第十九回 周筵は命を奉じて周劭を討つ
周劭と周勰は
▼「周馥」は
この時、
周馥は刑戮された時に周劭と周勰は幼く、報復もできなかった。それより時が過ぎて二人は成長し、
「王敦が兄の王澄と弟の王稜を殺して荊州に拠り、不軌を企てている」
そう言うと、叔父の周札の命を受けたと偽って兵を募って戦仕度を進める。呉興郡び
▼「功曹」は官吏の人事を司る。
徐馨は一計を設けて宴会を開き、その席で袁琇を口説き落とそうとしたが、忠義に背くと
「この宴は何のためのものか」
袁琇の言葉に徐馨が言う。
「今、
「今や江南は平穏となり、朝廷に従う軍勢が
袁琇が駁すると、徐馨は従う者に言う。
「こうなっては、殺さねば兵を挙げられまい」
男たちが袁琇に斬りかかろうとすると、郡府に従う
「兵を挙げるならば勝手にしろ。目上の者に手を出すでない」
一党が怯み、それを見ると周勰が自ら袁琇に斬りかかる。袁琇と僕隷は膾に斬り刻まれて命を落とした。
周勰と徐馨は郡の府庫を収めると船を集め、あわせて兵を募って糧秣を積む。軍備を整えつつ、吉日を選んで挙兵するばかりとなった。
※
近隣の郡縣からの上奏が建康に伝わり、晋帝はすぐさま百官を集めて事を諮った。先手を打って兵を差し向けるべきとの意見が多くあるも、王導が言う。
「臣がこの件について意を定めるまで、いささかの時間を頂きたい」
それより半時ほど沈思するところに晋帝が意見を問う。
「再三考えますに、兵を遣わしては必ずしも利がありません。大軍であれば三呉の民を愕かせ、逃げ散じて生業に差し支えましょうし、寡兵では賊徒を平定できませぬ。さらに、周氏は代々の功臣です。軍勢を遣れば周勰は必ずや抗い、一門を余さず刑戮せざるを得ません。周勰の族兄にあたる
晋帝は周筵を御前に呼んで言う。
「卿の一族の周勰が徐馨と結んで太守の袁琇を害し、叛乱を企てておると聞く。呉興の周氏は代々の忠義の家であるにも関わらず、にわかに叛乱を企てていると聞き、百官も驚愕しておる。卿はこれを善しとするのか」
「周勰はよく存じておりますが、懦弱にして決断を欠き、このような大事は起こせません。たとえ起こしたところで、何事もなせますまい。徐馨と
周筵が出発の用意を終え、餞別の際に晋帝が言う。
「呉興では覚られぬよう留意せよ。聞くところ、周札が内にあって主謀しているとも言う。それが事実であれば対処は難しい」
「それは
建康を発った周筵は、先に周札の許に人を遣わす。
「老齢のゆえに官途を辞し、周勰が逆を図っておるとは知らなんだ」
周勰の行いを知った周札はそう言うと、真偽を問うべく子の
「吾が家は代々忠孝で知られているにも関わらず、周勰は大過を犯して滅門の害をなそうとしておる。ここではっきりと言っておく。叛乱に与することは許さぬ。不義を働いて自ら滅びを取るようなことはやめよ」
そう言うと、周續を杖で打って一室に押しこめ、周札は自ら宜興の縣令である
「企てが漏れたと知れば、賊徒どもは事を起こす。事情を伏せて縣内の兵を集め、すみやかに備えを設けるのがよい。遅れては賊徒に制されよう」
孔侃は五百人ほどの兵を集め、官府の防備を固めた。
※
周札が周續を杖打って叛乱への参加を禁じたと知り、周勰は兵を挙げられず家に潜んでいた。徐馥が周勰に進退を諮っているところ、孔侃が周札とともに兵を集めて官府を固めたとの報せが入る。
「先には周公(周札)の命により兵を挙げて刁協と王敦を討つと聞いていたが、今の話を聞く限りすべて偽りであったか。このまま騙されていては一族が滅びかねぬ。周公は官兵についておられる。戦となれば万に一つも勝ち目はあるまい。徐功曹を討ち取って罪を
周勰に与していた人々はそう言うと、一斉に徐馨がいる官府に向かう。徐馨は変事を知ると兵に命じて門を閉ざし、侵入を防いだ。
官府に集った人々は門に火を放って焼き払い、徐馥は兵を率いて討って出るも寡兵では抗いがたい。一人も残さず討ち取られる。徐馥の首級を挙げた勢いを駆って官府に踏み込み、ついで徐馨の首級を挙げる。その一族は残らず焼き殺された。
それより人々は宜興の官府に向かい、その道すがらに周筵と行き合う。周筵が事情を問うと、人々は拝して罪を謝した。
「自首すれば刑戮は免れられる。それに、お前たちはすでに主謀者の徐馨たちを討ち取っている。罪は許されよう」
人々は拝謝すると、一同して宜興に向かった。
孔侃は周札とともに周筵を迎えに出る。
「孔縣令は何ゆえに叛徒の一族を同席させておられるのか」
周筵が周札の姿を見て言うと、周札が周續を打ってその身を禁じ、叛乱の事情を報せた経緯を孔侃が語った
