第三十八回 劉曜と石勒は靳準を滅ぼす
趙の
「すぐさま斬り捨てよ。軍勢を
怒ってそう叫ぶと、謀臣の
「
劉曜はその言に従い、喬泰の縛を解いて謁見することとした。
「卿らは漢の旧臣でありながら、何ゆえに靳準とともに宗族を殺戮して陵墓を毀ったのか。恩義に背く行いとは思わぬか」
喬泰は血が流れるほどに地に額を打ちつけると、
「喬将軍に忠心がないわけではなかったのでしょうが、靳準の威勢が大きく、その姦計を阻むことはできなかったでしょう」
劉曜もその含意に気づいた。
「朕も喬将軍が不忠の人でないとは知っておる。少帝が人倫に
翌日も喬泰を呼んで言う。
「丞相が少帝の罪を正さねば、朕が大位に
喬泰は平陽に馳せ戻ってその言葉を靳準に伝える。
「劉曜の言葉は本心に違いあるまい。劉燦がおっては劉曜は帝位に即けぬ。今や仇を捨てて利をとるとは、帝王の度量というものであろう」
靳準は喜んだものの、
「これは吾らを
靳準はついに劉曜を拒むと心を決めた。
※
靳準の一族の
「丞相は趙王(劉曜)を迎えて臣下として仕えられると聞き及んでおります。何ゆえに防備を固めておられるのか」
将兵が問うと、靳康は言う。
「そうと決まったわけではない。兄上たちは趙王の言葉を計略であるとお考えだ。そのため、劉曜を拒むこととなろう。お前たちも気を引き締めて敵に備えよ」
それを知ると、喬泰とその上官の
「吾らは先帝に仕えた漢の良臣である。今や靳準の一族が大逆を図り、吾らも不忠の身となった。趙王が到着すれば、罪されることとなろう。それを避けるために趙王との和議を主導したものの、靳準たちはそれをも拒もうとしておる。関中、襄國、青州の軍勢は日ならずこの平陽に到ろう。防ぎきれるはずもない。吾らはともに不義の名を受けて死に、後世にまで汚名を残すこととなろう」
馬沖も同じて言う。
「まことに公の言うとおり。靳準は劉氏を滅ぼした。大軍が城に臨めば、
その言葉に駁する者はなく、馬沖は馬を飛ばして卜泰の許に向かった。劉曜の姻戚でもある卜泰は喜んで先頭に立ち、将兵を率いて宮城に踏み込む。
※
この時、靳術と靳明は毛勤、丘麻とともに堂上で進退を論じていた。鬨の声を聞いて立ち上がると、卜泰が率いる一軍が向かってくる。短刀を抜いて防ごうとしたものの、王騰や馬沖、喬泰はいずれも戦慣れしている。王騰が一刀の下に毛勤を斬り殺した。
丘麻は逃れようとしたものの、卜泰に討ち取られる。外にあった孟漢と
「死生はこの数刻にある。心して敵を防げ。進むも退くも、吾らに従え」
馬沖、王騰、喬泰、
兵が靳準を捕らえて戻ると、靳術が叫んだ。
「お前たちは兵に過ぎぬにも関わらず、何ゆえにこのような無礼を働くのか」
「逆賊めが妄言をほざくな。誰ぞこの賊を斬り殺して大将軍(
兵たちが争って鎗を突き、靳術は針ねずみのようになって息絶える。卜泰は毛勤、丘麻、孟漢、方寔に靳術の首級を挙げると、人を遣って趙王の許に届けるよう命じた。
靳準が叫ぶ。
「少帝は人倫に悖って人々が殺したのだ。どうして吾に罪があろうか」
喬泰が罪を数えて言う。
「お前はかつて酒を売る小人であった。それが漢主に用いられてこのような富貴となった。その恩を思わず奸悪を行い、君を弑して陵墓を
兵たちも口を揃えて言った。
「趙王の御前に供えて罪を定めて頂くのみです。ここで論難しても意味はありません」
卜泰が駁して言う。
「それはならぬ。この賊の口舌は鎗よりも甚だしい。趙王を誑かして吾らを罪せぬとも限らぬ。そうなってはこの勲功も虚しくなろう。首級を挙げて献じるのがよかろう」
「
王騰はそう言うと、一刀の下に靳準を斬り殺す。馬沖が首級を挙げた。
※
喬泰は二千の軍勢を率いて赤壁にある趙王の軍勢を目指す。六人の首級は箱に納められている。平陽に残る王騰たちは仮に靳明を主として王沈と
これは、靳氏の族滅を避けることを願うためであった。
靳明はすでに趙王の降り、石勒の兵を退けるために人を遣って経緯を伝え、軍勢を返すよう求める。
「吾が近郊にあるにも関わらず、遠く赤壁の軍営に投降するとは。吾を欺いたに等しい」
石勒が怒ると、使いの者が言う。
「喬泰を遣わしましたが、明公に許されなかったために趙王に降ったのです」
「先には属国になりたいと願ったが、これは吾と同列になりたいと言うに等しい。それをどうして許せようか。本来であればお前を斬って罪を正すところだが、一命だけは許してやる。平陽に還って靳明に自ら来るよう申し伝えよ。さもなくば、城を攻めて生きながら擒とし、屍を微塵に砕いてくれる」
石勒がそう叫ぶと、使いの者はほうほうの態で逃げ帰っていった。石勒の軍勢は平陽を包囲し、靳明は恐れて喬永に言う。
「卿の兄は趙王の許に向かってまだ還らぬが、石勒は今にも城を攻めようとしている。密かに城を出て趙王に見え、救援を求めよ。そうせねば、城内の民は老幼を問わず殺戮されよう」
喬永は夜陰に乗じて城を抜け出し、一路赤壁の軍営を目指した。
※
喬永から救援の要請を受けると、劉曜は遊子遠に問う。
「石世龍が平陽を包囲し、靳明が救援を求めておる。援軍を出せば逆賊を助けることとなろう。石勒は漢の仇に報いようとしており、仲裁するにも角が立ちかねぬ。どうしたものか」
「問題ございません。一万の軍勢を平陽の近郊に進めて喬永を城に入れ、靳明には一族とともに城を抜けて吾が軍勢に投じるよう伝えさせればよいのです。必ずや信じて城から逃げ出しましょう。その時には、少帝(劉燦)の仇として討ち取り、罪を正せばよいのです。石勒には、攻城を援けようと軍勢を出したが、靳明が怖れて自ら投降したと言えばよいことです」
劉曜はその策を容れて喬永に言う。
「
喬永は命を受けると平陽に還って靳明に報せ、靳明は馬沖に是非を問うた。
「石勒の軍勢はいよいよ城を厳しく攻めております。趙王の命に従わねば、死しても身を葬る地もありますまい」
靳明は弟の靳康とともに一万の精鋭を集め、日が暮れた後に一族の者たちと
翌日、早朝から石勒の軍勢は平陽に攻めかかる。城内の兵たちは、靳明や靳康、それに王騰、馬沖、卜泰、秦璉、喬永など主だった者たちが城を捨てたことを知り、城門を開いて石勒の軍勢に降った。城内の民は道の左右に伏せて軍勢を迎える。
石勒は宮城に入ると堂上に上がり、高札を掲げて民を安んじるよう命じた。その後、逃げた靳明を追うべく軍勢を発する準備を進めるところ、劉雅からの使者が現れて言う。
「
それを聞くと、石勒は追撃の準備を止めて平陽に留まったことであった。
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