「その通りであろう。吾と呼延寔が長安に入り、ともに逆賊を滅ぼせば足りよう。余の者たちは蜀に向かえ。道には賊徒も多くある。必ず一同して難を避けよ」
諸葛武が
「ご心配には及びません。
「蜀までの道を阻むのは
「逆賊どもには必ず報いがある。必ずや打ち滅ぼして戻る」
甥たちの心配に呼延寔はそう言うと、関心と呼延寔は長安に、その他の者たちは蜀に向かって別れた。
※
二人は馬を駆って長安を目指し、日ならず劉曜に見えた。
「靳準めが大逆を行い、娘の靳太后を除く劉氏の一族三百人を皆殺しにしました。先帝の陵墓は暴かれて棺は焼き払われ、自らは統漢天王と称して政事を執り、腹心を朝廷に布いております。このため、吾らは平陽より逃れてお報せに参ったのです。兵を発して仇に報いねばなりません」
それを聞くと、劉曜は昏倒して半時ほども声を出せなかった。その顔色は青ざめて冷や汗が絶えず滴り落ち、体の震えが止まらない。
「死んだ者は生き返らず、去った者が還ってくることもございません。悼んでも無益なのです。大丈夫たる者はただ恥を雪いで大義を表すのみ、悲しみ悼んだとて体を損なってはなりません」
しばらくすると劉曜は立ち上がり、西を指差して叫んだ。
「恩義に背く逆賊ども、大漢の厚禄を受けながら吾が宗廟を覆すとは。知恵は犬豚にも及ばず、悪逆は蛇蝎にも過ぎる。吾は必ずやお前たちを踏み殺してやる。平陽で生きながら肉を噛んでこの怨みを晴らしてくれよう」
そこに遅れていた遊光遠も到着して言う。
「主上は吾が言を
その言葉を聞くと、劉曜が言う。
「尚書は民を治めるのが職務、吾に代わってこの長安に鎮守せよ。
そう言うと、平陽に向かう軍勢の部署が始まる。
「平陽にあった旧将の多くは去り、ただ靳準の腹心の者ばかりとなっております。兵は四十万を下りますまい。中でも
遊光遠が諌めると、劉曜は言う。
「
「臣の父が襄國におります。臣が赴いて説得いたしましょう。父と張孟孫は呢懇の仲、必ずや逆賊を滅ぼすために兵を挙げましょう」
劉曜はその言葉を容れ、書状を認めると王震を襄國に向かわせたことであった。
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