「周劭と周勰が叔父上の名を借りて叛乱を企てていると申し立てた者があり、朝廷は吾に命じて罪を治めるよう命じられたのです。吾が家に人を遣って調べさせたところ、幸いにも叔父上は義によって孔縣令とともに叛乱に与した子の罪を正し、徐馨を討ち取られた。このことで叔父上の潔白は明らかにできましょう。しかしながら、周氏一族への疑いを雪ぐには至りません。周勰を捕らえてはじめて、朝廷に叛意がないと認められましょう」
周筵が厳しく言うと、周札が応じる。
「詔を受けて義によれば、一族の者であっても討ち取らねばならぬものだ。吾はそう覚悟して久しい。勅使に命じられずとも、叛乱を企てた者たちは必ず除くつもりだ」
周札は一軍を率いて家に向かい、周勰を捕らえた。
「叛乱を主謀したのは吾ではありません。兄の周劭に従っておったのです。吾がこのような大事を企てられましょうか」
「吾が名を
周勰の弁明が容れられることはなく、周劭とともに縣の獄に繋がれた。周氏は豪族であるために孔侃は自ら尋問を行わず、周筵が自ら尋問にあたった。
「何ゆえに一族の滅びをも顧みず、大逆を図ったのか」
周劭が答える。
「吾が父は罪なくして害され、その怨みは忘れられません。弟も長じて成人となり、
周筵はその言葉に感じて公務より私情を優先した。周勰の身を獄に繋いだまま周劭を斬刑に処すると、孔侃よりその首級を建康に送らせて周劭、徐兄弟の罪と周札の忠義を上奏する。あわせて周勰の死罪を赦して祭祀を絶やさぬよう願ったのである。
晋帝はその上奏に従い、周筵の官を
罪を赦された周勰は庶人に落とされることなく周氏の祭祀を司るよう命じされ、叛乱に与した官吏は三月分の俸禄を削るのみと定められた。
国家に勲功のある周氏に対し、最大の配慮が行われたのであった。
※
「周札には子を打って叛乱を平らげた功績がありますものの、その叛乱は周氏の一族が企てたものです。罪を赦されることはあれど、官職を与えるべきではありません」
ある者がそう上奏したものの、王導が駁して言う。
「
▼「華軼」は三国時代に魏に仕えた
晋帝はその言を
司馬睿が即位するより、江州からの糧秣は建康に届けられていない。実は、華軼が私情によって司馬睿の命を拒んでいたのである。王導の政事は寛容を旨としていたため、これまで罪を問われなかった。
この頃になると、華軼の不法を上奏する者が多くなり、ついに朝廷でも問題とされるようになったのである。
「華軼には際立った治績はなく、殊勲と言えるほどの軍功もございません。それにも関わらず、封爵を加えられれば朝命を奉じるなどと言っております。これは臣としての礼を欠くものです。ましてや、これまで租税を建康に送っておらず、罪を治めねば天下に示しがつきません」
晋帝が方策を問えば、多くの大臣はそう言って討伐を求めた。晋帝はその意見を容れ、檄文を送って華軼が従うかを見極めるよう
「江州は久しく朝命を奉じておりません。必ずや討伐に備えておりましょう。にわかに攻め破れますまい。まずは軍勢とともにその隙を窺いたく存じます」
周札がそう言うと、朝廷は
華軼はこれらの事情を知ると、麾下の
周札は江州の軍勢が厳戒を布いていると知り、朝廷にその旨を上奏する。晋帝は華軼の行いを知って怒り、詔を下して
華軼は諸軍が揃って侵攻してくると聞くと大いに懼れ、周廣に言う。
「馮逸は卿の姻戚であろう。密かに彼に見えて官兵を退けられれば、吾らは主と仰いで従うと伝えよ」
周廣が
「華公は朝命に逆らって官兵を拒もうとされている。しかし、決して退けられまい。吾らもその罪に巻き込まれてはならぬ。卿が馮公を
周廣はその勧めを容れ、書状を認めると馮逸の許に人を遣わした。馮逸は書状を得ると、宋典と趙誘とともに軍勢を進める。華軼は自ら周廣と衛典を率いて迎撃に向かった。
両軍が対峙して戦が始まらないうちに、衛典と周廣が叫ぶ。
「官の大軍が到ったからには、抗う者は三族を滅ぼされるものと心得よ。吾とともに叛賊の華軼を誅殺せよ」
華軼は大いに愕いたものの、両面に敵を受けては戦にならない。弟の
周札が馮逸、趙誘、宋典と軍勢を合わせて城下に向かえば、
周札は罪を赦して仮に州の政事を委ね、士民を安撫するよう命じた。高悝は朝廷より太守を遣わされるよう願って
高悝は江州に太守を赴任させるよう求めるとともに、上奏して言う。
「華軼はただ、陛下が洛陽を恢復して漢賊の仇に報じるよう求めていただけであり、他意はございませんでした。先に柴桑に軍勢を駐屯させたことも、自らの身を衛るとともに、衆人と是非を論じたいと願っていたのです。官兵に抗うつもりはありません。また、祖父の華歆は
晋帝はその上奏を
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