跋─本編完結にあたって─
ここまで通読頂いたみなさま、本当におつかれさまでした。長い長い百八万字を超える、蜀漢の滅亡から逃れた劉氏の物語はこれにて完結となります。長すぎ。何人が完走できましたことやら。
お付き合い頂き、誠にありがとうございました。序が二回、跋が二回という変則的な形となりましたが、平にご容赦願います。
※
『続三国志演義─通俗續三國志』「第五回 蜀雄は乱を避け興業を計る」に語られるとおり、
そのため、劉曜も
漢の国運の短さを嫌ったわけですが、幼児期に起きた
もう一人の英傑、趙雲の孫である
劉淵たちが始めた蜀漢再興の事業を継ぐ者はなく、ここで終わるよりなかったのです。事業は継ぐ者があってこそ事業ですから、再興を望む人心が離れれば失われるよりありません。
そのため、『続三国志演義Ⅲ』は劉曜が大趙天王として自立する第三十九回を最終回として本編を完結させました。『続三国志演義』が蜀漢再興の物語であるとするならば、事業の終わりが物語の終わりであるからです。
※
第四十回からは蜀漢再興の物語から離れ、江南に拠る
往時の三国時代との違いは、すでに
さらに、
異民族の存在感の違いが、往時との大きな違いと言えましょう。
※
五胡十六国の遠因に
當今の宜は、宜しく兵威の方に盛んにして眾事の未だ罷まざるに及び、
以上は抜粋ですが、関中にある羌や氐を移して漢人と雑居させないよう述べています。現代の移民論争にも一脈を通じるものがあるように感じました。
社会が発達して分業が進めば、人の往来が激しくなるのは当然です。時代の趨勢ですからこれを防ぐことは難しい。
それこそ、黄河を東から西に逆流させようと企てるようなものです。大勢には抗えません。
また、漢人は被害者であり、かつ、加害者でもありました。あの逞しい民族が追われるだけであるはずもありません。
河北を追われたものの、湘水の沿岸では
これらの動きは後漢から活発化したように思いますが、一面では北からの圧迫が漢人の南下を引き起こしたようにも見えます。
東北アジアの民族の移動は、常に西から東、または北から南に行われており、例外は限られます。神武天皇、日本武尊も西から東に向かっていますから、日本とて例外ではありません。
この時期の民族移動は、そういった大きな変化の流れの中で起こった事象と捉えられます。
だから、「徙戎論」は机上の空論に過ぎなかったのでしょう。問題を正しく指摘してはいても、行うことは極めて難しい。
異民族との雑居は不可避だった。文化の衝突もあるでしょうし、偏見から発する諍いも当然のように起こる。
そのような問題にどう対処すべきかは、後の河北王朝の課題となり、五胡十六国から南北朝を通じて学習していくことになったのだと捉えています。
そして、その一つの結論が、隋唐世界帝国だったと考えると、この学習に三百年ほどかかっていることになります。気が遠くなりますね。
民族は人ほどに顕著な学習効果を得られないと思いますが、漢民族のこういった経験値には空恐ろしいものを感じざるを得ません。
現実世界でも同様に、世界的な人の流動がさらに大きくなると予想されますし、同じように考えておられる方も多いかと思います。
日本のように島国という地勢から異民族との交流が限定されてきた国家は文化的、民族的な雑居をほとんど体験していません。だから、「不快な隣人」の存在に対する拒否感は強くなります。
そうなると、「徙戎論」のような議論を目にすることも多くなるだろうと思いますが、中国史を知る人間からすればおおむね「いつか来た道」をもう一度たどっているようにも見えてしまいます。
そういった文化的な衝突と対処事例を知るうえでも、五胡十六国から南北朝という時代は格好の教材となるかも知れません。
単に「オモシロい人が多いから」という理由でこの時代を好んでいるだけですが、そういう名分も立つかも知れないなあ、と思ったので書いておきました。
現状、漢文を読めないとこの時代のことを知るのは難しいので、もっと入口のハードルを下げられるとよいのですけどね。
※
一方、本編は完結しましたが、『通俗續後三國志後編』は全九十七回あり、まだ五十八回ほど残っております。これらについては「余録」としておいおい翻訳を進めていくつもりです。
『続三国志演義Ⅲ』の三十章の後に続ける形になります。
とはいえ、『続三国志演義Ⅱ』の「跋」でも述べたとおり、原作である『三國志後傳』が未完ですので、
それほど急いで進めるつもりはありませんが、ご興味の向きは引き続きお付き合い頂ければ幸いです。それではまた。
平成三十一年(二〇一九)、三月十八日
続三国志演義III─通俗續後三國志後編─ 河東竹緒 @takeo_kawahigashi
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